生源寺眞一のレビュー一覧
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2011年の日本の農業についての現状報告と提言の書。著者は東大教授で、農政にも深く関わってきた人物である。
TPPへの参加が検討されている現在、農業分野がネックになっていることは確かである。そのための食糧自給率の問題がカロリーベースであったり、減反政策や戸別保証などの政策から説明している。
日本は歴史的に、1ha程度の農民が戦後たくさんできて、都市のサラリーマンと比べて所得が低いことなどや、兼業農家(労働時間が少ない)こと、大規模農家も10ha以上では効率が変わらないことも含めて、解説している。
日本は、専業農家的なところと、機械化によるそれほど労働をしなくても大丈夫な兼業農家が混在し、 -
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「農学」という、いまいち何をしているのかイメージの湧かない学問の全体像を解説してくれる新書。
「小さな大学」と形容されるほど幅の広い農学の輪郭を、①農業経済、②食糧科学、③生命科学、④環境科学の4つの側面から描き出す。
各章では、著者の研究の紹介も交えながら農学の各分野の方法論や問題意識が紹介されている。
具体的な研究内容については、特に生命科学あたりは文系の私にはやや難しかったものの、生物選択の理系高校生ならそれほど苦労なく読めそうな感じ。そして理論自体を理解できなくとも、各分野の農学の研究者が何を考え、何を目的とした研究をしているのかというイメージを形成するには充分な知見が得られたと思 -
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ウルグアイ・ラウンド実質合意前夜から2010年民主党政権までの日本農政の歩みをトレースする。
→農政の中の人が、官僚的玉虫色かつ二転三転の農政をそのまま素直にトレースしてくれるので、経緯こそ丁寧に分かるが少し取り付きにくい所がある。新書だし、もう少し見取り図的な解説が充実していてもいいのに。
取り上げる政策は、コメの生産調整と「担い手」育成
→「農協の大罪」では農地に焦点が当たっていたのが印象的だったが、こちらは人に焦点を当てる(農地の議論も出てくるが)。
安全保障としては自給率もともかく、非常時の2000kcal/人・日の食料供給力が必要。これが危険水域に入っている。
筆者は、「担い手 -
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冒頭、TPPについて触れられていたので、TPPをどう考えるべきか勉強しておきたかった自分にとって、興味深かったのだが、結局直接それに対する結論は書かれていなかったように思う。それは残念だったが、先に読んだ「日本の農林水産業」とは別の論点を提示しており、面白かった。「日本の農林水産業」では、農地の集約化が最重要課題としていたが、本書では、集約による「コストダウンの効果が現れるのは10ヘクタール程度までの規模で」あると、具体的なサイズに言及していたのは説得力があった。また、「農業の規模については、アメリカの農場並みの規模に到達することで、日本の農業の競争力も飛躍的に向上するといった議論もある。…筆
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ネタバレ歴史的な経緯を踏まえてファクトを知るのに良い本です。
記憶に留めておきたいファクトを記しておきます。
・生産額自給率はカロリー自給率ほど低くない。
・80年代後半まで生産は拡大していた。
・畜産物・油脂類の消費拡大が自給率低下に繋がった。
・販売農家:農産物年間販売額50万円以上、又は農地面積30a以上
・生産物の出荷が皆無/少額の自給的農家が、総数約250万戸の36%。
・稲作農家総数約140万戸の73%が作付面積1ha未満。
・国内の稲作のコストダウン効果は10ha程度まで。
・最終消費された飲食費のうち農業水産業に帰属した価値は19%に過ぎない。 -
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日本の農業が抱える問題点を概観できる。10ヘクタールまでは作付面積を増やせば平均費用を減らすことができるにもかかわらず、販売水田農家の73%が1ヘクタール未満しかない。作付面積が3ヘクタール未満では、農業所得が農業外所得より低い。1時間あたりの農業収入が1000円を超えているのは、養豚、北海道の水田作と畑作のみ。これでは、農業の担い手が減り続けるのは当然だろう。
米の価格と流通は2004年に自由化されたが、生産調整は40年間も続いている。食料確保のための政策は必要だが、生産者の創意工夫を活かし、意欲を高めることができる政策への足取りが遅い。政治が機能していないというか、選挙対策や政権争いによ -
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ネタバレ作付面積が大きくなるにしたがい費用は低下していくものの、一部の例外を除いて、日本でコストダウン効果が出てくるのは、現時点では10ヘクタールまで。規模の拡大に伴う圃場の遠距離化と田植の可能な期間が20日間と短いことから、人手と作業機械に大きな制約があるためだ。したがって、価格という点で米国とは大きな差が生じているのが現実。また、高齢化、低年収など、担い手問題は喫緊の課題となっている。加えて農政が未来へのビジョンもないまま迷走逆走を繰り返しており農業経営者の不安を募らせている。他方、日本の農産物の輸出額は輸入額の10分の1に過ぎないが、それでも年々増加している。しかも輸出先は今後も発展が期待される