生源寺眞一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
食料・農業・農村政策審議会委員を勤めた農業の専門家による日本の農業の現実と将来性について述べたもの。実務に携わった専門家であり、農業の歴史と現状、有効な施策について現実的な提言がなされている。記述が緻密かつ正確で、日本の農業の置かれている立場と政策の善し悪しがよくわかった。極めて貴重な研究書といえる。印象的な記述を記す。
「自然相手の農業にリスクはつきものだが、近年の日本の農業に関する限り、農政の迷走状態の方が深刻なリスクファクターである」p95
「いま必要なことは現実の農業に関する偏りのない理解の醸成であり、日本の農業にできること、できないことを見極める作業である」p98
「(いま求められ -
Posted by ブクログ
戦後農政は、常に時代の荒波に翻弄されてきた。そんな中にあっても、農業政策の立案作業に携わってきた歴代の先人たちは、大海原の彼方に見え隠れする将来のあるべき農業の姿を見極めようと、惜しまぬ努力を積み重ねてきた。
生源寺先生は、数々の政府会合の委員として、農政の意思決定の現場に立ち会ってこられた。本書では、時代の変遷とともに、農政に携わる人々の意識がどのように変化してきたか、その背景に何があったかが、克明に記される。
現在、農政を揺さぶる大波は、過去に例をみないほどの高さに達している。その効果であろうか、世間の注目度も格段に高まっている。このチャンスにこそ、我々は農業の将来展望を人びとに力強く訴え -
Posted by ブクログ
友人に借りた本だったが、良書だった。
日本の農業について中立的な立場で知りたいという読者向け。
昨今では「農協が悪い」「TPPは参加するべきではない」等の感情論が飛び交う農業であるが、本書はその日本の農業について客観的に分析していたため、現状を冷静に把握できた。
その所以は筆者が農業の「歴史」という点に着目して述べているからだろう。
主だったテーマは「自給率」「農政」「コメの生産」等であるが、農政については政策が設定された歴史的な背景や目的から丁寧に記述されているため、深く理解することができる。
1つ難点を挙げるなら、過去の農業政策や農業経済等といったテーマが多いため、農業や農政を全く知ら -
Posted by ブクログ
これまでの人生で全然触れていない農学への関心を高めるべく本書を購入しました。本書は、数人の農学研究者が面白いと感じる部分を説明して農学の面白さを紹介する読みやすい入門書です。
本書の良い点は、各研究者が実際に興味を持っている部分を思い思いに(実際は細かく調整しているのでしょうけれど)語っており、面白さが率直に伝わってくる点です。良い意味で足並みが揃っておらず、農学の幅広さが自然と理解されます。扱っている題材も基本的には生活の延長で理解できるため、実学としての農学の価値が感じられました。
強いて文句を挙げると、扱っている内容が限られているだけに参考文献とか読書案内のような紹介が付いていると -
-
Posted by ブクログ
一時期民主党が政治主導なる理念を掲げ、政策決定のプロセスを大きく転換したことがあったが、本書を読むとなぜそれが失敗に終わったのかが良く分かる。政策と言うのは専門的な視点から継続性を以て立案されるべきもので、政治家のポピュリズムや単なる不勉強による気まぐれに左右されるべきではない。政治家の役割は利害調整に徹するべきだ。
それはさておき、本書の主題は実に明快である。食料自給率はあまり意味のない指標で、その低下は食生活の変化によるところが大きいこと。むしろ非常時に国民が等しく最低摂取カロリー(2000K)を確保できるような国産生産力を確保すべきであること。一律の所得保証でなく、農業の主要な担い手に土 -
Posted by ブクログ
今日、巷を賑わせるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉において目に留まるのは、やはり農業関係者たちの反対である。しかし、少なくない人々が、どこかそれを冷ややかに見ているところがある。それは、例え農業関係者たちの反対が、至極まっとうなものであるにせよ、反対を押し切ったところで、日本の農業の先詰まり感を払拭するにあたわないからかもしれない。農業就業人口に占める65歳以上の割合はすでに6割を超え、その耕作放棄地もおよそ40万haと埼玉県の面積より大きい。2013年末にはついに、40年に渡って続けられたコメの生産調整(減反政策)の廃止が打ち出されるに至った。いうまでもなく、日本の農業はいよいよも
-
Posted by ブクログ
国内の農業について、徒に「文化」、「歴史」、「環境維持」といった副次的なことに引き摺られない論旨に感嘆。「文化」の継承という面での農業の役割は確かにあるが、「生業」として成立しない以上、その「文化」はごく限定的にしか生存し得ない(宮中での蚕の養殖のように)。「生業」として成立させつつ、周辺環境に適合させていくプロセスの先に、「自給率」や「食糧安全保障」n議論があるべきであって、単純に「食糧を抱え込む」発想は、貿易によって勃興した戦後日本の「アンチテーゼ」にしかなり得ない。本書のような冷静な考察を踏まえた議論を、全中含めて政治の場でおこなうことが、誠実に農業に向き合っている人々に対しての誠実な態
-
Posted by ブクログ
この本も、FBのお友達の紹介。
生源寺先生は、東大農学部の先生で、農政の中にもコミットしていて、丁寧な記述ぶり、大胆な改革案などないような感じがする。
そこで、かえって素人の自分としては、大胆な疑問点をあげてみる。
①農水省独自のエネルギーベースの食糧自給率は、野菜がカウントされないなどナンセンスな気がするし、海外でも使われていない。生産額ベースでは70~80%で低下傾向にあるが、エネルギー自給率など、あちこちで少しでる天然ガス以外は全部輸入で、数パーセント。
数パーセントに対して、備蓄で対応するのだから、食料も同じレベルでいいのであって、食料だけ、戦争など緊急事態にそ -
Posted by ブクログ
ネタバレ日本農政が辿ってきた歴史、食料自給率、担い手の問題、コメの生産調整、農村の機能、これからの日本農業が目指すべきもの、などが幅広く言及されている。非常に読みやすい日本語で書かれており、取り上げられているトピックスも前述の通り初見でも親しみやすい問題から触れられており、とても読みやすかった。
直近の民主党の大勝によって、日本農政に関して逆走・迷走が生じていることに触れつつも、単なる政党批判にはならず丁寧に政策について言及している。また、自民党の「減反」政策についても触れるなど、公平性は忘れていない。
日本農業の強み・弱みの双方に触れ、歴史的な変化についても分かりやすく記述されている。日本農業の目指