虫の生態系は多様性があって、人間界にも応用出来るような生き方があるのが面白いと思った。虫は宇宙だと思った。虫に夢中になる科学者多いけど、虫の世界は宇宙に思いを巡らすみたいな豊かさと楽しさがあるんだなと思った。
金子修治(かねこ・しゅうじ)
1969年生。京都大学大学院理学研究科博士課程中退。理学博士。これまで、静岡県農林技術研究所と大阪府立環境農林水産総合研究所で農作物の害虫と天敵の研究に従事。多種多様な生物の共存を可能にするしくみが知りたくて昆虫の研究を始めた。好きな虫はテントウムシとアリ。
鈴木紀之(すずき・のりゆき)
1984年生。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。現在、高知大学農林海洋科学部准教授。子供の頃からチョウが好き。研究のメインはテントウムシの生態と進化。著書に『すごい進化』(中公新書)、『繁殖干渉』(分担執筆,名古屋大学出版会)
安田弘法(やすだ・ひろのり)
1954年生。名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。現在、放送大学山形学習センター所長。自然のバランスの機構の解明をライフワークとし、現在は、無肥料・無農薬・無除草剤で淡水生物の機能を活用しておいしいお米を多く収穫する研究に従事。著書に『生態学入門』(共著、東京化学同人)など。
大崎直太(おおさき・なおた)
1947年生。名古屋大学大学院農学研究科博士課程中退。農学博士。京都大学農学部在職中は、チョウを題材に、食性の進化や擬態の進化を研究した。子供の頃よりチョウは好きだったが、世の中の熱狂的なアマチュア研究者に比べると、本物とは言い難い。著書に『擬態の進化』(海游舎)、『蝶の自然史』(編著、北海道大学出版会)など。
東樹宏和(とうじゅ・ひろかず)
1980年生。九州大学大学院理学研究府博士課程修了。理学博士。現在、京都大学生態学研究センター准教授。昆虫だけでなく、植物や真菌、細菌、原生生物たちが生態系内でどのように関わり合っているのか探っている。多様な生物たちが息づく農業生態系の設計や、自然生態系の再生を目指している。著書に『DNA 情報で生態系を読み解く』(共立出版)など
村瀬 香(むらせ・かおり)
名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程修了。農学博士。現在、名古屋市立大学大学院理学研究科准教授。健全な生態系の維持・促進に貢献する研究に従事するとともに、特定の研究領域・材料・手法などに縛られない、統合的で自由な研究を目指している。
塩尻かおり(しおじり・かおり)
1973年生。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。現在、龍谷大学農学部准教授。植物の出す「かおり」が様々な生物にもたらす作用に注目し、植物や昆虫の形態や行動の研究をしている。著書に『生物多様性科学のすすめ』(分担執筆、善)など。
辻 和希(つじ・かずき)
1962年生。名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。現在、琉球大学農学部教授と鹿児島大学連合大学院教授を兼任。社会性昆虫の生態学を専門とし、行動生態学と群集生態学の融合に取り組んでいる。著書に『生態学者・伊藤嘉昭伝 もっとも基礎的なことがもっとも役に立つ』(共編著、海游舎)、『シリーズ進化学6 行動・生態の進化』(共著、岩波書店)など。
田中幸一(たなか・こういち)
1955年生。名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。現在、東京農業大学農学部嘱託教授。昆虫やクモを対象に、農地の生物多様性の評価と活用、環境変化に対する生物の適応の研究に従事。著書に『生物間相互作用と害虫管理』(共編、都大学学術出版会)など。
桐谷圭治(きりたに・けいじ)
1929年生。京都大学大学院農学研究科博士課程中退。農学博士。和歌山県、高知県、農林水産省農業環境技術研究所を経て、アジア・太平洋地区食糧・肥料技術センター副所長をつとめる。日本応用動物昆虫学会賞、日本農学賞、科学技術庁長官賞、紫綬褒章などをうける。
「 「ケンカするほど仲が良い」ということわざがあります。これは単によくケンカしあう人たちをからかっているのではなく、他のことわざと同じように、私たちの生きざまの真理をうまく言い当てているように思えます。ケンカしてもお互いの関係を保っている(そしてまたケンカを続けてしまう)ということは、結局そこまで仲が悪いわけではなく、なんだかんだ一緒にやっていける間柄ということです。反対に、もし本当に仲が悪かったら、顔を合わせるのもイヤで別々の行動を取るはずです。その結果、そもそもめったに会うこともなく、そのためケンカなんて起きないでしょう。 生物にも同じようなことがあてはまるのではないか。つまり、本当に仲の悪い種類どうしは一緒にいないことがあるのではないか。ことわざにも裏付けられたそんな現象を解明できたとしたら、おもしろい研究になるはずです。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著
「セミのメスは、樹皮に産卵することが知られています。孵化した幼虫は、土のなかにもぐり、根から吸汁して何年もかけて成長します。もしかすると、樹皮から土のなかに移動するときにすでに菌が幼虫に取り付き、その幼虫がやがて成虫となって地上に現れるまでセミの体内に潜んでいたのかもしれません。木の幹にとまったセミから胞子(無性胞子)を飛ばせば、広範囲に生息域を拡げることができるでしょうから。 人知れず虫は死ぬ。ジミに死んでいく。しかし、そこに隠されたドラマに生態系の真髄があるような気がしてなりません。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著
「昆虫は、人為的な環境破壊なしには、地球を傷つけるようなことはありません。 森に行けば、自然の調和を感じることができるでしょう。飛び交う虫の羽音を、ふみしめる落ち葉の音を聞いてください。すべてがリサイクル可能で、皆がつながっていて調和を生み出しています。雨が降り、川となり、植物の一部となり、それを食べた虫や鳥の一部になり、またヒトの身体をうるおします。私たちは、皆つながっていて、同じ酸素や炭素をリサイクルしているのです。森の昆虫たちから学ぶことは多いと思います。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著
「このように、ニホンアブラバチのメス成虫はアブラムシコロニーのなかを素早く「ちょこまか」と動き回ることによってアリからの発見と攻撃を事前に回避し、加えてアブラムシに一瞬で産卵することで、アリが守っていてもアブラムシを利用できることがわかりました。 この「ちょこまか作戦」は、アリの動きを正確にとらえる優れた視力、アリとの遭遇を回避し続けるための走力、とっさの攻撃をかわす瞬発力、極めて短時間の産卵行動などをかね備えた、本種だからこそ実行できる戦術です。これらの特性は、アリが守っているアブラムシを利用するために、長い時間のなかで本種が進化させてきたものと私は考えています。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著
「この状況を簡単にまとめると、アブラバチ幼虫にとって二次寄生蜂は「敵」であり、その二次寄生蜂の「敵」であるアリは、アブラバチ幼虫にとって「味方」というわけです。これは、いわゆる「敵の敵は味方」という間接的な関係を示しています。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著
「ニホンアブラバチについて、ここまでに紹介したようないろいろなことがわかってきた頃のこと、私の勤めていた研究所の大先輩から「あなたのアブラバチとアリの研究は、小学生の夏休みの自由研究みたいだね」と言われました。その時私は三〇歳手前で、小学生あつかいされたことにすこし不満を感じました。 しかし今になって思うと、この大先輩の一言は、「あなたの研究は、〝子供のように〟、それが何の役に立つかなど気にもせず、純粋な好奇心に突き動かされ、これまでの考えにとらわれない自由な発想で解き明かしたもの」という最高のほめ言葉だったのかもしれません。 そういえば、この研究に取り組んでいた頃は、毎日がとても楽しく、ワクワクして、野外観察や実験のために汗びっしょりで動き回って、まるで小学生の時の夏休みみたいでした。その意味では、昆虫の研究に夢中になっていたら、「毎日が夏休み」なのかもしれません。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著
「そのおかげで一年生の時から研究室に通うことができ、虫三昧の生活を送りました。大学では下宿生で、当時の学生はテレビを持っていないのが普通で、おかげでたくさんの本を読むことができました。 その中の一冊が『アメリカシロヒトリ』(伊藤嘉昭編、中央公論社、一九七二年)でした。この本は、外来昆虫であるアメリカシロヒトリという虫を材料として、昆虫学の様々な分野の研究者によって共同研究された結果をまとめたものであり、中でも私は生態学の分野の研究に興味をひかれました。そのこともあって、卒業研究では生態学研究室を選びました。」
—『博士の愛したジミな昆虫 (岩波ジュニア新書)』金子 修治, 鈴木 紀之, 等著