【感想・ネタバレ】日本農業の真実のレビュー

あらすじ

日本の農業は正念場を迎えている。高齢化、減反問題、農産物貿易の自由化など、難問が山積している。本書では、日本農業の強さと弱さの両面を直視し、国民に支えられる農業と農村のビジョンを提案する。農地制度や農協問題など、農業発展のブレーキと指摘されている論点にも言及しながら、近未来の日本農業を描き出す。

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Posted by ブクログ

愕然とした。自分があまりにも農業について知らなさ過ぎたことを。必要に迫られて読んだ本とはいえ、これほど衝撃を受けたことはない。
農業の振興は国の基盤だと頭では思っていても、自国の問題としてここまで考えたことはなかった。当たり前のように毎日白いご飯を食べていた自分を反省する気持ちにもなった。
しかしながら、この本は決して農業政策の批判ばかりではない。タイトルにもあるように”日本農業の真実”が多角的な視点から書かれている。日本の農業の弱さもあるが、強さもしっかりと書かれており、国の明るい未来を考える指針になると思う。

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2018年12月22日

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食料・農業・農村政策審議会委員を勤めた農業の専門家による日本の農業の現実と将来性について述べたもの。実務に携わった専門家であり、農業の歴史と現状、有効な施策について現実的な提言がなされている。記述が緻密かつ正確で、日本の農業の置かれている立場と政策の善し悪しがよくわかった。極めて貴重な研究書といえる。印象的な記述を記す。
「自然相手の農業にリスクはつきものだが、近年の日本の農業に関する限り、農政の迷走状態の方が深刻なリスクファクターである」p95
「いま必要なことは現実の農業に関する偏りのない理解の醸成であり、日本の農業にできること、できないことを見極める作業である」p98
「(いま求められるのは)数集落に1戸は、専業・準専業の農家が活躍し、その周囲には兼業農家や高齢農家などがそれぞれのパワーに相応しい農業を営むかたちである」p102
「日本では、10haの規模でベストの状態で稲作が実現している」p105
「なにがしかの支援のゲタを履くことなしに、日本のコメが国際市場で互角に戦うことはできない。不可能なのである」p147
「2007年農家1戸当たりの平均農地面積 米198ha、EU14ha、豪3024ha、日本1.8ha」p149
「半世紀の間、一人当たりのGDPは8倍に上昇した。農業の場合、土地生産性の劇的な変化がない限り(収穫量の顕著な増加は生じていない)、農地面積の拡大なしに他産業並みの所得を得ることは難しい」p151

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2018年11月13日

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戦後農政は、常に時代の荒波に翻弄されてきた。そんな中にあっても、農業政策の立案作業に携わってきた歴代の先人たちは、大海原の彼方に見え隠れする将来のあるべき農業の姿を見極めようと、惜しまぬ努力を積み重ねてきた。
生源寺先生は、数々の政府会合の委員として、農政の意思決定の現場に立ち会ってこられた。本書では、時代の変遷とともに、農政に携わる人々の意識がどのように変化してきたか、その背景に何があったかが、克明に記される。
現在、農政を揺さぶる大波は、過去に例をみないほどの高さに達している。その効果であろうか、世間の注目度も格段に高まっている。このチャンスにこそ、我々は農業の将来展望を人びとに力強く訴えることができるであろうか。いまその真価が問われる。

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2014年01月30日

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友人に借りた本だったが、良書だった。
日本の農業について中立的な立場で知りたいという読者向け。

昨今では「農協が悪い」「TPPは参加するべきではない」等の感情論が飛び交う農業であるが、本書はその日本の農業について客観的に分析していたため、現状を冷静に把握できた。
その所以は筆者が農業の「歴史」という点に着目して述べているからだろう。
主だったテーマは「自給率」「農政」「コメの生産」等であるが、農政については政策が設定された歴史的な背景や目的から丁寧に記述されているため、深く理解することができる。

1つ難点を挙げるなら、過去の農業政策や農業経済等といったテーマが多いため、農業や農政を全く知らない人にとっては読むのが難しい点だろう。
勿論これは筆者が中立的な立場で日本農業の現状を説明しようと試みたため、必然的にそうなったものである。
感情論に走らず、中立した立場を維持するためには、これまでの「歴史」を丁寧かつ客観的に解説する必要があるからだ。
ただ、軽い気持ちで農業・農政のことを知りたいと考える読者にとっては、本書は少し教科書的な退屈さを感じてしまうのではないかと思う。
良くも悪くも「新書」の完成度を超えている印象を受けた。

現在の農業の話題は本当に感情論が多すぎる。
筆者のように物事を冷静に分析し、その強みと弱みを客観的に把握したうえで議論するスタンスでなければ、真の解決は見いだせないだろう。
個人的には本書の内容以上に、筆者の考え方に感心した。

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2012年05月22日

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先生に近年の著作の中では一番手ごろかつエッセンスが濃縮されている感じ。農業に関心があるけど専門書を買う機会がないと言う人にはとてもいいかも。

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2011年05月12日

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本書が出版されたのが2011年3月で、東日本大震災までの農業についての考察である。ということは震災後には再度政権が交代し、農政に関して多少なりとも揺り戻しがあったはず(これに関しては今後勉強せねば)。農政のたどってきた歴史的背景と問題点は本書で十分に理解できる。筆者は国の審議会メンバーになったことがあり、農業を学問としてだけではなく、行政の視点も含めた論考となっていることも好ましい。ただし将来の農業のあり方についての提言は少ないので、それは別の書籍で補うべきだろうな。

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2017年08月26日

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一時期民主党が政治主導なる理念を掲げ、政策決定のプロセスを大きく転換したことがあったが、本書を読むとなぜそれが失敗に終わったのかが良く分かる。政策と言うのは専門的な視点から継続性を以て立案されるべきもので、政治家のポピュリズムや単なる不勉強による気まぐれに左右されるべきではない。政治家の役割は利害調整に徹するべきだ。
それはさておき、本書の主題は実に明快である。食料自給率はあまり意味のない指標で、その低下は食生活の変化によるところが大きいこと。むしろ非常時に国民が等しく最低摂取カロリー(2000K)を確保できるような国産生産力を確保すべきであること。一律の所得保証でなく、農業の主要な担い手に土地と補助金が行き渡るようにすべきこと。加工にも目を向け、いわゆる6次化を目指すこと。どれも正論である。

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2014年12月08日

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今日、巷を賑わせるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉において目に留まるのは、やはり農業関係者たちの反対である。しかし、少なくない人々が、どこかそれを冷ややかに見ているところがある。それは、例え農業関係者たちの反対が、至極まっとうなものであるにせよ、反対を押し切ったところで、日本の農業の先詰まり感を払拭するにあたわないからかもしれない。農業就業人口に占める65歳以上の割合はすでに6割を超え、その耕作放棄地もおよそ40万haと埼玉県の面積より大きい。2013年末にはついに、40年に渡って続けられたコメの生産調整(減反政策)の廃止が打ち出されるに至った。いうまでもなく、日本の農業はいよいよもって大きな節目を迎えようとしているのだ。著者の振り返る1986年、第8回多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の時も、やはり農業関係者たちの反対は大きかった。政府もまた、いくつかの農作物が関税化される中にあって「一粒たりとも米は入れない」と、ほとんど感情的な決議でもって、コメの関税化を阻止した。しかし、その代償として課せられた最低輸入機会(ミニマムアクセス)の追徴は、実は、コメを関税化したときの試算より、はるかに大量のコメを国内に輸入させる結果となった。そして、関税化された農作物に向けられた6兆円を超える対策費もまた、使途の不透明なまま、これといって農業を活性化できないままに露と消えた。はたして、脊髄反射的な反対は、何も生みだすことはできない。では、いったいこれからの日本の農業はどうあるべきなのか。これまで日本の農政の最前線にいた著者による、悲観論でも、楽観論でもない公平かつ論理的な日本農業史。なお、著者はTPPに賛成なのかとえばもちろんそうではない。著者が本書で殊更に訴えているのは、賛成反対を議論する以前に、農業がまだ何も理解されていないということである。かつて、日本の人口の9割が農民だった。しかし、今日、人口の9割が農業を知らない。だとしても、農業が自分たちの生活に直結した問題であることは誰もが知っている。冷ややかな目を向けることなかれ、これは自分たち全員の問題である。

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2014年02月07日

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流れが分かりやすく書いてある。良書である。もっと早く読んでればよかった・・。

農業経済の授業で聞いたことのある話も出てきたので、そのような点からも印象に残っている。

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2013年08月05日

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国内の農業について、徒に「文化」、「歴史」、「環境維持」といった副次的なことに引き摺られない論旨に感嘆。「文化」の継承という面での農業の役割は確かにあるが、「生業」として成立しない以上、その「文化」はごく限定的にしか生存し得ない(宮中での蚕の養殖のように)。「生業」として成立させつつ、周辺環境に適合させていくプロセスの先に、「自給率」や「食糧安全保障」n議論があるべきであって、単純に「食糧を抱え込む」発想は、貿易によって勃興した戦後日本の「アンチテーゼ」にしかなり得ない。本書のような冷静な考察を踏まえた議論を、全中含めて政治の場でおこなうことが、誠実に農業に向き合っている人々に対しての誠実な態度ではないだろうか。

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2013年05月12日

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ネタバレ

テレビなどでしか農業問題を知らなかった自分としては、初めて知る考え方がたくさんありました。とかくテレビは短時間で伝えるために、右か左か的な伝え方になりますが、この本を読むと右と左だと思っていた考え方の間に様々な考えがあったことを知ることができます。

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2012年11月25日

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ネタバレ

非常に客観的に書かれた良質な本。
TPPの導入とともに騒がれている日本の農業問題。様々なバイアスがかかっている本が多い中でも本書は現実に対して非常に客観的に述べられている。そのため、日本の農業政策や食料事情を把握する為にはうってつけの本であると考える。
ただ政策面の話が多いためある程度知識がないと読み進める事は難しいかも知れない。そういった意味で農業政策のフレームを知っている状態で読むのがベスト。

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2011年12月12日

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 この本も、FBのお友達の紹介。

 生源寺先生は、東大農学部の先生で、農政の中にもコミットしていて、丁寧な記述ぶり、大胆な改革案などないような感じがする。

 そこで、かえって素人の自分としては、大胆な疑問点をあげてみる。

①農水省独自のエネルギーベースの食糧自給率は、野菜がカウントされないなどナンセンスな気がするし、海外でも使われていない。生産額ベースでは70~80%で低下傾向にあるが、エネルギー自給率など、あちこちで少しでる天然ガス以外は全部輸入で、数パーセント。

 数パーセントに対して、備蓄で対応するのだから、食料も同じレベルでいいのであって、食料だけ、戦争など緊急事態にそなえても仕方ない気がする。

②やはり、農業政策というと、農協、農業委員会など、農業政策に寄生して政治力をもつ団体が合理化の敵ではないか。海外で競争することが必至なのだから、既得権をそぎ落とす政策が必要なのではないか。

③そうはいっても農村はコニュニティの基盤でもあるし、農業景観など国土を支える基盤。そういう基質的な部分と、農業生産という市場的部分をきちんとわけて、前者には税金できちっと手当をするという方向が必要なのではないか。

 なんだか、政権交代などで農政が混乱してどちらに向いているのかわかりにくくなっていると思うので、一般庶民にもわかりやすい改革の方向として、妄想してみた。

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2011年11月24日

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日本の農業の強みと限界をまとめて、堅実で現実的なラインの打開策を提言する一冊です。こういうしっかりした提言を読むと、TPP がらみの農業の議論は内容が薄くて表面的であることを痛感します。本気で考えないといけないね。

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2011年11月11日

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ネタバレ

日本農政が辿ってきた歴史、食料自給率、担い手の問題、コメの生産調整、農村の機能、これからの日本農業が目指すべきもの、などが幅広く言及されている。非常に読みやすい日本語で書かれており、取り上げられているトピックスも前述の通り初見でも親しみやすい問題から触れられており、とても読みやすかった。
直近の民主党の大勝によって、日本農政に関して逆走・迷走が生じていることに触れつつも、単なる政党批判にはならず丁寧に政策について言及している。また、自民党の「減反」政策についても触れるなど、公平性は忘れていない。
日本農業の強み・弱みの双方に触れ、歴史的な変化についても分かりやすく記述されている。日本農業の目指すべき姿、それを支援する政策のあるべき姿がしっかりとまとめられていて、良い読後感を味わえる。

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2011年09月18日

Posted by ブクログ

2011年の日本の農業についての現状報告と提言の書。著者は東大教授で、農政にも深く関わってきた人物である。

TPPへの参加が検討されている現在、農業分野がネックになっていることは確かである。そのための食糧自給率の問題がカロリーベースであったり、減反政策や戸別保証などの政策から説明している。

日本は歴史的に、1ha程度の農民が戦後たくさんできて、都市のサラリーマンと比べて所得が低いことなどや、兼業農家(労働時間が少ない)こと、大規模農家も10ha以上では効率が変わらないことも含めて、解説している。

日本は、専業農家的なところと、機械化によるそれほど労働をしなくても大丈夫な兼業農家が混在し、農政が対応できなかったことが大きいと思われる。減反政策の反対で、村八分になるような家庭であったり、モンスーンアジア風土の農業について考えさせられた。

今後の農業を考えるには必読の書だと思う。

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2011年07月29日

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ウルグアイ・ラウンド実質合意前夜から2010年民主党政権までの日本農政の歩みをトレースする。
→農政の中の人が、官僚的玉虫色かつ二転三転の農政をそのまま素直にトレースしてくれるので、経緯こそ丁寧に分かるが少し取り付きにくい所がある。新書だし、もう少し見取り図的な解説が充実していてもいいのに。

取り上げる政策は、コメの生産調整と「担い手」育成
→「農協の大罪」では農地に焦点が当たっていたのが印象的だったが、こちらは人に焦点を当てる(農地の議論も出てくるが)。

安全保障としては自給率もともかく、非常時の2000kcal/人・日の食料供給力が必要。これが危険水域に入っている。

筆者は、「担い手」については大規模化・効率化も結構だが多様な(?)担い手を認めるべしとの立場か。たしか「農協の大罪」ではこきおろされていた集団営農にも肯定的。ハッキリしないと言えばハッキリしない。とにかく高齢化には危機感。

戸別所得補償制度への評価
 結局、小規模農家には雀の涙で、選挙向けの看板と実態の使い分け(後で担い手作りの側面はほとんど消失と述べているがどっちなんだ?)。
 全国一律価格を基準にするのでやや競争促進的。

減反が農村にもたらした亀裂
4割休耕してもまだ生産過剰、そりゃ効率も悪くなる
2004年から個々の農家が生産調整の参加/不参加を選択できる制度(減反参加農家には財政による収益補填)へ一歩踏み出す。
2007年に元の一律減反へ戻る。農協・農林族の巻き返し。
(財政による収益補填は、農家はOKでも、流通金額の低下を補わないので農協的にバツ)
民主党政権で参加者メリット制にまた戻る。転作の切り離しも評価できる。
・・・今後、たとえ選択的な生産調整により供給数量がコントロールできても、特定品目への補助は需給双方から市場に織り込まれて、価格の低下から財政負担増につながるだろう。→生産調整からのexitが可能かも考えるべき。

「活路を探る」
思い切った農地集積も現実的でなさそう。著者の主張は、農地制度運用の第3者チェックなど、できる範囲でという感じ。
著者は川下への進出というが、流通・外食なんてただでさえ過当競争の世界ですぜ。個別で見れば商品力を生かしてうまくやるところもあるだろうが、日本農業全体への処方箋たりえないと思う。
集約的農業での高付加価値商品のように部分的には輸出もできるが、コメなんかは国際的に競争できないという立場のよう。→アジア諸国の成長で変わるかも知れんが、だいぶ先。
最後に、EUがやっているくらいの農政のレベルはやんなきゃ、と。

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2018年11月05日

Posted by ブクログ

冒頭、TPPについて触れられていたので、TPPをどう考えるべきか勉強しておきたかった自分にとって、興味深かったのだが、結局直接それに対する結論は書かれていなかったように思う。それは残念だったが、先に読んだ「日本の農林水産業」とは別の論点を提示しており、面白かった。「日本の農林水産業」では、農地の集約化が最重要課題としていたが、本書では、集約による「コストダウンの効果が現れるのは10ヘクタール程度までの規模で」あると、具体的なサイズに言及していたのは説得力があった。また、「農業の規模については、アメリカの農場並みの規模に到達することで、日本の農業の競争力も飛躍的に向上するといった議論もある。…筆者は日本の社会にとって農村のコミュニティを引き継ぐことが大切だと考えており、広い農村にぽつんぽつんと大規模経営が散在するようなビジョンには賛成できない。」とも主張しており、農村のコミュニティとしての機能に注目しているあたりが、机上の空論ではなく、現実感があって、これまた説得力がある。

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2021年08月08日

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ネタバレ

歴史的な経緯を踏まえてファクトを知るのに良い本です。
記憶に留めておきたいファクトを記しておきます。

・生産額自給率はカロリー自給率ほど低くない。
・80年代後半まで生産は拡大していた。
・畜産物・油脂類の消費拡大が自給率低下に繋がった。

・販売農家:農産物年間販売額50万円以上、又は農地面積30a以上
・生産物の出荷が皆無/少額の自給的農家が、総数約250万戸の36%。
・稲作農家総数約140万戸の73%が作付面積1ha未満。
・国内の稲作のコストダウン効果は10ha程度まで。

・最終消費された飲食費のうち農業水産業に帰属した価値は19%に過ぎない。

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2015年11月29日

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日本の農業が抱える問題点を概観できる。10ヘクタールまでは作付面積を増やせば平均費用を減らすことができるにもかかわらず、販売水田農家の73%が1ヘクタール未満しかない。作付面積が3ヘクタール未満では、農業所得が農業外所得より低い。1時間あたりの農業収入が1000円を超えているのは、養豚、北海道の水田作と畑作のみ。これでは、農業の担い手が減り続けるのは当然だろう。

米の価格と流通は2004年に自由化されたが、生産調整は40年間も続いている。食料確保のための政策は必要だが、生産者の創意工夫を活かし、意欲を高めることができる政策への足取りが遅い。政治が機能していないというか、選挙対策や政権争いによって混乱させられている。2007年の参院選の大敗を受けて、自民党の農林族議員は、米価を維持するために備蓄制度を利用することを主導した。これによって、生産調整に参加する農家より参加しない農家の方が有利という不公平な状況になった。

この本を読んで改めて感じたのは、農業の問題を考えると、農政だけでなく政治そのものの問題まで考えなければならないということ。うんざりしてしまう。

・農産物全体の生産量を示すラスパイレス指数は、1980年代後半までは上昇していた。人口はほぼ同じペースで増加しているので、食料自給率が低下し続けているのは、1人当たりの消費量が増えたため。1990年代以降は生産量も減少している。
・1955〜2005年の50年間に、肉類は9倍、牛乳・乳製品は7.6倍、果実は3.5倍、魚介類は1.3倍に増加し、米は0.55倍、イモ類は0.45倍に減少した。
・1960〜2009年に、養豚農家は100分の1以下になったが、1経営あたり頭数は600倍になった。酪農農家は20分の1近くになったが、1経営あたり頭数は30倍に増えている。
・1時間あたりの農業収入が1000円を超えているのは、養豚、北海道の水田作と畑作のみ。
・食料供給力を確保することを目的に、カロリー供給力が最大となる農業生産を行った場合の試算結果は、イモ類を増やして畜産物などを減らす場合に、1日1人当たり1890〜2030カロリーとなる。
・2007〜08年の食料価格高騰の中で、最大時には12か国が米や小麦の輸出を禁止した。
・自給的農家を除く水田作農家の作付け面積は、73%が1ヘクタール未満で、0.5ヘクタール未満は42%。作付面積が3ヘクタール未満では、農業所得が農業外所得より低い。
・稲の作付け面積と平均費用との関係を調べると、生産量あたりの費用が低下するのは10ヘクタールまで。
・米の消費量は1962年をピークに減少し始め、1967〜68年に連続豊作となって在庫が積みあがったため、1969年から生産調整が始まった。現在は、水田の4割に当たる100万ヘクタール以上が生産調整の対象となっている。
・1980年代末には自主流通米が全体の5割を超え、ヤミ米も消費量の2割以上に達した。1995年に食糧法を施行して食管法を廃止し、政府が管理する米は備蓄米とミニマムアクセス米のみとなった。2004年に食糧法を改正して、米の流通と価格を完全自由化した。生産調整は、減反面積の配分から米の生産目標の配分に変更し、産地ごとの目標に対して消費者の需要を反映させた。道府県で4ヘクタール以上、北海道で10ヘクタール以上の経営者に対して、米価が下落した場合の補填措置を手厚くした。

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2018年10月31日

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日本農業の現状を再確認するための本。食料自給率など不安にさせるようよう誘導させる解釈が多い中、この本はかなりフラットな視点から語られていたと思う。今まで農業は大きく保護され、消費者重視ではなく生産者重視であった。農家の自助力をこれから大きく鍛えていくことがかなりの命題となってくるはずである。

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2013年04月01日

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ネタバレ

作付面積が大きくなるにしたがい費用は低下していくものの、一部の例外を除いて、日本でコストダウン効果が出てくるのは、現時点では10ヘクタールまで。規模の拡大に伴う圃場の遠距離化と田植の可能な期間が20日間と短いことから、人手と作業機械に大きな制約があるためだ。したがって、価格という点で米国とは大きな差が生じているのが現実。また、高齢化、低年収など、担い手問題は喫緊の課題となっている。加えて農政が未来へのビジョンもないまま迷走逆走を繰り返しており農業経営者の不安を募らせている。他方、日本の農産物の輸出額は輸入額の10分の1に過ぎないが、それでも年々増加している。しかも輸出先は今後も発展が期待されるアジアの国々。日本の農業の強さと弱さを見極めたうえで、正しく現実を認識し、最善の手立てを講じることが、今後の農業・農政に求められている。主張に偏りがなく自然に素直に読めた。また、日本の農業と農政の歩みを振り返る中で、ガットウルグアイラウンドなんて言葉も出てきたが、当時、迷走農政に翻弄され右往左往していたことなども懐かしく思い起こした。

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2012年06月25日

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TPPが話題になり農業界に興味が。どちらかに結論を出すというよりは、現在置かれている日本農業界の実態を丁寧に語っていくという姿勢で好印象でした。使われている資料も数字を詳しく見せてくれるので紳士的。総じて説得力のある内容でした。

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2012年07月01日

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農業は難しい。長年の政策の失敗は日本の農業を停滞させてきたと思ってはいたが、進歩している部分もあってホッとしている。
がんばれ!農家たち!

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2011年10月05日

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日本の農と食の直面している現実を、戦後の、特に過去10数年の農政の歩みを中心に冷静に分析している。食料自給率、高齢化が進む中での農業の担い手問題、コメの生産調整の重く暗い歴史とこれから…。日本の農業の抱える課題は山積みで特効薬はないけれど、混迷する農政のあり方を正し、透明性のある直接支払い型の農業支援、生産物の付加価値を高め生産者が下流の価格形成にも関与する取り組みなどを示している。

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2011年06月03日

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