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「人生作り」には興味がない。流れる季節を感じるだけで、世界は十分面白い――。夫を亡くしてひとり暮らしの荻原萩子・五十五歳が抱く、バイト仲間の年下女子・早蕨へのときめきと憧れ。――「反人生」/世界を旅する寅次郎、ユーモアのセンスあふれる桃男。男友だちから新たな感覚を学ぼうとする大沼の行く末は……。――「越境と逸脱」など全4編。男と女、親と子、先輩と後輩、夫と妻。無意識に人々のイメージに染み付いている役割や常識を超えて、自由でゆるやかな連帯のかたちを見つける作品集。
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Posted by ブクログ
表題作よりも、最後の「社会に出ない」がとても好きだった。 P.158 スマートフォンで住所を調べよう、ということを言いださないのと同じように、私たち全員が心の中で思いながら、何年も誰も言わないことがある。 それは、山崎くんがおそらく、働いていないだろう、ということだった。 大学にいるとき、山崎君は...続きを読む就職活動を一切していなかった。大学を出たらバンド活動をする、と言っていた。卒業後にライブが三回あって、私は三回とも聴きにいった。 しかし、そのバンドは一年ほど経つと、メンバーのひとりに子どもができて、その人が就活のために音楽をやめると言い出した、という理由で、解散してしまったらしい。その後の山崎くんの足取りを、私たちは知らない。ただ、もしも何かしらの形で音楽を続けているとしたら、連絡をくれるような気がする。だから、今は音楽活動をしていないのではないか。そして、あの山崎くんのことなので、アルバイトはもちろん、金を得るような活動はしていないのではないか。音楽活動、あるいは金を得る活動をしていない。そのせいで、私たちに会いたくなくなってしまったのではないだろうか。(略) 「山崎は、僕らからも、プレッシャーを感じるのかね」 杜屋くんが話を戻した。 「俺らは、山崎に会いたいだけなのにな。俺らは山崎に対して、どうあって欲しいとか、こうなっていて欲しいとか、そういうのはなんにもないのにな」 面長が言う。 「そうだ」 私は、ふいに気がついた。山崎くんには自信をもって自分たちに会って欲しいと思っているのに、私自身ができていない。 「ん?」 面長がこっちを見る。 「私、この前、赤ちゃんができたの。わあ、やったあ、と思ってたんだけど、しばらくしたら流産って診断されて、手術しなくちゃならなくなって…」 私は話した。 「稽留流産?」 杜屋くんが、特に驚いたふうもなく聞く。 「よく知ってるね、そんな言葉」 私は言った。 「まあ…。うちの姉にもその経験があって」 杜屋くんは言う。 「え?俺、よくわかんない。手術したってことは、おろしたってこと?」 面長はきょとんとして尋ねる。 「いや、赤ちゃんが欲しくて作って、妊娠できてすごく喜んでいたら、とても悲しいことに途中までしか育たなかった、ということ、かな?」 私は説明をしながら、面長の言葉に少し傷ついていた。稽留流産の手術は、中絶と同じような作業だ。そのことが妙に辛く感じられていた。しかし、ここまで混同されて相手に伝わるものだということは初めて知った。それでも、伝えたことに対する後悔は湧いてこなかった。よく考えたら、意思によって生まれなくなることと、生物学的な理由で生まれなくなることに、線引きの必要はない。線を引きたがっていた私はあさましかった。 「ふうん。俺にはよく理解できないけど…。それは、辛かったね」 面長は言った。 「うん。ありがとう」 私は笑った。 「それで?」 面長が言う。 「いや、あのさ、今回、杜屋くんから恒例の飲み会のお誘いメールをもらったとき、『みんなに会いたくないな』って、ちょっと思ったんだよね」 私は続けた。 「ふうん」 杜屋くんは、街路樹の葉っぱを手で弄んだ。 「あと、こういう話はしちゃいけないだろうし、顔にも出したらいけないだろうから、会うとしても頑張らないと会えないな、とか」 私は坂をとんとんと下りていく。 「なんで?それって、人に話しちゃいけないことなの?」 面長が私の隣を歩きながら尋ねる。 「うーん、『気を遣わせる』から、かな?」 私は顎に手をやった。 「まあ、気ぐらい遣わせてよ。いいんじゃねえの。みんなで生きているんだし」 面長が言う。 「うん、うん」 杜屋くんが頷く。 「亡くなった人の話をさ、『暗い話は、もう止めときましょうか』って切り上げることあるけどさ、亡くなった人の話を、もっと普通にしたい、っていう気持ち、俺あるよ」 面長は言った。 「次の赤ちゃんができてから、『実は、前に流産してしまったことがあって』と、告白する人は結構いるよね。うちの姉の話も、僕は、姪っ子が生まれたあとに、昔話として聞いたんだよ。ただ、僕は姉とかなり仲良いからさ、そのときに聞かせてもらっても、こちらとしては良かったのに、っていうかさ…。いや、本人が話したくないことなんだったら、もちろん話さないのがいいに決まっているんだけど、たんに僕を気遣って、とか、雰囲気を暗くしないように、とかっていう理由でそういう順序で話したんだとしたら…」 坂を下り切り、左に曲がろうとしながら、杜屋くんが言う。 私は、電柱柱の住所表記を指さした。 「僕さ、一度転職してるでしょ?最初の会社がしんどくて辞めたんだよ。ブラックで、辛くてさ。それで、休職中の時、嫌で辞めたからさ。それも、そのときは、『本当は、もうちょっと頑張れた。我慢が足りなかった』『残してきた同僚に悪い』とかくよくよ考えていたし」 表記を確認して頷いてから、杜屋くんが喋る。 「そういえば、一年くらい、飲み会が開催されなかった時期、あったな」 顎を掻きながら面長が呟く。 「あ、あったかも。じゃあ、杜屋くん、一年ほど、働いていない期間があったんだ?」 私は言った。 「そうなんだよ。再就職が決まって、今の会社でなんとかやれるようになってから、やっと、『みんなに会いたい』って思えたからね。だからさ、まあ、僕もなんだよ…」 杜屋くんは頷く。 「友だちのはずなのに、いつの間にか、社会になっちゃっていたんだね」 面長が、今度は耳を掻きながら、言った。 宙ぶらりんな今の私にとっても刺さる文章。私も、みんなが山崎を思うように、友達に対しては「ただ会いたいだけなのに」と思うのに、自分は一区切りついてから、とか思ってしまっている。 私たちはみんな社会の中に生きているんだなぁ。
山崎ナオコーラの小説には必ず作家自身のアバターが登場する。もちろんどんな小説にだって多かれ少なかれ作家自身が投影された登場人物は描かれると思うし、作家が登場人物に自身の言葉を語らせることはあるとは思う。ただ、山崎ナオコーラの場合、投影と呼ぶのが慎ましやか過ぎると思う程にそこに山崎ナオコーラ自身の価値...続きを読む観を放つ人物がいるのだ。 もちろん山崎ナオコーラの何を知っているのかと問われれば何も知らないと答えるしかない。それでも文藝でのデビュー以来、小説もエッセイも順々に読み次いで来て見えているものが、この登場人物は山崎ナオコーラだと告げる。そう思ってしまうと読んでいるのが小説だとしてもほとんどエッセイを読んでいるのと同じような読書となってしまう。そして、ああやっぱり山崎ナオコーラだなと思う。 人って誰でも自分一人が世の中から浮いていると感じつつ、強い言葉で言えば迎合して生きているものじゃないかなと思う。サラリーマンなら酔って新橋のレンガ通り辺りで管を巻く時だけ自分自身に戻れた気になるなんていうのは極々普通のこと。でもその些細な違和感を普通の生活の中では誰も気にも止めない。そんな日常を過ごしている中で山崎ナオコーラを読むと、はっとする。彼女の些細な違和感への拘泥は誰しもが見て見ぬふりをするか無意識の内に見過ごしているもの、敢えて感じないように蓋をしているものを覗き込む行為。もちろん作家の表現する言葉を全て真っ直ぐに受け止める程にナィーブでもないし、登場人物が主張していることを肯定出来るものでもない。それでも、やはり、はっとしてしまうのだ。 明日のことは気になるし、明日がくる前提で準備もして置かなくちゃならない。でも今を、いや今自分の感じていることを蔑ろには出来ない。そのジレンマは陳腐なようで実はどこまでも堕ちていく暗い穴の淵に立つ行為。あるいは、現実を、実在するものの積み重ねであると捉えるか、はたまた全ては頭の中のことだと捉えるか。自分自身と呼ぶ存在をアンカーするものは何なのか。頭の中にあるもの以外の存在に自分がどのように見えているかばかりを気にして忘れそうになる自分自身。そんなことを山崎ナオコーラは、何なの躊躇もなく描き出す。少しだけ勇気をもらう。
2015/10/14 「反人生」 「T感覚」 「越境と逸脱」 「社会に出ない」 良かった本ってなんだろう。 一気読みしてしまう本?泣いてしまう本?考えさせられる本?後から何度も思い返す本? 山崎ナオコーラの本はわたしにとって「後から何度も思い返す本」 気を遣わせたくないから辛いことは話さない。...続きを読む情けない自分を見せたくないから友達に会えない。そんな「社会に出ない」にグゥっときた。
今年はたてつづけの刊行がとっても嬉しい。 そして、ナオコーラさんがつよい想いを持って文章をつむぎだしているのが本当すごく伝わってくる。 今回も、ともすればシニカルな、変わっているといわれるような女性たちが出てくるけれど、彼女たち、めちゃめちゃ格好いい。 装丁も相変わらず最高だなぁ。
久しぶりのナオコーラは、子どもを産んで男女の友情を気にしてた。 最後の「社会に出ない」は、エッセイなのかなってくらいリアルでおもしろかった。 社会になっちゃったらつまらない部分もすごくある。
鋭すぎる、と思っていた彼女の部分が少し丸くなり、読みやすくなった気がする しかし独特の感性は残ってて。これからも楽しみ
2034年、反人生を唱える萩子と死んだ夫と早蕨ー反人生 死んだ母と血の流れーT感覚 異性との友情、憧れ、終わりー越境と逸脱 集まりに来なくなった山崎ー社会に出ない P116 ニ対一は楽、対話とわいわいは違う、絆を結びたいときは一対一 P130 『友人関係があった』ということを、最後に一緒に確...続きを読む認できて良かった P170 友だちのはずなのに、いつの間にか、社会になっちゃっていたんだね
山崎ナオコーラさんの作品って、良い意味で後味が悪くてクセになります。スッキリしないのに、また読んじゃうんだよなぁ
割と好きな世界観。 表題作では、主人公が淡々としているからかえって感情移入しやすかった。少し先の未来が描かれていて、こんな感じになってるのかなぁと想像できて面白い。主人公が普通に同性愛の概念を持っていて好感を持った。 サンリオはまだあるんだな。丁寧に「マイメロ」について説明されて、何か笑った。 ...続きを読む最後の「社会に出ない」の、本気で会おうとは思っていないけど、大学のサークル仲間の家を探す感じとか、なんかリアルだなぁと思った。
彼女の作品はまだ2作くらいしか読んでないけど、これ1冊でなんとなく山崎ナオコーラ的哲学なり世界がわかるような気がしました。 この本は短編集ですが、反人生は、上品な55歳になった女性が「人生作り」には興味ないといいつつ、色々毒づいているのがおもしろい。 けっこうこういう感じの年上の女性に何度か会ったこ...続きを読むとあるかも。割といないようでよくいるタイプの人かもしれない。というか実は皆こんなようなこと考えているのかもしれないね。なんとなくシュールな感じがよかった。
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山崎ナオコーラ
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