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Posted by ブクログ
後漢の創始者、光武帝こと劉秀を描いた歴史小説。
劉秀は、不思議の人だ。
郷里ではひたすら農業に従事する(但し、めちゃくちゃ農業の才能があった)、大人しく真面目な青年であったと記録される。都に留学し、歴史書である「尚書」を修めはする。
それだけの来歴を見ると、この人物が、挙兵してから大きな苦境は一度きりで、あれよあれよと勢力を拡大し皇帝位に登り詰めたのは不思議の一言である。
特に解せないのが、尋常でない戦上手ぶりである。
その不思議の人、劉秀とはいったい何者か。これに真正面から著者が取り組んだ作品と言える。
作品で描かれる劉秀の一番の長所は、何と言っても人の心に通じていることであろうか。
劉秀は豪族でありながら、農業を通じて天地と人間(特に庶民)に親しみ、都に留学しては学問だけではなく、自ら商売を興してしっかり社会勉強もしてきた。
天性の寛容の精神の上に、歴史と実体験とに基づく人間の心性に対する理解が、彼の人間的魅力を形成したのか。彼の下には有能の士が集い、立場が際どい場面でも敵対する相手の心の隙に飛び込んで何となく許されちゃう。この非凡な人格が劉秀を皇帝位まで押し上げたさまが実にみずみずしく丁寧に描かれる。
その人格は権勢を得ても変わらず、実の兄を殺害した更始帝をも赦し、王朝を確立させた後、創業の功臣を誅殺しないで済むよう配慮した「まれにみる大徳の天子」と著者は総括する。
彼の人間味にすっかり魅せられ、苦労の末に洛陽に入城した後、妻の隠麗華と再会するシーンでは感動を禁じ得なかった。
しかし、彼の戦上手の解明には著者も手を焼いたようだ。
「文叔は、じつによく人を知っている・・・(中略)。文叔の戦略も、基本はそこにある。兵法書を何千巻も読んだところで、すこしも用兵は巧くならない。」(下巻158p)
と、彼が人の心に通じていることが戦略巧者であることに繋がっていると著者は描くものの、
銅馬との戦いにおいて糧道を断つべく敵軍の食糧徴発部隊をこまめに撃退するシーンでは
「劉秀はこまかな戦いも巧い。ふしぎな人である。」(下巻201p)
と著者自身も不思議に感じていることを隠さない。
あとがきに、「劉秀のように平凡さをみせていた者が、百万の敵兵にもたじろがず、寡兵をもって大軍を破ったばかりか、敵対した者たちをつぎつぎに宥して、王となり皇帝となったことに、おどろかぬ人はいなかったであろう・・・(中略)。私もそのことにおどろいたひとりであり、このおどろきを小説に書いたにすぎない・・・」と書く。
これだけ古代中国の偉人を描いてきた宮城谷氏にとってすら驚異の人物であった劉秀。超人ぽくない超人。
今までの宮城谷作品とはちょっと違った読後感が得られる、存在感のある作品だった。
Posted by ブクログ
「春風がやさしく草を撫でるように吹いている」
という書き出して始まる本巻は、悩める青年と言える劉文叔が故郷から帝都に出て、勉学に励む様子が主に描かれる。
さまざまな人との出逢いに彩られるその日々、読んでいて、まさに春風のように爽やかな印象を受けた。
宮城谷昌光らしい清廉な筆致である。
本作は文叔の時代からみた故事の引用が多く、それも楽しかった。
「人格は貌にあらわれる。とくに四十歳をすぎると、よけいなものが剥がれてゆき、その人の本性が貌に露呈してくる。それでも人は他人を見あやまる。見るという行為は、誤差を避けられない。が、目を閉じて聞くのはどうであろう。」『春風のゆくえ』より。
「━━人は何かを信じていなければ、生きてゆけない。」『常安留学』より。
「強靭な志は堅固な信念を産む。いや、信念が志を育てることもある。つまり志と信念は切っても切れない絡りをもって、人生の道を選択させる。その選択に迷いはないだろう。」『常安留学』より。
「知ることがむずかしいのではありません。実行することがむずかしいのです。」『雲の影』より。
「人は何かを失えば、何かを得られる。多くのものを両手でかかえて生まれ育った者は、それを落とさぬようにするだけで、あらたなものを得ることはできない。」『華彩の路』より。
「━━天災は人災の反映にすぎない。」『華彩の路』より。
「人が消えてゆくのは、さびしいものである。」『地の声』より。
「大きく得ようとするあまり、大きく失うのは、人も政府もおなじです」『予言』より。
「良いものさえ作れば、かならず売れる、というのは妄想にすぎません。作るより、売るほうがむずかしいといえる。作ったものを、広く遠くまで人々に知ってもらうには、そうとうな工夫が要ります。」『予言』より。
「政治にしろ、事業にしろ、ことばがすべてであるといってよい。善政とは、良いことばの政治である。企業においては、ことばを大切にする者が成功する。」『予言』より。
「……先駆者はかならず斃れます。一歩遅れて起つ者が、革命を完成させるのです。」『予言』より。
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