Posted by ブクログ
2020年01月07日
前々から読みたいとは思っていたのだけど、遂に読む機会に恵まれました
盤上で交わされる熱い戦いよりも将棋に関わる者達の悲哀に比重を置いているように感じられる本作。
第一巻では主に主人公である零やそのライバルの晴信が抱えている感情がメインに描かれている印象
将棋は苦手だったのに生きる為に将棋を指し...続きを読む続ける道を選んだ零。そんな彼が楽しそうに将棋を指すシーンはこの巻では描かれず全く逆の感情が描かれている。第一話から養父との対局を「まるで素手で殴ってるかのような」なんて形容してしまう
そこには棋士にしか判らない世界が広がっており、零が養父と向かい合う将棋盤には親子の情など見えず、冷たい無機質なものが漂っているかのよう
同様に零が一人暮らしをしている部屋にもそれは漂っている
だからこそ、零の部屋や将棋盤と関わりなく暖かい空気を振り撒いている川本家の存在が零だけでなく読者の心すら救ってくれる
本当に川本家の空気って他のシーンと別次元じゃないかってくらい暖かくて騒がしい。多くのシーンではモノローグが中心で特に盤上を前にしたシーンなどは全てを支配するような静謐さを湛えているのだけど、舞台が川本家に移った途端に全く別の空気となるのは驚き。
三姉妹だけでなく3匹の猫にも台詞が割り当てられているものだから、コマが台詞だらけの事態に。川本家がどれだけ賑やかなのかこれでもかと伝わってくるね
最初の出会いで一番格好悪い所を見られてしまったものだから、今更格好つけるなんて零にはとても出来ないし、モモは無邪気に懐いてくるし
そんな環境なら零からだって暖かい空気が溢れ出してしまうというもの
一方の晴信は生きる事と盤上で戦う事がまるで一体であるかのようなキャラクター。
酷暑の中、脱水症になった自分よりも負けを厭う姿勢は目を引くもの
彼だけはモデルとなったキャラが明らかであるようにその生き方は鮮烈の一言。
そしてその「負けたくない」が最も向けられているのが零であるものだから、普段は無機質なものが見える零の盤上も晴信と戦う時だけは熱いものが垣間見えてくる
「生きる」事と将棋を指す行為が密接に絡んでいる二人だからこそ、到れる境地が有るのだろうと感じられる
因みに晴信は別に暗いキャラというわけではないから、川本家と関わってしまうと更に空気が明るく暖かいものになってしまうのは何だか良い意味で笑えてくるね
家族を失い、カッコウの如く他人の家族を食ってしまった零が将棋を指し続ける生き方の中で何を手に入れることになるのか気になって仕方ない