19の掌編。最後の「The Book Day」には羽ばたく本が登場し、これまでの作品とのつながりを感じさせますが、いつも三崎作品に登場する”この国””この街”は出てきません。しかし、原因と結果がひっくり返ったような不思議な世界、理由も分からない不条理な設定、これぞ三崎ワールドという作品ばかりです。 帯に”中学・高校の教科書に採用された「私」「ゴール」「公園」も収録”とあります。いくつかの文学賞候補にはなるものの、デビュー作『となり町戦争』の小説すばる新人賞以外に受賞作も無く、さほどポピュラーとも思えない三崎さんの作品が教科書に載るのですね。この不条理な世界に面食らう生徒さんも多いでしょう。いや、むしろ頭の柔らかい若い人向きなのかもしれませんが。
クレームを回避するために全てが取り払われ、入るのに誓約書が必要になった「公園」の様な風刺的作品も良いけれど、旅人の間で回し読みされる本を描いた「待合室」、亡くなった妻と旅をする「きこえる」、亡くなった人の大切な本を手放す「The Book Day」など、今までにはあまりなかった様な素敵な透明感のある話が印象的でした。