世界史の大転換
常識が通じない時代の読み方
著:佐藤 優
著:宮家 邦彦
PHP新書 1050
おもしろかった。外交官の対話です。
■包括
・現代は、ポスト冷戦が終わり、世界が再びナショナリズムへ回帰している時代ととらえる
・近代国民国家たる西側諸国に対して、ロシアや中国を前近代的な帝国とみる
・米ソ超大国が対峙する冷戦時代は、各国のナショナリズムを抑えていただけではなく、資本主義の暴走をも抑えていたと説く。それは、資本家階級の利潤を減らしてでも福祉政策や失業対策などに目を向けて、労働者階級に資本を再分配していた時代であったからだ
・冷戦を戦うためには、どうしても、大きな政府、大きな軍隊が必要であった。これが冷戦時代の特長である
・冷戦が終わり、軍事力の維持・強化は、軍事・兵器のハイテク化で担保する方針に切り替えられて、戦争に投入できる人員が減っていったことは、アフガニスタン、イラクの占領政策、民主化プログラムに大きな影響を与えた
・また、社会主義革命の恐れがなくなれば、資本主義は遠慮する必要がなくなり、資本が暴走を始める。
資本と国家が結びつき、帝国主義となるのです。
・1997年のアジア通貨危機がその一例で、タイ、インドネシア、韓国の富を、市場の強者が簒奪した。
まさに、それが新自由主義であり、グローバリズムでした。
・賃金は利潤の分配ではなく、商品を生産するための対価として支払われ、利潤の分配を受けるのは、資本家だけになっていく。
・労働力商品の価値とは
①労働者が1カ月生活をするための費用
②労働者階級の再生産のための費用(結婚、家族、出産、教育)
③技術革新のための費用
・近代後、4つの大転換点を経験している
①第1次グレートゲーム 産業革命、パクス・ブリタニカの時代
②第2次グレートゲーム ロシア、ドイツ、日本、アメリカがイギリスに挑戦していく時代
③第3次グレートゲーム 冷戦時代
④第4次グレートゲーム 冷戦後の現代
・第4次グレートゲームとは、アメリカという一国主義を排し、多国間主義、ルールのない弱肉強食の時代であり、いま以上に厳しいサバイバルゲームである
■中東
・オスマン帝国滅亡、トルコ革命から、中東の相克・葛藤が始まった。
・対する欧州(EU)の価値観
①ユダヤ・キリスト教一神教の伝統
②ギリシア古典哲学
③ローマ法
・アラブの春が失敗した理由は、近代市民社会のような政治的成熟のない国に、欧米型の自由化による民主化プロセスを求めたため
・オスマン帝国の分割に関する密約、サイクス・ピコ協定(英・仏・露)が中東を不自然に分割してしまった
・国境を線で規定すること自体、近代欧州で生まれたここ、150年程度の思想です
・イスラム教の預言者ムハマンドが長生きしたばかりに、ムハマンドの言を採用した、コーランは、人間の理性、自由裁量の入る余地が極めて限定されている、宗教を作りだしてしまった
・アメリカの誤算、イランのように一度世俗化して、高度の消費文明を享受している国がイスラム原理主義化することなどありえないと高をくくってしまったことだ
・ロシアはシリアを通じて、中東覇権を有利に進めようとしている
・イランが核武装すれば、いずれ、サウジアラビアも核武装をする
・アメリカにとって、最悪のシナリオは、サウジアラビアが、ロシアから核兵器の技術を供与され、核兵器の開発をロシアの技術で行うことである。中東の核拡散が現実の脅威となっている
■中央アジア
・スターリンの「民族別境界画定」は中央アジアにおける、サイクス・ピコ協定だ
テュルク系民族の地、トルキスタンを、ロシアと中国は分割し、5つの民族、国に分かってしまった
・ロシア革命でレーニンは、強くなりすぎた、中央アジアのムスリムを弾圧した
・分割して統治せよ クリミア、タタール人たちを、中央アジアに強制移住させ、複雑な民族問題をさらに複雑にした
・ソ連の崩壊で、中央アジアに空白が生じた
ウイグルの民族活動家は、トルコとの一体感が強い
トルコとの連帯巻が比較的強いのはトルクメニスタンで
ウズベキスタンではかなり薄くて
キルギズあたりに来ると、そうとう希薄化されている感じがします
タジキスタンは自分たちをペルシア系民族としているから、トルコに対する親近感はありません
■ロシア
・ロシア・グルジア(ジョージア)戦争で使用されたレトリックがウクライナ危機で引き継がれ、過去に起きたチェチェン、アゼルバイジャン、アルバニアなどので宗教、民族紛争が現在の欧州、ロシア、中東問題に結びついている
・引き継がれたレトリックとは、「制限主権論」
ロシアの安全保障を確保するためには、近隣諸国の主権は制限されるというもの
・プラハの春を阻んだ、ブレジネフドクトリンの焼き直しだ
・ロシアがクリミアを併合した理由は、経済的合理性ではなく、「ユーラシア主義」という世界観からだ
・日本語でいうロシア人とは、ロシア語では、ルスキーと、ロシヤーニンの2つがある
①ルスキー:血筋と言う意味のロシア人
②ロシヤーニン:王朝に忠誠を誓う臣民としてのロシア人
歴史的には、ロシヤーニンが重要な意味をもっていました
ロシアは必然的に帝国となる運命であり、ロシアは欧州やアメリカ、アジアとは異なった論理と発展法則をもっているというのが、「ユーラシア主義」です。中国でいう、中華思想に相当します
・ロシア正教である、キリル総主教は、バチカンと和解した
ロシアにいる、土着した、内なるイスラム教とは対話を重視しているが、アラビアに起源をもつワッハービに対しては、ロシアから排斥すべきという立場を鮮明にしている
■欧州
・ブリュッセルのイスラムコミュニティ
かれらは市民としての自由が保証されているが、いまなお、キリスト教白人社会に差別・疎外されている
・自らをベルギー社会の一員であるとは考えてはいない
・反セム主義 セム族には、ユダヤだけでなく、アラブも入ります。反アラブ、反ユダヤということです
・反セム主義の対極にあるのが、ナチスの人種主義です。「アーリア人は生まれながらにして優秀である」
・第二次大戦下のノルウェーでは、ナチのSS親衛隊の将校を集めては、ノルウェーの金髪女性と結婚させ
優秀なアーリア人を生産するという、人間牧場をつくっていた
・イスラムとは、生活そのもの、であるから、宗教と生活とは切り離すことができない、労働力不足を補うために、トルコを中心に移民を受け入れたドイツも実際にベルリン郊外に行くと、彼らを同化させたとはいいがたい現実がある
・今や、アメリカや欧州は、イスラムとの併存がより困難になる方向に進んでいる
・国境のない欧州という理想は、いまや風前の灯だ
・長い19世紀と、短い20世紀という考えがある
長い19世紀とは、1789年のフランス革命から、1914年の第一世界大戦勃発まで
啓蒙、進歩n時代、理性によって認識できる合理的な世界と言う意味である
短い20世紀とは、1914年の第一世界大戦から、1991年のソ連崩壊までをいう
啓蒙、進歩、理性がもたらした悲惨な結果を見て、人々はいままでのあり方でいいのか、もう一度、見直しが必要だとの見直しの時代
■アメリカ
・ごく普通のイスラム系市民が突如としてテロの実行犯となりえるアメリカの現実
・自由で民主的、世俗主義的環境で生まれ育ったアメリカ人のなかから、テロリストが生まれるという現実が可視化された
・アメリカの伝統的エリートは、WASP(白人のアングロサクソン系プロテスタント教徒)であり、さらに貧困層の白人系アメリカ人:労働者層のプアホワイトも現在のアメリカは建国の理念とは異質の人々によって従事られているという被害者意識をもっている
・ハーバードでロースクールへ通うためには、5000万もの費用がかかる
・現実にアメリカのエリート大学のほとんどは超富裕層の子どもしか入れない。エリート大学を卒業すれば、年収2000万から3000万からスタートできるが、普通のアメリカ人には就職口がない
・そもそもアメリカの中東原油依存は2割程度しかない。現実問題として、エネルギーの安定確保が中東関与の動機である
・アメリカが中東から一定量の原油輸入をしているのは、戦略物資である自国の原油を温存する狙いである
■中国
・北京はイスラムを力で抑え込めると考えているが、それは勘違いです
・ほんとうに中国はイスラム教、イスラム教徒との付き合い方がわかっていませんね。
・中国のアキレス腱は、台湾や朝鮮半島だけではなく、中央アジアの状況次第では、新疆ウイグル自治区の動向もちゅうごくの安全保障にとって重大事項となる
・中国の歴史とは、漢民族と、周囲の国の勢力変遷図といってもいい
中国は、西のチベット、ウイグル、内モンゴルも手にした
・フィリピンからアメリカ基地がなくなった、空白の期間に、中国は南シナ海に進出した
・日本は海洋国家ですから、これを絶対に認めることはできない
・日本が開戦の詔勅になかに、国際法を遵守するという言葉がはいっていないように、当時は、欧米人がつくった国際法は白人がつくったものだから守らなくてもいいと思った
・同じように、現在の中国も、国連海洋法条約を批准しているけれども、欧米に押し付けられたものだから守らなくてもいい、中国式でいけるところまで行くと考えているはずです
・そもそも中国人は共産主義の発想を理解していないのではないのか。
人のものは、自分のもの、自分のものは、自分のもの、の人たちが社会主義などできるはずはない。
目次
はじめに 世界を一周しながら変化の本質を読む
第1章 ポスト冷戦の終わり、甦るナショナリズム
第2章 ISを排除しても中東情勢は安定しない
第3章 中央アジアは「第四次グレートゲーム」の主戦場
第4章 「国境のない欧州」という理想はテロで崩れるか
第5章 トランプ現象に襲われたアメリカの光と闇
第6章 中国こそが「戦後レジームへの挑戦者」だ
終章 「ダークサイド」に墜ちるなかれ、日本
おわりに 第一級の分析家との仕事に感謝する
ISBN:9784569830711
出版社:PHP研究所
判型:新書
ページ数:237ページ
定価:820円(本体)
2016年06月29日