2007年初版刊行。
ISLの創設者である野田氏と、組織心理学と経営学を専門とする神戸大学名誉教授の金井氏による共著。
本書では、リーダーシップを「旅」というメタファーを使い、著者らが考えるリーダーのあるべきスタンスを説明する。
実践と理論の両方に精通し、リーダーシップというものを考え尽くした著者らだからこそ、本書で語られる内容には重みがあり、個人的にとても納得できるものだった。
久々に繰り返し読みたい本に出会うことができた。
本書ではまず、「マネジメント」と「リーダーシップ」を区別する。
マネージャーは、既存の組織の成員に対して、権威と権限をもって働きかけ、コントロールしようとする人たちを言う。
一方、リーダーは、「見えないもの」、つまり新しい世界を掲げ、人々の内在的な意欲に基づく行動を誘発し、同じ方向に歩みを共にする。
その上で、リーダーシップの発生を旅に例え、三段階に分ける。
①lead the self 自らをリードする
何のために行動するのか、何のために生きるのか、についての自分なりの納得感のある答えを明確に持つ。
②lead the people 人々をリードする
フォロワーの共感を呼び起こす。自分の夢が周囲の人たちに伝播し、周囲のみんなが、リーダーが見る「見えないもの」を見ようとして、自発的に動き始める。
③lead the society 社会をリードする
「我々の夢」となった段階の後で、その夢は社会のために、次世代のために、意味のあるものを残すという世代継承性というテーマが見えてくる。
その他、リーダーに必要な資質や、経営組織論に基づく理論などが豊富に解説されており、短い本でありながらも読み応えがあった。
また、後半では「日本の最大の問題は、「エリート」の不在」だと警鐘を鳴らす。
近代以降、人類の絶え間ない努力によって、我々は自由という最大のギフトを手に入れた。
しかし、個人が全員、自由を自分のためだけに謳歌すると、自由を支えている社会は維持できなくなる。
個々人の自由を守るためには、誰かが自分の意志で、社会に対する責務を果たさなければならない。
社会に内包されたこのジレンマに耐え、責任を負う個人がエリートであり、リーダーシップの旅を歩き続け、リーダーになる人である。
そしてリーダーの旅を経て得たものを再び社会に還流させていく。
それが、「ノブリス・オブリージュ」だと。
この一連の主張に、私は強く共感を覚えた。
現在の日本では、恵まれた家庭環境に育ち、良い大学を出て、一流と呼ばれる企業や官庁で働く人たちでさえ、まったく主体性に乏しい。
世間的には一流と称される企業で働いている自分だからこそよく分かる。
自分のビジョンがなく、上司や周りが言うことに流され、保守と既存エコシステムのメンテナンスに専念している人が多い。
厄介なのが、彼らが無自覚的だということだ。
自分のビジョンと保身を天秤にかけ、葛藤と苦悩の末に保身を選んでいるわけではなく、視野が狭く、視座が低い故に自分のビジョンがない。
本書で言えば、①lead the self すらできていない状態だ。当然、リーダーシップの欠片も持ち合わせない。
とはいえ、この状況の全責任が彼ら自身にあるわけでははい。
同じようにグランドデザインを欠いた日本の教育、オールドメディアの洗脳の影響も当然ある。
だから、今やるべきことは、一刻も早く、一人でも多くの強いリーダーを日本から排出できる環境を整えることだ。
リーダーシップの素養がある若い人をスクリーニングし、彼らに学習と挑戦の舞台を与える。
そして、無能と嫉妬によって若い有能なリーダーの足を引っ張る老害を排除する。
官民の両方がこれに取り組まなければならない。
この不安定で流動的な時代において、日本の復活のためには、変革と創造を取り扱うリーダーを一人でも多く増やさなければならない。
この想いを強くさせてくれた良書だった。