世界の名作家たちの短篇を青少年にも読みやすいように編纂された世界ショートコレクションシリーズ。表紙と各短編の扉絵はヨシタケシンスケです。
ジャック・ロンドンはやっぱり切れ味鋭く、しかしすっとぼけたような皮肉的なユーモラスがあり、自然描写が抜群です。雪の描写は自分の息が白くなりそう。
この本では、ヨシタケシンスケの影響か、一般書で読むよりもすっとぼけた感じや、広い世界からはちまちましているようだけれども一生懸命生きる人間の様子が感じられた。
『荒野の人々』
荒野にぽつんと建つ炭鉱夫たちの小屋に、ジャック・ウェストンデールという若者が訪ねてきた。自分の犬ぞりが盗まれたから追いかけている、少し休ませてほしい、というのだ。炭鉱夫たちは承知する。なかでもマラミュート・キッドは彼に親近感を持って接する。ジャックが出立する時にマラミュートは「本当は逃げているんだろう?あの道を行くんだ。気を付けてな」と送り出す。そのすぐ後に警官がやって来て「賭博場の金を奪って逃げた男を探している」という。マラミュートは目線で他の炭鉱夫たちを黙らせる。警官がジャックの橇のあとを追って出ていったあとに、マラミュートは皆に伝える。「ジャックは妻と生まれたばかりの子供を残して真面目に働いていた。だが二度も騙された。彼が盗んだのは、騙し取られた金と同じ金額だよ。」荒野に生きる者たちは、自分たちと同じように厳しい環境で働く男同士の心の絆があったのだ。
『世界が若かったころ』
「世界が若かったころ」って想像力が膨らむ題名だなあ、と思ったんだけど、物語最初は「ある夜、ある男が通りかかった森で巨大な類人猿のような野蛮人に遭遇した!なんだあいつ、コヨーテを追いかけてるぜ!見つかったらあっぶねー!逃げろーー」という描写。
実はこの巨大野蛮類人猿は、昼間は企業社長のウォード氏だった。彼は幼少期から抑えきれない野蛮な衝動があった。野山が、高原が、俺を呼んでいる!成長してから彼は、昼間はやりてアメリカ人として起業を成功させ、夜は叫び声を上げて森を放浪し獣と戦うという二重生活を充実させていた。この夜の巨大野蛮類人猿の口から出る歌は古代のドイツ語で初期のチュートン語なんだそうだ。彼は「世界が若かったころ」の住人なのだ。
だが人間のウォード氏はそろそろ結婚したい。婚約者リリアンに知られないようにするにはどうすればいいだろう?
ある時彼は屋敷にリリアン、その母、友人たちを招いた。なんとかこらえた彼の古代巨大野蛮類人猿の衝動を必死に抑えながら。そこにちょうど「サーカスから巨大凶暴クマが逃げ出したぞ―」という知らせが入る。庭先にその巨大凶暴クマの影。もうウォード氏の衝動は抑えきれない!彼は服を引きちぎりクマに向かっていった!!!
…なんか妙な勢いのあるお話だったな・笑
『キーシュの物語』
名誉ある狩人だった父が死んでから、息子のキーシュとその母は困窮した。村の掟で「余った獲物は分け合うこと」と決まっているのに、キーシュと母は滑られて食べ物を分けてくれないんだ。キーシュは村の会合で言う。「ぼくの父は、多くの獲物を獲り、足りない人々に分け与えました。今は僕たちが困っています。食べ物を分けてください。」しかし村の男達は「このガキを追い出せ!」と相手にしない。そこでキーシュは「ではぼくは自分の力で獲物を獲ってきます。ぼくと母には少しでいいので余った分は足りない人に分けます。」と宣言する。
そしてキーシュは多くの獲物を一人で獲り、あまりは村の人々に分け与えた。さすがに恥ずかしく、不思議に思った村の人々はキーシュの後を着ける。そして彼の知恵による狩りを知る。
その後キーシュは偉大な村の長となり、長い間尊敬された。
『たき火』
大人向けでは『火を熾す』という題名の、自然のシビアさ、それを甘く見た人間の手痛い最期が書かれて文章も内容も静かで鋭い物語でした。しかしこちらで読んだらやっぱりヨシタケシンスケの影響かなあ、シビアさより、眼の前の自分だけの利益に目がくらんで死を招いた男の、笑い事じゃないんだけど皮肉な突き放したような笑いが感じられました。
冬の炭鉱地(違うかも)で、木材独り占めを目論んだ男が、仲間と離れて犬だけを連れて駐屯地まで移動している。マイナス45度を舐めるな!と言われていたけれど、自分はできるさ、と思っている。
しかしあまりの寒さ、一人での行動、犬に冷たい仕打ちをしていたことの全てが彼を死へと向かわせる。
…読んでいて自分の息も凍りそうブルブル
『王に捧げる鼻』
王朝時代の朝鮮が舞台。
横領で死刑判決を受けたやりて官僚が、鼻の絵を描いて「この鼻で、自分の命と、王国の命運を救います!」と言って数日の自由をもらう。
頭のいいヤツがうまく立ち回ったお話。
『マーカス・オブライエンの行方』
炭鉱夫たちの町では自分たちの法律を決める。裁判官役に選ばれたマーカス・オブライエンは、炭鉱の権利を得て成功者になりそうだった。
でも急に消えた。
生きているんだけど、どこに行ったかを説明しに戻るつもりはない。
その時目が覚めたらボートに乗って漂流していたんだ。それは自分が判決を下した通りのやり方だった。俺、何かしでかしたのか!?運良く町に流れ着いて、全く別のことで一定の成功治めたから、これでいいや。
『命の掟』
これは最初に読んだ時には切れ味の鋭い物語だなあと思ったんだけど、やっぱりヨシタケシンスケの影響か、自然の中でどうしようもない小ささが目についたかなあ。
雪原地を移動して暮らす部族がいる。生きるのに足手まといになった老人は置いていかれる。彼の番になった。焚き火一つ、手に届く範囲の薪が少し。
多くの老人たちが、自分が、そしていつかは彼の息子や孫たちに巡る運命だ。
やがて飢えた狼に囲まれる。
彼は命にしがみつき、だが手放す。