素晴らしく緻密な歴史書であり、アート・マーケットのルポルタージュであり、陰謀渦巻く真贋論争のサスペンス!
昨年公開された映画『ロスト・レオナルド〜史上最高額で落札された絵画の謎』を見て、そこで描写される真贋論争を代理としたロンドン・ナショナル・ギャラリーとルーヴル美術館とのライバル関係などがめちゃ
...続きを読むくちゃ面白いと思っていたところ、とある画廊のブログに紹介されていたのがこの本。
この騒ぎの根幹は、そもそもレオナルド没後500年である2016年を狙って、美術館の大御所2つが前後して大特集展覧会を組んだ、というところにある。
ナショナル・ギャラリーの方は『レオナルド・ダ・ヴィンチ展inシアター』ルーヴルの方は『ルーヴル美術館の夜ーダ・ヴィンチ没後500年展』と、どちらもしっかり映画化されている。そういえば…と思い出してみると、ルーヴルの方では一切この作品に触れた様子はなかったように思うのだけれど(代わりに工房作品といわれる『ガナイ』が展示された)、ナショナル・ギャラリーの方では『個人蔵』とされてちらりと出てきたように覚えている。ええ!個人で持ってる人いるんだ〜!!!と思ったのだ。
だからこの作品は、所有欲の現れを意味する金額だけではなく、その真贋評価に美術史家、キュレーターとしての自分の価値を賭けた人たちの名誉欲もたんまり絡みついた巨星に化けることになったのである。面白くないわけがない。
ありがたいことに、各登場人物の紹介と流れが整理されて別項にあるので、本物のサスペンス小説のようにぐいぐい読み進めることができる。
この作品が現れた16世紀の始めから現在まで、巨匠の作品はおりおりに様々な人の手を渡り歩く。王族からディレッタント時代のコレクター、アメリカの新興ブルジョワ、そしてBRICSの大富豪、オイルマネー。それはそのまま経済史でもある。
一方、商品として以上に芸術的価値を求める人たちもいて、そこでは様々な模写を比較しながらの方法論や素材論が展開される。これもまた新鮮で面白い。
著者はイギリス人でルポルタージュ作家であると同時に美術記者でもある。原書のボリュームは翻訳版よりもさらに大きいとのことで、これは著者の了承を得た上で一部を抄訳でまとめ直した形で発行されている。でもがぜん、原書を読みたくなるではないの!!ホント面白い!