上達についての本質とてもよくまとまっている本。
大変大変参考になった。
はじめに
第一章 能力主義と上達の法則
第二章 上達と記憶の仕組み
第三章 上達人はどこが違うのか
第四章 上達の方法論
第五章 スランプの構造と対策
第六章 上級者になる特訓法
はじめに
・「上達には法則がある」
・「認知心理学、学習心理学、記憶心理学などをベースに上達法を科学的に分析した」
・「一芸に秀でようという人は、
①自分の上達と学習の筋道をあらかじめ思い描くことができる。
②周囲から受けるいろいろな助言のうち、理にかなった助言と理にかなわぬ助言を識別することができるようになる
③他芸の上達や後進の指導に役立てることができる
・「上達を積み重ねていくと、ある日突然、ものの見方が変わるという経験をする。・・・上達することによって、認知構造が変容するからである」
第一章 能力主義と上達の法則
・「本書で上達として考えるのは、このような超一流になる方法ではない。本書で上達というのは、ふつうの生活をしている私たちが、人並みの適性のある技能に、そう無理ではない練習量で、まあまあ一人前のレベルに達しようとする過程である」
・「上達の過程では、誰しもある程度の試行錯誤と無駄な努力をついやすのがふつうである。けれども、上達の法則がわかっていると、正しい努力の方向がだいたい見当がつく」
・「上達すると運動機能や認知機能に質的な変化が起こる。そしてその変化は、未学習の状態には戻らない非可逆な変化なのである」
・「どんな技能でも、上級者の域に達しようとすれば、それだけの努力を一定期間続けなければならない。・・・そのような生活を続けることは、自制心と自我の強さを磨く。そのようにして磨かれた自我をそなえた人格には、自信と安定感がある」
・「上達したいと思ったら、まず始めることである」
・「やるとなったときに、つぎに必要なのは、入門書や概論書を読んでみることである」
・「この段階では、とにかく上達しようとしている対象に慣れ親しむことが大切である・・・その刺激が自分に「訴えかけてくる」ものがあるかどうか、その刺激に心が感動するかどうか、自分自身を観察するのである」
・「技能の習得は、技能の構成要素を有意味処理する能力の向上を伴いながら進む・・・有意味処理されないものはうまく記憶処理されないのである。昨日まで無意味処理されていた刺激が心になにかしら訴えかけてくる感じがするのは、それらが有意味処理され始めた徴なのである。有意味処理が完全にされるようになると、それぞれの意味に適した準言語処理(コード化)が行われて意味が認識されるようになる」
・「このあたりで、上達を目指して練習や学習に携わる頻度をおおむね決定するべきである。週に二度にすれば、週一度の場合と比べると、上達の速度は雲泥の差となる。週に二度より高い頻度ということになると、週五度くらいの「ほぼ毎日」という頻度になる」
・「頻度を決めると同時に。習う場をどうするかという問題を考えるべきである。・・・注目したいのは、習っている人達の成長の速さと成長の次元である」
・「習得している技能のなかで、なるべく早く、なにか自分の得意や好きなものをみつけることがよい」
第二章 上達と記憶の仕組み
・「長期記憶を用いて、ものを考えたり、技能を発揮したりするときは、長期記憶に貯蔵された知識が、ワーキングメモリに呼び出されて用いられている」
・「技能に上達した状態とは、つぎのような状態である
(1)技能に必要な宣言型知識と手続き型知識が豊富に長期記憶に蓄えられていること
(2)必要な知識が、必要に応じて長期記憶から検索できること
(3)検索できた長期記憶が、ワーキングメモリで有効に用いられること
・「上達という現象はつぎのように考えることができる
(1)宣言型知識と手続き型知識の長期記憶を豊富に効率よく形成すること
(2)長期記憶に貯蔵された知識が効率よく検索できる状態を形成すること・・・検索に用いられるインデックスが確実に形成され、そのインデックスがシステマティックにできている状態が維持されること
(3)長期記憶から検索された知識が、ワーキングメモリに出力されても、ワーキングメモリに余裕がある状態を維持できること。そのためには、多くの知識が少ないチャンク数で表象される状態ができること
・「知覚、認知、思考が一定の方式のもとでできている状態を観察して「スキーマがある」とか「スキーマがない」とか言っているのである。・・・車両感覚のスキーマ、荷物の大きさから、重さを推測するスキーマ、球を打つためのスキーマ」
・「スキーマを支えている大きなものがコーディング能力・・・知識が貯蔵されるためには、七チャンクという容量限界のあるワーキングメモリを通過させる必要があるために、知識が言語に準じた形式に、その人の思考のなかで表される必要がある。それを本書ではコード化という言葉で表すことにしたい・・・コードシステムに動作の調整機能や五感の感覚が付与したものがスキーマである」
・「意味をみつける能力が高まると、一チャンクに入る記憶事象の量が格段に多くなる」
第三章 上達人はどこが違うのか
第四章 上達の方法論
・「得意なものにしばらくこだわってみると、それを中心にして全体が見えるようになる。そのプロセスを早い時期に形成するのが大切なのである」
・「ある程度コンスタントに練習するようになれば、どんな形でもいいから記憶やメモをとったりする工夫を始めるべきである・・・言語になりにくいものでもいったん言語化することが大切なのである。つまり技能をコード化し、コード化した内容を言語にする工夫が必要である」
・「ある程度定期的な練習体制が整ってきて、好きな型や得意型ができてきたら、本を読み始める。・・・技能に関するコード化の能力が上昇する。・・・概論的な書物から、鳥瞰的な知識が得られる」
・「概論書によって鳥瞰的な知識を得たら、理論的な勉強をする。・・・理論的思考を身につけることが、上達の道具となる。・・・理論書を学ぶことによって、細かい差の重要性や意味を理解できるようになる」
・「なにかひとつのものを決めて、それを精密に学ぶということをやってみる。・・・得意なもののなかから、さらに目標を絞り、とことん追求してみるのである・・・「もうこれはだいたいわかった」と思える・・・時間が自然に訪れたら、また別のものを対象にしてしばらく打ち込んでみる」
・「こだわりの時期は、自らに対する要求水準を高く作り上げる時期でもある」
・「精密トレーニングのひとつの手段として、深い模倣をすることが有効である・・・暗唱訓練では、可能な限り、模倣しよう、覚えようとすることが大切である」
・「イメージを維持するために、コード化システムの統合がさらに進む」
・「他者の演技やプレー、作品を見るときに、なるべくその他者に感情移入する練習は有効である」
・「いいものと悪いものの区別がわかるようになっている。そうすると、ある時期、いいものだけを見る、いいものだけに接するということをするのが有効である。理屈でわかっている段階から、直観でわかるような段階に飛躍をはかることが必要なのである」
・「達人の技に直接触れる機会を掴んでみる」
・「自分とそう類似もせず対局でもない人の個性について、その個性の生い立ちや特徴について考え、なるべく、言葉をあてはめたりして具体的に記述してみる努力をしてみよう」
・「この段階まで来れば、積極的に広域的知識を獲得する努力をする。一通り知っていなければならない知識を仕入れるのである」
・「類似の他のスクールや技能について関心をもつ」
・「自分の携わっている技能の歴史的背景を知ろうとすることも心を深くし、間接的に上達に役立つことが多い」
・「広域的知識を整備する一環として、手軽なものでよいから、辞典や事典を手元に置く」
第五章 スランプの構造と対策
第六章 上級者になる特訓法
・反復練習をする
・評論を読む
・感情移入をする
・大量の暗記暗唱をしてみる
・マラソン的な鍛錬をする
・少し高い買い物をする
・独自の訓練方法を考える
・特殊な訓練方法を着想するプロセス
・独自の訓練から基本訓練に立ち返る
・なにもしない時期を活かす