かつて子ども向けTV番組『密航者』で名を馳せた父、レオを探す娘レベッカの物語。
間も無く26歳になるレベッカは、幼い頃蒸発してしまったレオについて、彼に関する話題への家族のだんまり、拒絶も手伝い、ほとんど考えることなく過ごしてきた。
あの世間を賑わせた『密航者』ですら観たことがないくらいに。
ところ
...続きを読むが、とあるネット記者が「回顧記事に憧れのレオを取り上げたい、居所を知らないか」と協力を求めてきたことから、父との鮮やかな日々の思い出が蘇り、俄然自分ごととして父の行方が気になり始める。
家族に当たりをつけても、不穏な空気になるばかり。
そんな中、祖母から手渡された『7つのお話』。
父が失踪の2年後に9歳のレベッカに向けて書いたおとぎ話だという。
失踪した父の足跡を娘が辿る話、よくある話のようで、あれ、意外と思い浮かばない。
7つのおとぎ話が作中作として全文掲載されているも特徴的。
そして、調べを進めるうちにそのおとぎ話が暗示する解釈に胸がキリキリする。
どうにも制御出来ない心と大切なものを失いたくない気持ち。
共感できる部分ばかりではないけど、なんか分かるよその生きづらさ。
なんと言っても18章で語られる父レオ目線での顛末に胸を打たれる。
これが男性作家が書いたものならただの自己陶酔ではと感じてしまうが、女性作家に描かれることにより公平性が増すように思える。
訳はラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』の吉澤康子さん。
ミステリ度は低めだが、渋い良書を訳されますね。