あらすじ
11世紀末、第一次十字軍の奮闘により、聖都イェルサレムが占領され、中東に「十字軍国家」が成立した。しかしイスラム側の英明な領主たちの反撃を前に、キリスト教勢力は領土を失い、苦境に陥る。最後の希望を一身に集め、「癩王」と呼ばれた若きボードワン四世は、テンプル騎士団や聖ヨハネ騎士団の力を借りて総力を結集。「聖戦」を唱えるイスラムの英雄サラディンとの全面対決を迎えるのだった。
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実は今回、『十字軍物語』を選んだきっかけが、ボードワン四世の活躍が読みたかったからというのが大きい。「非株式会社いつかやる」の戦術紹介は秀逸だ。
イエルサレム王国を中心とした十字軍国家はシリア・パレスチナ沿岸の細長い地域でしかない。周りはイスラーム世界に囲まれており、キリスト教にとっての聖地であれば、イスラム教にとっても聖地という複雑な地、イエルサレム。常に兵力不足を抱えながらイスラーム軍の襲撃に耐え続ける。その地に生きる人々の緊迫感は計り知れない。そんな中でのボードワン四世の英明な立ち回り、ライ病を患い先が長くないのを自信も臣下達も悟ったうえで誰もが敬い崇拝した癩王。この1人のために国がまとまり、総力戦で外敵に挑む。13歳で即位し24歳で逝ってしまった儚くも華々しい活躍に涙を禁じ得ない。FGOで実装されたら何がなんでも引く。
そして、そのボードワン四世が倒れて無能なイケメンが即位してすぐにイエルサレム王国は崩壊する。癩王のカリスマあってこそ、なんとかなんとか食いつないできた国家が消え去るのは一瞬だった。
第二巻は第一巻と比べて、突出した人物が少なく、その分登場人物が多く覚えきれなかった。また、地中海の商業国家の話、城塞の話などなかなか読むに進めづらい内容もあったが、全体を通して読めば背景として絶対必要な部分であったと思えた。やっぱり面白い。
塩野七生、イスラーム側も書いてくれないかしら。
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イスラムの英雄サラディンによるイェルサレム奪還の物語。
第一次十字軍がイェルサレムを奪った際、当地のイスラム教徒の住民を皆殺しにした一方、サラディンはキリスト教徒を追放しただけだった。
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11世紀末、第一次十字軍の奮闘により、聖徒イェルサレムが占領され、中東に十字軍国家が成立した。この国家の儚い夢をイスラム世界の英雄サラディンが打ち砕く。
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面白いよ〜っ
塩野七生は司馬遼太郎並んで色々言われるけどやっぱり面白い!
皮肉にもエルサレムがサラディンによって奪還されるところだった……
サラディンも、ボードワン四世も、イベリンも、かっこよ……まだ戦いながらも相手を完全排除する思想は無いのが切ない。
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これでもかこれでもかと弱体化していく十字軍諸国だが、それでも活躍するヒトが出てきたり、イスラム側の問題もあって、アレ?これエルサレム陥落しなくね?と思わせておいて、280頁以上読ませてから出てくるサラディンがあっという間にエルサレムを・・・
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200年間にわたる十字軍国家時代の第二幕の幕開け。
「神がそれを望んでおられる」という号令のもとイェルサレム奪還を成し遂げたヨーロッパ諸国のキリスト教団達。
その名を連ねるのはタンクレディなどの卓越した人材達。
だが、イェルサレム奪還後、
第一次十字軍に名を連らねるような人材がキリスト教側にはいなくなってしまった。
「人材とは、なぜかある時期に、一方にだけ集中して輩出してくるものであるらしい。だがこの現象もしばらくすると止まり、今度は別のほうに集中して輩出してくる。なぜ双方とも同時期に人材は輩出しないのか、という疑問に明快に答えてくれた、哲学者も歴史家もいない。」
たしかに、
古代ローマ時代には、
ハンニバルによって内部からズタズタにされたローマ側には、正面きってハンニバルに太刀打ちできる人材はいなかった。
そのあと、スキピオアフリカヌスが台頭してきたことで、初めて退けることができたが。
イェルサレム奪還後は、
イスラム国家側に人材が輩出していく番であった。
イスラム国家の統一が、サラディンによって初めてなされることになる。
統一を欠いたイスラム国家が統一されたこと、そしてまたサラディンが稀代の戦略家であったことが、イェルサレムがまたもイスラム側に奪還されることへ歴史を動かす。
なぜサラディンは、
イェルサレムを奪還できたのか? その卓越性の大元は何にあるのだろうか?
そのサラディンは、
30歳まで人の眼を引かずに学問と教養を深めていたのだ。
そんなサラディンのことを、当時スンニ派のトップであったヌラディンはサラディンのことを舐めきっていた。
そして、強運だった。
都合の良い時に、都合の悪い人が死んでいった。
そして、教養から身につけたのであろう。今までのイスラム人達が考えなかった戦略でイェルサレム奪還を果たした。
無血開城で。
その際の、イベリンとサラディンの会談は騎士道精神にあふれた素晴らしいエピソードだ。
十字軍とはなんなのか。
その核心に迫ることができる。
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第2次十字軍の大失敗とその後の十字軍国家の防衛とイェルサレム陥落の物語。今回は聖堂騎士団と病院騎士団に癩王ボードワン4世、バリアーノ・イベリン、そしてイスラム側はアサシンとスルタンのサラディンという、1巻に勝るとも劣らないキャラの立った漢達が大活躍する。やっぱり塩野七生は熱い。
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☆☆☆2019年8月レビュー☆☆☆
ゴドフロア、ボエモント、タンクレディ、ボードワンといった第一次十字軍の築き上げた十字軍国家の維持という難題を背負った人々の物語。
完全アウェイの中に築かれた帝国だけに維持が困難なのは想像に難くない。そのために大きな役割を果たしたのは聖堂騎士団、病院騎士団、城砦、経済交流、海軍。
なるほどなぁ、と納得がいった。
約900年前の中東に遠く思いをはせる。
癩王、ボードワン4世の活躍も印象深い。
死を覚悟した人間の美しさがあらわれたような人物。部下からも慕われ、常に最前線で戦った。日本でいえば、大谷吉嗣のような人物だったのではないか。
イスラム側では、ヌラディン、サラディンと英雄が続々とあらわれる。大地震以降のヌラディンの変化(優しくなった?)も興味深い。
十字軍という壮大な人間ドラマもいよいよ折り返し。
花の第三次十字軍へ!
リチャード獅子心王!
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第二次十字軍とイスラム世界側の反撃が始まる話。
英雄とされるサラディンは、名前は知っていたが、相当の戦略かであるとかは全く知らなかった。
もっと残虐な人でイェルサレムの解放も相当な血が流れていると勝手に思っていたので読み進めるにつれて良い意味で裏切られた。
また、十字軍国家側は少しずつ能力の低い人が王になってしまう悲劇的な面があったというのも、物語として、面白かった。
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十字軍物語の第2作目。エルサレムを奪還した十字軍国家だったが、徐々に有能な人材が枯渇していく。一方、イスラム教側には英雄サラディンが登場する。十字軍国家の興亡を独自の視点から描く良作。文化的経済力的な観点からも分析も面白い。
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エデッサの陥落の報によりヨーロッパ社会は震撼した。
エデッサ陥落の報を受け、神聖ローマ帝国皇帝とフランス王直々に攻めた第二次十字軍は完全な失敗に終わる。
第一次十字軍のち、イェルサレム王国を中心とする十字軍国家は停滞していた。
慢性的な兵力不足が原因だった。
それでも王国が保たれていたのは、対するイスラム側にまとまりがなかったからだ。
シーア派とスンニ派に分かれ、部族、領主は領土拡大で敵対しあい、まとまってキリスト側に反撃することがなかったのである。
しかし、ついにイスラム側にも英雄が現れる。
ゼンギ、ヌラディンに続き、イスラム社会をまとめ上げたのは少数部族クルド出身のサラディンだった。
アレッポを拠点に、ダマスカス、さらにカイロまでを手に入れたサラディンは十字軍国家へと反旗を翻した。
対するキリスト側は病を抱える癩王ボードワン四世が善戦するも病に斃れ、以降まともに戦える指導者がいなかったのである。
第一次十字軍から百年後、イェルサレムは再びイスラムのものとなり、元通りになる。
次巻、花の第三次十字軍へ続く。
神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ一世、フランス王フィリップ二世、そしてイギリス王獅子心王リチャード一世と、再びキリスト側に英雄が登場する。
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中世の十字軍の歴史を物語として語られる第2巻。前巻で聖地を獲得したヨーロッパ勢ですが、今回はそれを奪い返されるところまでです。第一回の英雄たちの後を継ぐ者たち。そこまでの輝きはないながらも、イスラムという敵の只中に居ることで苦労しながらの人生を避けることができません。平時ならば優秀だろう指導者ですが、今回はイスラム側に英雄が現れてしまい、それによって中東を追われてしまうことになります。
歴史とは、ダイナミックなものに見えますが、一人一人の物語の中で出来上がっていくものなのだということを感じながら、一気に読み上げることができました。
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時代は映画・キングダムオブヘブンのあたり。
ボードワン4世が素敵。あとイベリンとサラディン。
ヴェネツィア共和国もちょいちょいおいしい。
有名な聖堂騎士団、聖ヨハネ騎士団が出てくる!
あと山の老人も出てくる!ゲーム・アサシンクリードの部隊。
一神教ってどうにも融通が利かないねえ。絶対正しいものなど存在しない。
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イベリンとサラディンが印象的。やはりイデオロギー第一となると変な方向に向かい、本部にいるとどうしても判断がイデオロギー第一となるのはいつの時代も同じか。あと多様性って重要だとも感じた。能力を判定できないから出自や教義を「わかりやすい正解」として重視するのかも?とも。
またこの巻には女性がよく出てくるが傑出してるのがエレオノール。この人は結果的にヨーロッパ中をかき回すのですね。何とも凄い!この人もとても魅力的、多分勝ち気な上にとても美人だったんでしょうね。
もう一つはテンプル騎士団と聖ヨハネ騎士団。騎士団って言葉としてはよく聞くけどこの辺りが起源なのかな?ここでもインテリの聖ヨハネ騎士団の方がバランス感がある。塩野さんもいう「教養はバランス感覚を養う」かとは思うけど、その教養の頂点にいそうな法王などは何だかバランス悪いのはこれいかに…
しかし第一次と比べ動きが少ないのでおそらく資料も少なそうなのにここまで話を繋げるのは流石ですね。
Posted by ブクログ
ふとしたきっかけで知ったエルサレム国王ボードゥアン四世に
心惹かれるところがあり、彼に関する記述周辺を中心に読みました。
彼の王としての責務や難病から逃げない姿勢は
本当に勇気を与えてくれます。
環境ではない自身の心の在り方で生き方は変わるのだと。
ただ周囲の人間に良くも悪くも頼らなくてはならない状況が
彼の運命を大きく変えた部分も多々あると思います。
母や姉に、彼を支える気概やものごとの本質を見抜く教養があれば
また違っていたのでは。
特に姉が見目麗しい(だけの)夫を選んだことは、
弟の心を非常に傷つけたのではないでしょうか。想像すると本当に胸が痛みます。
一方で優秀な側近や高い忠誠心を持った兵士が集ったというのは
彼自身の優秀さや人柄をよく物語っています。
彼は病気に侵され崩れた容姿を隠していたそうですが
そんなことは気にならない位に生き方や心の在り方が
大変美しいものだったのではと思います。
生涯、サラディンという強敵の存在があったからこそ彼は国を守るために
これ程までに必死に命を燃やしたのではないかと思うと胸が熱くなります。