【感想・ネタバレ】西遊記 10のレビュー

あらすじ

千里を行くものは九九九里をもって半ばとす、とて、ようよう西方み仏の地に足を踏み入れた一行、平穏無事の旅はまことに極楽の地を行くごとし。どっこい、苦難の旅の終りも間近、大天竺国にて国をあげて賑やかなその日、婿選びの綉球投げにて三蔵を狙うのは、取経の聖僧を待ち受ける、国王のにせ公主であった。(全十冊完結)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中国明代の白話(口語)文学の代表格にして、「四大奇書」の一つとしても知られる小説『西遊記』の日本語全訳。唐代の僧玄奘(三蔵法師)のインド取経の故事を題材に、孫悟空・猪八戒・沙悟浄の三妖を従えた三蔵の波乱万丈の旅を描く。最終巻となる第10巻では第九十一回から第百回(完結)までを収録すると共に、役者による作品解説を付す。
本書は、岩波文庫から刊行されている『西遊記』日本語訳シリーズの最終巻である。前巻に引き続き天竺国を往く三蔵一行、彼らの長い長い取経の旅もいよいよ終局へ。金平府では仏に化けて油をくすねる犀牛怪を退治し、天竺国の都ではまたしても三蔵に女難の影あり。親切心が仇を呼ぶ銅台府での騒動を切り抜ければ、そこはもう如来まします霊鷲山が雷音寺。果たして三蔵たちは無事正法の真経を賜り、正果を全うすることができるのか――。
全百回、文庫本にして10巻におよんだ『西遊記』の物語は本巻をもって完結となる。旅程にして10万8千里、足掛け14年にも渡る取経の旅は、三蔵一行による唐土への正経伝来、そして一同の成仏でもって大団円を迎える。とはいえそれはあの騒がしくも賑やかな珍道中の終わりでもあり、毎度毎度散々な目に遭う三蔵の姿も、神通力を揮い天地を奔走する悟空の姿も、とぼけたことを抜かしては悟空にドヤされる八戒の姿も本巻をもって見納めとなるのは少々寂しくもあるのが正直なところか。余談ながら、霊鷲山までの最後の艱難(寇員外編)がこれまでのような神仏妖怪によるものではなく、「ただの人間の悪意」に由来するものであったというのもどこか意味深長に感じられた。
巻末の訳者による作品解説では『西遊記』の成立史のみならず、孫悟空のルーツたる「取経のサル」の由来やストーリー構成についての詳細な説明がされており、本作の理解に大いに参考になる。本巻までで訳者がたびたび訳注で指摘してきたように、『西遊記』は単なる冒険小説ではなくその中に様々な隠喩やモチーフを秘めた作品でもある。訳注や解説で示されているのはそのほんの一端に過ぎないが、『西遊記』という物語の奥深さを改めて実感させてくれると共に、訳者による『西遊記』の解説本も紐解いてみたいと思わせてくれた。

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2025年11月22日

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