あらすじ
官兵衛は信長に新時代が出現しつつあるというまぶしさを感じていた。「だからこそ織田家をえらんだ」のだ。信長に拝謁した官兵衛は、「播州のことは秀吉に相談せよ」と言われ秀吉に会う。秀吉は官兵衛の才を認め、官兵衛も「この男のために何かせねばなるまい」と感じた。ふたりの濃密な関係が始まった。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
戦争、政治という諸価値の入りまじったややこしい事象を、官兵衛は心理というものに帰納して考えようとする。
心理という、このあたらしい言葉で彼の行き方を解こうとするのは、用語として粗雑の気味もあるが、要するに官兵衛は、ひとの情の機微の中に生きている。ひとの機微の中に生きるためには自分を殺さねばならない。
(私情を殺せば、たいていの人の心や物事はよく見えてくるものだ)
官兵衛は早くから気づいていた。官兵衛に私情があるとすれば、一つしかない。が、平素は忘れている。むろん、かれの父親にも洩らしたことがなく、かれ自身、真剣にそれを考えてみるということなどもなく、要するに、いまの日常からいえば桁の外れたことなのだ。
官兵衛はおそらく、みずからそれを思うときでも、ひそかにはにかまざるをえないであろう。つまり、天下を得たいということなのである。天下を得て志を万里のそとに伸ばしたいというのはこの時代の男どもがおおかた抱いていた鬱憤であり、当然なことながら官兵衛だけのことではない。官兵衛の場合は含羞(はにかみ)をもってそれを思うだけである。