あらすじ
破滅へと向かう聖クルザ騎士団の窮地を救ったコルとミューリ。彼らの騎士としての在り方に絆の答えを見つけたコルたちは、二人だけの騎士団を結成する。
憧れの騎士という肩書きに夢中になるミューリだが、立場上コルに素直に甘えられなくなり、頭を悩ませることに。そこにハイランドから、麦の大生産地・ラポネルの調査依頼が舞い込む。
賢狼の娘ミューリは麦の産地と聞いて意気込む。しかしその地の元領主ノードストンには、悪魔と取引しているという不穏な噂があった。そして、王国と教会の争いを解決する可能性を秘めた新大陸発見への手助けを“薄明の枢機卿”コルに持ち掛けてきて――!?
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Posted by ブクログ
シリーズが始まった頃は、ロレンスとホロが本拠としたニョヒラを飛び出したコルが、ミューリと一緒に旅をしながら、いつの間にか「薄明の枢機卿」などと呼ばれる存在になっていくという、ある意味で立身出世的な話として読むことができた。また『狼と香辛料』でサラッと登場したウィンフィールの騎士団をめぐるゴタゴタを描くあたりも、政治的な駆け引きや宗教組織との距離感がうまく組み合わさっていて、シリーズものの続編として十分に楽しい作品になっていた。
ところがV巻でコルとミューリがブロンデル大修道院へ向かう旅に出たあたりから、この作品の雰囲気は少しずつ変わり始める。ある意味でライトノベルの王道とも言えるが、物語が進むにつれて世界の謎が少しずつ明らかになっていくという形を見せ出したのだ。おそらく著者は前作では意識的に避けていたその展開を、このシリーズでは入れ込むことを決めたのだと思う。
Ⅴ巻でミューリの思いつきのように話された、「人ならざるもの」の時代を終わらした「月を狩る熊」の正体が教会の始祖であるといったアイデアは、どうやら本作の内容においてはそれなりに重要なものを示すらしい。というのも本作ではいつもの通り物語で起こった厄介事を解決することと並行して少しずつ境界とは何であるかとかそもそもこの世界はどうなっているかといったことがとりあげられるからだ。
考えてみれば、この世界は実に不思議な構造をしていて、中世ヨーロッパのように教会の力が明らかに強いのだが、一方でその教会を統括する教皇庁がどのような組織であったのかというのはほとんど描かれていない。劇中では屈指の神学知識を持つとされるコルが知らないのだから、おそらく明確には残されていないのだろう。
本作のエンディングでコルが気が付いた、あるいは気が付いてしまったように、この世界では「世界は丸い」と主張することは禁忌に当たるらしい。現実の歴史と同じく、どうやらこの世界では教会は「地球の果て」が存在していることを主張しているらしいのだ。神学については誰よりも強い知識を持ちながらも一方で現実的な感覚を失っていないコルが、どのようにしてこの「気づき」と折り合いをつけていくのかというのは、今後物語を動かしていく一つの要素となるだろう。