【感想・ネタバレ】翔ぶが如く(二)のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年10月07日

征韓論前夜の一部始終の歴史物語。西郷隆盛がモンモンモンモン…悶々悶々悶々悶々…ひとりで…。


 魚釣りに出かけてる。

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p20  尺度は人の業
 人間の相克は、利害にもよる。しかし尺寸にもよる。人間の不幸は、人によって尺度の大小異なっていることである。

p22  西郷の尺度
 西郷...続きを読むは征韓論という言葉を使ったことはない。遣韓論という言葉を常用した。あくまで西郷は使節として話し合いに行く。ただ、和解は無理な協議だから、自分の死を以て日本の、ひいてはアジアのために列強に対抗するアジアの連携を達成しようと考えていた。

p24  西郷は好戦的か嫌戦的か
 「誰が戦を好むものか」⇔「道義をまもるためにはたとえ一国が亡びようとも戦え。一国の政府たる者は戦の一字を怖れるべからず。」
 西郷の中には矛盾した思想がある。戊辰の頃には、江戸を灰燼に帰し将軍の首を撥ねて新時代の礎にする。ということを言いながら、無血開城を実現し慶喜を水戸に逃し、奥州越列藩に慈悲を与え、戦後には榎本武明ら佐幕派の者に恩赦を与えた。
 そういう、矛盾した正義をもつ熱い男だった。

p32  己を愛するなかれ
 西郷の自己教育の精神。己への愛を忘れれば、自己を客観視できるようになるということらしい。
 甘えのない男だったのだろう。彼は子供のころに皆が嫌う算盤をあえて学んで、若いうちから藩の書記の仕事に就いて家計を助けていた。子供のころから自己犠牲の精神が強かった。そこから生まれた信条だったのだろう。

p40 山県の考えたこと
 山県が海外留学で学んだことは、王政の斜陽と国家議会の伸長という時代の潮流である。日本では天皇という王を掲げて新政府を作ろうとしている。世界とのギャップに恐怖したことであろう。

p44  天皇の重厚さ
 日本史における明治二十年代以降からの天皇の扱いが重厚なものになったのは山県の仕業。
 山県がロシア皇帝ニコライ二世の戴冠式を見に行って、皇帝の扱い方を学んだ。従来の天皇は人目についてはいけないものであった。それは結局天皇はあってないような存在になっており、欧州のような絢爛豪華な威信はない。ロシアのように専制権はもたない「君臨すれども統治せず」の皇帝だが、豪華さを取り入れた、象徴にふさわしい威信を天皇に付加した。

p47 軍人勅諭は山県が作った
 司馬氏の忌み嫌う「統帥権」これの根拠となる記述がこの軍人勅諭にある。
 -「軍は天皇の威光によって召集された栄光ある集団である。」であるからして、軍人たる者、天皇の直属の臣下として崇高なる人格を持つよう努めなければならない。ー
 というような軍人の道徳書として作られたのだが、昭和の軍人によって曲解された。軍を指揮するのは天皇の権利であり、軍は内閣や国会をすっ飛ばして天皇に直接奏上し、戦争をおっぱじめられる。というように扱われ、大失敗したのだ。
 山県が悪いわけではない。が、根源はココである。

p52  狐疑深き…
 西郷隆盛は弟:従道に対して「狐疑深き」者として記述している。従道は兄である隆盛は明治新政府を倒し第二の維新を考えているのではないかと疑っていた。ともに留学した山形有朋の影響で国権主義に傾いた。そこからすると隆盛は共和主義のようにも見え、疑わずにはいられなかった。
 ただ、隆盛を疑ったのは従道だけでなく、薩摩藩でも多くいた。というか、根本から信用しないのだ。隆盛は藩主:島津久光を裏切る形で維新を起こした。久光の周囲の人物からは決して信頼されない人物であった。
 こういう周りの見方もあって、従道は身内ながら独特の見方を持っている。征韓論についても外遊を経験した身で、西欧列強の考え方は分かっているから反対の意見を持っている。

p70 薩摩は700年
 薩摩藩は鎌倉時代以来700年続いた、徳川家よりも歴史のある家柄である。それだけに藩士の結びつきも強い。それを廃藩置県したのである。

p93  西郷の情報不備
 征韓論争中の西郷は岩倉具視ら参議の集合を待って自宅にこもっていた。そのとき、桐野利秋ら西郷の側近らは自宅警備として交代で西郷宅に詰めていた。そのせいで西郷は人に触れる機会がほとんどなかった。桐野らが「西郷どんの静謐を守るんじゃ」と来客をけんもほろろに追い返してしまうのである。
 そういうこともあってか、この頃の西郷は情報に偏りや不備を持つという風がある。

p177 江戸開城
 江戸無血開城の功労者は、慶喜の側近の勝海舟である。当時の諸外国の考えとしては、社会混乱による日本市場の縮小は避けたく、新政府と幕府の江戸での内乱はやめてほしかった。勝海舟は外国公使の思惑を読み、あえて「われわれ旧幕軍が江戸で暴れれば火の海になるであろう。もし官軍が慶喜を許すというのなら江戸を開城するつもりなのだが…」と英国大使パークスにふっかけ、官軍に圧力を加えさせた。
 と、アーネスト=サトウの回想録にある。このサトウはすごいようだ。調べよう。

p239  なぜ泣くのか
 「千絵」という章。維新で徳川の幕臣だったものは駿府へ引き上げるか、新政府の朝臣になるか、農商になるか選択を許された。芦名靭負という旗本は朝臣になろうとするが、維新の動乱で命を落とす。その子供、新太郎は彰義隊に加わり命を落とし、妹の千絵だけが生き残った。動乱で兄とはぐれ何年も兄の消息を知らなかった千絵が兄の死を知った時の一節
 -なぜ泣くのか。兄のために悲しんでいるのではなく、自分のために-
時に涙は蜜のようで、不幸という蜜をなめて甘美に悲しんでいるのではないか

p246  拡大資本主義ではなく
 明治初期のころ日本が外国に輸出できる産業はなかった。資本主義のための領土拡大論などというものは成立しようもない。ただ、アジアの連携による欧米列強からの防衛圏を作るのが論点である。征韓論を資本主義と絡めて考えるのはいけない。
 欧米のアジア進出も、産業革命であふれた商品のはけ口となる新たな市場をもとめて、暴力的に行われたのである。日本は違うからね。

p254  薩摩字書
 旧薩摩藩士:高橋新吉は日本で最初に印刷された英和辞典を作った男である。

p347  大衆は…
 大衆は明晰よりも温情を愛し、拒否よりも陽気な放漫な大きさを好み、正論よりも悲壮に憧れる。
 やがて、明晰と拒否と正論を悪とみなすようになる厄介さである。
 大久保利通はこの三つを持つ男であり、大衆に好かれなかった。そういう朴訥な男であった。その対極に西郷隆盛がいる。

p358 山県有朋のお食事券
 山県は明治早々、明治最大の汚職事件を起こした。
 長州出身の貿易商:山城屋和助は山県の口利き(賄賂で)で兵部省の御用商人になった。そして和助は官金に手を付け生糸相場に手を出して大損をこいた。そして高跳び。山県は和助とのつながりを洗われて責任をとらなければならなくなった。
 これを機に新政府の薩長の関係にひびが入り、新体制に暗雲が立ち込めた。西郷は薩長体制を守るべく、山県を救った。紛糾する薩摩藩士を抑え、薩長体制の崩壊を防いだ。
 実際、山形有朋ほどの実務家が他におらず、彼ほどの人材を失っては出来立ての陸軍省は立ち行かなくなる。事実、一時機能停止した。その面でも西郷から見込まれており仕方なく山県は許されたのである。それゆえ、山県は西郷に頭が上がらなかったのである。

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 学校の授業では征韓論も明治維新の速い流れの中でさらっと流されていってしまう。
 征韓論っていうのは当時の列強の帝国主義とか、アジアの被植民地側の危機感とか、深いテーマなんだよな。

 この巻では征韓論の議論のテーブルに着くまでのダラダラ、グダグダ、イライラする裏工作の様が、幾度も幾度もわき道にそれて、だらだら、ぐだぐだと書き連ねてある。
 司馬先生の書き方がすごくダラダラしていて、西郷が征韓論に関して待たされている感じがよく出ている。


 それにしてもスゴイ内容の濃さ。登場人物全ての解説をしようとしているとしか思えない。

 それでいい。

 それがいい。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年04月01日

p.369
この連中の過去を動かしてきた志ーあるいは精神の肉腫ーのようなものが邪魔をするのかもしれない。

様々な思惑が蠢いているようです。いつの時代もその辺は変わらないんでしょうね。次巻も楽しみです。

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Posted by ブクログ 2017年02月21日

西郷隆盛が提案した征韓論をめぐり、新政府の危機と察して色々と動き回る伊藤博文、岩倉具視ら反対派の動く姿が文章中で目立つ。西郷隆盛はもう少し物事に対して積極的に動くイメージがあったので、作品を読んで意外に感じた。ここまで2冊読んでみて、ちょっと本の内容を完全に理解するには自分の歴史の知識がなさ過ぎて辛...続きを読むいかなという印象を受けた。戦国時代と共に、日本史の流れの中では非常に興味のある所ではあるが、話の内容が詳し過ぎるためか理解がおぼつかない。ともかく、合うかどうかは別にして一度すべて読んでみたいと思う。

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Posted by ブクログ 2016年10月10日

この巻は明治6年の政変の直前の状況をめちゃくちゃしっかりと「説明している」巻でした。

なので、西郷さんは、三条太政大臣から遣韓大使として韓国に行ってもいいよって話をもらい、明治天皇の勅令も下りているのに、「後日岩倉右大臣の承諾を得ること」って部分がクリアーできなくて、待ったをかけられてストレスがた...続きを読むまっている状況のままでした。

そもそもの征韓論がロシアの南下政策を懸念して韓国と手を結ぼうとしたものであったとしても、韓国は看板でしかなくて、実際はうしろにイギリスに実効支配された中国(清)とかがいるから、簡単にはできないって政府の意向もわからんでもないんだけどね。

話が動かないように見えるので、歴史に興味がない人にはキツい巻かも…(笑)
らじ的には知識の確認ができて良かったです。

しかし、歴史を知れば知るほど長州って好きになれないなぁ~!

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Posted by ブクログ 2013年11月16日

再読。
学術書で知識を入れたからか、前回より面白く読めた。これまで全く関心が無かった山県有朋をもっと知りたくなった。カリスマ性はないものの着実な実務の積み重ねで首相にまでなった彼の生き様は、組織人の生き方として勉強になりそうだ。

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Posted by ブクログ 2011年11月20日

征韓論をめぐる維新後のやり取りが、西郷中心に話題から大久保や板垣・大隈などに広がる。正直明治維新というと、新たしい時代の幕開けに、統幕勢力が結集して新しい日本を作るというストーリーを描いていたが、1巻での西郷の体たらく、2巻でだれも先頭に田等としないつばぜり合いだったということに、ちょっとがっかりだ...続きを読む。そういった事実をしったことも重要だと思うが、幕末のことがなんだったのか。やはり、革命後の難しさが出ていると思う。そういえば、どっかの政党もおなじだよな。

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