あらすじ
19世紀後期の英国。堅く閉ざされていた過去の扉を開けたロウランド伯爵の述懐は続く。恋焦がれたリッケンバッカー伯爵の令嬢アンナを娶った彼が手に入れたもの。それはなんであったのか。虚飾のベールが取り払われたとき、そこには人の望みも祈りをものみ込む深淵が横たわっていた。そして、今宵は聖夜、父の帰還を待つ子供らを前に家庭教師レイチェルは――。電子限定おまけ付き!!
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19世紀英国の伯爵邸が舞台。「冬の物語」は謎の死を遂げた伯爵の愛人の死の真相を、彼女の息子・ライナスが追う話、「春の物語」以降は伯爵邸へ家庭教師としてやってきた牧師の娘、レイチェルを中心として物語は進んでいきます。
厳格なレイチェルは当初、愛人を多数抱えるロウランド伯爵を嫌悪するものの、息子たちへ深い愛情をそそいでいるのを知り、子供たちのため、更なる家庭円満を目指すべく奮闘しますが、実はそれは伯爵邸の歪で美しい世界に光を差し込むがごとき行為であり、何度も傷つけられ、絶望を味わうこととなります。
レイチェルのがんばり具合と報われなさ(報われることもありますが)には読者としても何度も打ちのめされますが、構成や心理描写の巧みさ、抜群の絵の上手さに魅せられ、読む手が止まりません。
※同著者の『Honey Rose』は『Under the Rose』から数年後の伯爵邸が舞台ですので、ぜひ本作を先にお楽しみください。
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Posted by ブクログ
待ちに待った新刊!
内容が濃すぎて読むのに普通の倍かかる。そして読み終わるとぐったりする。
でもやっぱり面白い。人による相手の見え方の違い、立場による考え方の違いなど、非常によく考えて作られていて、濃い人間模様にうーんと唸らされる。それぞれのキャラクターに共感できる部分、出来ない部分があり、リアリティを感じる。
今回の巻はアーサーの逃避行の顛末と過去の回想。
面白いなぁと思ったのが、アンナ以外の皆が善人な事。
アンナの兄、お母さん、そしてモルゴース夫人。今まで欠陥が強調されて来た人達が「善人」の部分を見せる。特にアーサーの姉であるモルゴースは今までの視点とは全く異なり、非常に優秀な貴族の夫人として描かれている。
これがアーサーの目線なんだろうと思った。
アーサーは人を見る時にいいところばかり見る人。それは素晴らしいと思うが、彼の場合は「悪いところを見られない」でもあると思う。きっと「良いところを見る。悪いところは見ない。そうすれば相手を愛せる」というのが自分を守る手段なのだと思う。だから、アンナの事も庇い、自分を騙し、付き合ってきた。それはきっと「一度憎んだらとことん憎くなってしまうタイプだから」でもあるのかなと思った。
今回アーサーは自分の中の憎しみに気がついてしまった。きっともう戻れないんだろうと思う。最後の「ご迷惑をおかけしました」に全てが現れていて怖い。
アンナはアンナで不器用なんだろうなぁと思う。自分と相手の間に折り合いをつけられない。変われない。変わろうという努力も出来ない。一度嫌悪感を抱いたら徹底的に拒否する。
少女から大人に変わるきっかけが掴めないまま、安全な場所から外に放りだされてしまった人なんだろう。
しかしこういうタイプの人って本当自分で破滅の道を選ぶよなぁ…
アーサーの良さに早く気がつくか、一生気がつかないで部屋にこもってるかすれば、まだ良かったのにと思ってしまう。
巻末のウィリアム君が最後にちょっと微笑ましい気持ちにさせてくれてよかった。
歪んだ家族の中で育ったから、まっすぐなレイチェルに惹かれ、そして歪んだ愛情を向けちゃうんだろうなぁと思う。
きりの良い所で終わっていて良かった。後2年位何とか待てそう。