鈴木貞美のレビュー一覧
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鴨長明の生涯と、その著作である『無名抄』『方丈記』『発心集』を解説し、彼の求めた「自由」の意味について論じている本です。
著者が長明に見いだした「自由」とは、「束縛を嫌い、自身にしっくり感じられることを求める心の意味である」と説明されています。『無名抄』は、「名」を捨てても「自矜」は残るという長明の精神にもとづいて書きのこされた作品です。「『無明抄』は、現世の「名利」を捨て、うたの道に賭けた長明の自矜が残したものだからである」と著者は述べています。長明の生きかたをめぐってしばしば指摘される自己への執着の残滓は、彼が後鳥羽院の配慮に対する恩義を感じつつも、不逞とも見られかねないような態度を示したことに通じており、そうした彼の生きかたと『無名抄』に見られる歌の道に向かう彼の態度に共振するものがあることを著者は指摘します。さらに、こうした長明の態度の変遷を追って、『方丈記』や『発心集』の解釈がおこなわれます。
また本書では、「随筆」というジャンルの形成されるプロセスと、そのなかで長明の『方丈記』がどのように位置づけられることになったのかということも、比較的ていねいに説明がなされています。『方丈記』の受容史というには、やや簡潔にすぎるところもありますが、近代以降の展開については著者自身のこれまでの研究成果にもとづいて詳細に論じられています。 -
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ネタバレ副題の「神、恋、倫理」の変遷を、膨大な参考資料から解説しています。参考資料の紹介がメインなのではないかと思うくらい、思想家や資料が登場します。大まかでいいので日本史と高校倫理を知っていることが前提な内容です。
あとがきで著者自身が「参考文献が膨大にすぎる」と言っているくらいなので、日本人の宗教観、文学史、生命観を追いかけたい人によっては便利な参照文献検索本になるのではないでしょうか。
以下、自分なりの要約。
第一章
日本神話は土地と大陸の信仰の融合だ。朝廷は権威を記すため神話を更に編集した。西洋の神は不死だが、日本の神は時の流れを嘆き、死ぬこともできる。“いのち“を意味する文字は複数あるが、天の定めを指す“命“が天皇の言葉や寿命を指すようになり、やがて多義的な“命“と感情を含む生命観が生まれた。
第二章
優秀な僧らは、中国の思想から草木も生をもち成仏できるとした。神の信仰へ仏の功徳を広めたため、ときに矛盾する教えもみれる。浄土思想により、命への執着心や成仏できずに地獄へいく思想が広がる。成仏の方法は様々だった。やがて生命の平等観や死後の魂を想い、世の無常や命の儚さが歌われた。戦国時代では死ぬ覚悟こそ武士道だったが、江戸時代に平和が訪れると文と武の分離が進み戦国の武士道は廃れた。またキリスト教も広がったが、世界の外にいる創造神や死後「永遠の生命の流れ」に帰すという教えは、神仏も輪廻転生もこの世にあるという観念に完全にとって変わることはできなかった。
第三章
江戸時代では西洋と東洋の文化学問が共存し、情欲や色恋の物語である浄瑠璃や命の儚さと滑稽さを詠んだ俳句が親しまれる。儒学が発展すると、「和」の論理(男女の性愛)は日本の独自性とされ、よく心を動かす「もののあはれ」の思想や、仏教と儒学から独立し「伝統」観念を創出した神道となる。
第四章
明治では「生命」が頻繁に使われ、歴史的解釈なしに西洋思想が広がる。ダーウィン進化論は社会論的に流布され、国家生命体論や「血統」民族思想を生む。哲学的自殺が社会現象となり、修練として再び武士道が参照されたが、その核心は神道と忠君愛国である。文豪達は天命を受けた個人の自律も主張した。
第五章
いかに生きるかという問いに対して、生命を宇宙の原理とする思想が生まれる。生命現象は科学により説明が求められ、芸術文学にも刹那的に燃焼する生命観が起こる。日本人に関して、永遠の今を求め、一切の観念や概念に囚われない生命観や、激情と淡白のあきらめが混じり合っている精神構造が説かれる。
象徴的で永遠性をもつ生命観の芸術文学がある一方、無常と退屈感からエログロも流行する。経済政治の混乱は軍の政治介入を招く。神道は軍国主義に染まった天皇崇拝の思想に転じ、自己犠牲を賛同する意味で、仏教の「大乗」や「散華」が語られる。種の普遍性が国家に用いられ、滅私奉公の精神を生む。
第六章
敗戦直後、戦前の主体性は全否定される。しかし再び複合文化が見出され、過労死や公害汚染から「大きな生命」観が問われる。自然科学尊重癖は、「多様性」を生物と文化に同義で使い、脳の仕組みをコンピューターのように語る。歴史から生命本位の考え方を鍛え、ゲノム~宇宙レベルに分けて考えよ。 -
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日本人の「いのち」をめぐる見方、生命観史を、新書にしては多くの資料に当たってまとめたもの。
前近代については言語学的なアプローチや宗教史観という趣で、生命観の歴史をなぞるという意味では統一感が少々あやふやで追いにくい。
しかし、書の中盤から始まる明治維新以降の近代日本の生命観史については、文学作品などから大量の文献を引いてきて、工業化を通して、また戦前戦後を通して、日本において「いのち」がどのように考えられ、価値付けられ、扱われてきたか、独自の鋭い考察が繰り広げられる。これは非常に面白いし、今日の生命観がどのよう文脈で形作られ、われわれが無意識のうちにそれをどう捉えているか、社会の価値観としてはどう扱われているか、これを概観することができる。
これを読んで、われわれのいのちの価値、その意義、ありかたというものをもう一度問い直そう。そこに問題があるのか。あるとしたら何が問題なのか。明日も生きるであろうわれわれが、その明日をよりよく生きるために、われわれを保証するいのちにどのように向き合うべきか。それが問われている。 -
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戦前〜戦中の日本を考えるにあたって、外してはいけない、というか、最重要キーワードの一つは満州。
2021年に出版されているので最新の研究も織り込んだものになっているのではないかと思って、読んでみた。
たしかに、満洲について、軍事、政治、経済などに加えて、文化的な側面からアプローチしていて、全体像に近づける感じもある。また、満洲の傀儡的なところは当然あるとしつつ、そうしたなかにもあった溥儀側のイニシアティブとか、一部の人たちには多文化共存的な素晴らしい場所であったという側面とかも紹介してある。
著者の専門は、文学のようで、満洲における文学状況に加え、「内地」から訪問してくる文学者の満洲についての文章なども紹介していて、この辺が他の満洲本とは違うところかな?だが、その辺は、知らないことが多すぎて、今ひとつ理解は進まなかった。
あらためて、満洲について読むと、ロシアのウクライナ侵攻とかぶさってくる。日本、関東軍はいかに無茶苦茶なことをやっていたのだなと驚き、当時の国際社会から孤立したということもよくわかる。
全体として、さまざまな視点から満洲について書こうという意欲は伝わってくるのだけど、フォーカスが定まらない感じもしてくる。まあ、読者というものは、気まぐれなものだな、と思った。 -
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日本思想史の中から、「自由」という概念をめぐる諸問題について論じている本です。
全体は二部構成となっており、第一章では、伝統的な「自由」の理解の背後に陽明学の影響があったことが、ややくわしく解説されています。つづいて第二章では、戦前と戦後を分断し、戦前には「自由」はなく、戦後になってはじめて人びとは「自由」を謳歌することになったという歴史把握を相対化し、戦前から戦後にかけての日本における「自由」というテーマをめぐるさまざまな思想史的文脈を掘り起こし、われわれの常識的な「歴史認識」を見なおす試みがなされています。
話題が多岐にわたっていますが、この国における「自由」とはなんであったのかという問題について考えるための、さまざまな切り口が示されているように思います。