鈴木貞美のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
鴨長明の生涯と、その著作である『無名抄』『方丈記』『発心集』を解説し、彼の求めた「自由」の意味について論じている本です。
著者が長明に見いだした「自由」とは、「束縛を嫌い、自身にしっくり感じられることを求める心の意味である」と説明されています。『無名抄』は、「名」を捨てても「自矜」は残るという長明の精神にもとづいて書きのこされた作品です。「『無明抄』は、現世の「名利」を捨て、うたの道に賭けた長明の自矜が残したものだからである」と著者は述べています。長明の生きかたをめぐってしばしば指摘される自己への執着の残滓は、彼が後鳥羽院の配慮に対する恩義を感じつつも、不逞とも見られかねないような態度を示し -
Posted by ブクログ
ネタバレ副題の「神、恋、倫理」の変遷を、膨大な参考資料から解説しています。参考資料の紹介がメインなのではないかと思うくらい、思想家や資料が登場します。大まかでいいので日本史と高校倫理を知っていることが前提な内容です。
あとがきで著者自身が「参考文献が膨大にすぎる」と言っているくらいなので、日本人の宗教観、文学史、生命観を追いかけたい人によっては便利な参照文献検索本になるのではないでしょうか。
以下、自分なりの要約。
第一章
日本神話は土地と大陸の信仰の融合だ。朝廷は権威を記すため神話を更に編集した。西洋の神は不死だが、日本の神は時の流れを嘆き、死ぬこともできる。“いのち“を意味する文字は複数あるが、 -
Posted by ブクログ
日本人の「いのち」をめぐる見方、生命観史を、新書にしては多くの資料に当たってまとめたもの。
前近代については言語学的なアプローチや宗教史観という趣で、生命観の歴史をなぞるという意味では統一感が少々あやふやで追いにくい。
しかし、書の中盤から始まる明治維新以降の近代日本の生命観史については、文学作品などから大量の文献を引いてきて、工業化を通して、また戦前戦後を通して、日本において「いのち」がどのように考えられ、価値付けられ、扱われてきたか、独自の鋭い考察が繰り広げられる。これは非常に面白いし、今日の生命観がどのよう文脈で形作られ、われわれが無意識のうちにそれをどう捉えているか、社会の価値観とし -
Posted by ブクログ
戦前〜戦中の日本を考えるにあたって、外してはいけない、というか、最重要キーワードの一つは満州。
2021年に出版されているので最新の研究も織り込んだものになっているのではないかと思って、読んでみた。
たしかに、満洲について、軍事、政治、経済などに加えて、文化的な側面からアプローチしていて、全体像に近づける感じもある。また、満洲の傀儡的なところは当然あるとしつつ、そうしたなかにもあった溥儀側のイニシアティブとか、一部の人たちには多文化共存的な素晴らしい場所であったという側面とかも紹介してある。
著者の専門は、文学のようで、満洲における文学状況に加え、「内地」から訪問してくる文学者の満洲につ -
Posted by ブクログ
日本思想史の中から、「自由」という概念をめぐる諸問題について論じている本です。
全体は二部構成となっており、第一章では、伝統的な「自由」の理解の背後に陽明学の影響があったことが、ややくわしく解説されています。つづいて第二章では、戦前と戦後を分断し、戦前には「自由」はなく、戦後になってはじめて人びとは「自由」を謳歌することになったという歴史把握を相対化し、戦前から戦後にかけての日本における「自由」というテーマをめぐるさまざまな思想史的文脈を掘り起こし、われわれの常識的な「歴史認識」を見なおす試みがなされています。
話題が多岐にわたっていますが、この国における「自由」とはなんであったのかという