牧野雅彦のレビュー一覧
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「人間の条件」を新訳した訳者による丁寧な解説本。
アレントの哲学的な主著であるが、アレントはなかなかに屈折の多い思想家なので、簡単には理解できない。単に難しいだけでなく、皮肉で言っているのか、本気なのかも分からないところもあって、分かったつもりでも逆の意味で理解していることもある。
そんなアレントの「人間の条件」は、いろいろ解説書を読んだり、ドイツ語からの翻訳「活動的生」を読んだり、いろいろ読んで、なんだか初めて、分かった気になっている。
複数性を大切にするアレントをある一つの方向で、ここまで分かってしまって、大丈夫だろうか、と思ってもしまうが、これまでいろいろ悩んできた点と点がやっとつ -
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「マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は不思議な論文です」という一文から本書は始まる。その理由は、「資本主義」と銘打っているにも関わらず、経済システムとしての資本主義にはほとんど触れられていないからだという。しかしながら、この論文が古典として読み継がれる理由は、「資本主義」がもたらした現代社会の課題を分析する上で有益な洞察が含まれているからである。資本主義社会を理解するにあたって、その成立を支えた原理のようなもの、つまりプロテスタンティズムの倫理、にまでさかのぼることで見えないものが見えてくるのだ。
著者は『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』というタ -
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小中学生からでも読める、政治そのものへの素晴らしい入門書
政治というとだいたいの人間はTVに流れる国会や官僚とかを思い浮かべるがそれは間違いだ。家族や学校の中で誰かと関わる時、そこにはすでに政治という現象が生まれている
ではその日常のミクロな場にも働く政治とは何で、何のために存在し、それがオレたち全体にどう関わっていくのか。それをまず踏まえなければどんな行政学もニュースも政治哲学も、底の底は理解できない。この本はコミュニケーションや権力とかの、わりと最新の学説も背景に踏まえていて実は結構濃い
第八章、文化とアイデンティティの章は、高校に入る前に熟読しておけば後々の人生に心強い
著者い -
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ネタバレハンナアレントさんの思想について概要から詳細まで学べた
代表的な思想
人間の条件は、労働と仕事と行為に分類されるという思想であるが、そもそも公的空間と私的空間の定義から入り、マルクスの労働価値説との解釈の違いについても学ぶことができた
アレント自身の労働に対する定義では、生命活動を維持するためのものであるため、マルクスが考える労働とは違い、マルクスが考える労働は自身の再生産以上の生産力のことを労働力と評しているためアレントで言うところの仕事にあたる
産業革命後の世界によって労働の解釈性が変わったことについても学ぶことができたのは大きい。 -
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去年飲み友だちのまりちゃんが「最近アレントが流行っているし、私も買ったんだよね」と話していて、私はアレントはかろうじて聞いたことがあるくらいだったから、相槌を打つのに焦った。そして、その夜まりちゃんと解散して一人で家の近くのバーに入ったら、アレント関連の本が数冊置いてあった。このバーには何度も来ていたけど、今まではなかったはず。バーテンダーに聞いてみたら、彼のお父さまがアレントに憧れてやまない学者さんらしく、確かに置かれた本のうちの数冊には彼と同じ苗字の著者の名前も見られた。ウクライナ戦争で再びアレントのことを思い出している人が多いらしく、バーテンダーも店に置く本を入れ替えることにしたらしい。
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ジャンルで言えば「全体主義」についての本ということで「社会」にあたるのでしょうけど自分は「思想、考え方」寄りの内容と捉えました。
前半の方はアレント入門といったテイストでしたが、4章から趣が変わりアレントの考え方を引用した著者自身の全体主義というものの考え方というか向き合い方の主張?のような内容となっているように思います。私自身はアレント自身について書かれた本は何冊か読んだことがありますがその思想についての本はほぼほぼ読んだことがなく、そこの知識がないので入門として読むのに良かったです。
しかしあんまり理解できなかった気がする。著者の方は、多分私のように興味はあってもなんの知識もない人間のため -
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アーレントを100ページで紹介する入門書。
アーレントは屈折の多い思想家なので、100ページにまとめるのは無理だろうと思いつつ、読んでみたら、かなりいい線でまとまっていると思った。
もちろん、議論はかなりフォーカスされていて、「全体主義の起源」を中心に説明されている。あとは、それに関連するところとして、「人間の条件」がすこし、ポスト・トゥルースの時代に参照されることが多くなった「真理と政治」や「政治における嘘」に言及。そして「エルサレムのアイヒマン」を紹介という感じかな。
つまり、全体主義の歴史解釈とそれと比較的関連性の高いものにフォーカスされているということ。アーレントのコアな政治哲学 -
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ネタバレコンセプトがはっきりしており、分量も短くて読みやすかった。もちろん、あとがきにも書かれているように、ある思想の概要を可能な限りコンパクトにまとめるという作業は非常に困難だろうし、これだけを読んでわかったつもりになってはいけないのだろうとは思った。
全体主義について、何となくの言葉のイメージはもっているつもりでも、暴政や権威主義体制といった他の体制との違いや、全体主義の中にいる人はどのような状態になるか、等の新たな発見があった。一方で、共通の感覚が失われる、リアリティを信じられず、想像力、一貫した論理を信じる、といった、全体主義がもたらす状態は、少しだけでも理解できたようにも思うが、では、本当に -
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リテラシー、判断力は、受け売りや忖度、わがままで意見を表すものではなく、他者への思いやり、想像力を働かせてつくりあげていく。そこで過ちがあってもいい、その都度訂正していけばいいのであって、決して誤魔化したり逃げたりしてはいけない。全体主義は、一人ひとりの判断力が軽んじられ、瞬間の心地良さに安穏としてしまう先にある。常に私たちは考えよう。その日常が辛くても当事者性へのアプローチが大切であり、正しくないものへの寛容へと広げていく。千差万別の意見が飛び交う民主主義はひとつの答えが見つからなくてもその過程から気付くものがあればいい。そして自他共に修正を行っていく。そこに保身や体裁は不要である。このこと