谷川道子のレビュー一覧
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1609年、ガリレオ、45歳。オランダで市販されたという望遠鏡の噂を聞きつけ、それを自作。月や木星を観測するところから話は始まる。多少推理小説風の始まり。そして話は次々に展開を見せる。
話の大半は史実にもとづく。娘のヴィルジーニアも登場する(史実通り)。ガリレオを取り巻く脇役たち(たとえば彼のところの家政婦とその息子)もいい味を出している(これはたぶんフィクション)。
意固地なガリレオがよく描かれている。会話もウィットに富み、しかも理詰めだ。ガリレオの地動説に対して、聖職者たちは、太陽や星が大地のまわりを回っているという天動説を熱く語る。ブレヒトの話術の巧さのせいなのか、私たちが地動説に慣れ親 -
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科学と言うより、知性とは、何かの「役に立つ」ものであるべきか、それとも、それ自体が価値あるものなのか。社会の営みの中で知性が発展していく以上、その価値も社会と切り離せず、果実は社会に「目に見える」還元がされねばならないのか。科学とは時代精神にほかならないとすれば、社会と切り離して考えるのは妄想に過ぎず、今の社会が経済的利益を求めるのならば、知性に求められるものも即物的な利益に限定されるべきなのか。
いち技術者として、知性や知識の果実を社会に「役立てる」のは大事だと思いつつ、心の何処かで、社会と隔絶した知性そのものの価値、それ自体が人間の蒙を啓く輝きを持つものであって欲しい、という思いが捨てきれ -
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非常に面白く、ギリシャ悲劇に興味を持てた。特筆すべきは、訳者・谷川道子さん(外語大名誉教授)の圧巻の解説!どういう経緯でブレヒトがこの改作に至ったのかを丁寧に記述してくれている。ウルフの『歳月』に出てくるアンティゴネ。その意味を紐解いていくのに非常に勉強になる情報ばかり。いくつか抜粋をば。
「それ故アンティゴネの論理は、単なる肉親の情愛の論理を超える。」(147)
「アンティゴネの反抗もまずは、国の掟は知らず、竈の掟、肉親の掟、人としての掟に誠実であろうとしたことから始まった。例えば『精神現象学』においてヘーゲルは、『アンティゴネ』を自覚的人倫共同体(国家の論理、公的領域、人間の掟、男の世界 -
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とにかく読みやすかった。ソポクレスによるいわゆるギリシャ悲劇をブレヒトが改作したもの。ソポクレスよりもブレヒトが前面に出てきてプロットよりも脚色とコンテクストの部分が気になりすぎて、もう終わったの?ってなった。オリジナルを思い出せないので、そちらと比べてみる必要があるかと思っている。
しかし解説にあったブレヒトの「異化効果」っていうポリシーは印象に残る。芸術を情緒的なものとしてではなく、理性的なものとして現実理解の橋渡しとして使う。というよりもそれが本来の芸術だといわんばかり。「異化効果」という言葉の使い方がいまいちわからないけど、要するにメタ視点のことを言っている。ここが源流かなと考えた。 -
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中世から現代で大きく変わった点は「科学の光」を発展させたことだろう。私たちの日常の中には多くの科学が結びついており、科学無しでは文明を維持することは出来ないだろう。中世から現代までに知の継承に成功したガリレオの人生を賭した良い作品である。
さて、本著のテーマは科学と宗教権力である。科学は今日までに様々な光の部分と闇の部分を辿ってきた。世界大戦を終えて76年経過(2025時点)した。これからも形は違えど様々な戦争は起きるだろう。そして、手書きだけだった知の継承は、活版、デジタル機器へ移行し、現代(2025)ではAIで誰もが知を得られるようになった。たった数百年、たった数十年でこの速度である。知の -
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「三文オペラ」以来のブレヒト作品。ギリシャ悲劇作家ソフォクレス原作。
敵前逃亡罪で親族のポリュネイケスを死刑にして遺体を禿鷹・野犬に食わせ、弔うことを禁じたテーバイの暴君クレオンの命令に反して、兄を丁重に弔ったアンティゴネ。 死刑は免れたものの、郊外の洞窟に幽閉され、自ら命を絶つ。 その婚約者はクレオンの末息子。 父を命懸けで諌めるが聞き入れられず、アンティゴネの死に絶望し、彼もまた命を絶つ。
アンティゴネはあの有名なオイディプス王の娘。
クレオンの言動を見て、傷痍軍人の表彰対象に精神を病んだ人を含めることに反対する人たちが一定数いることを思い出した。
戦争で勇敢に戦ったひとがえらい -
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1939年作。「三文オペラ」より10年ほど後に書かれた、ブレヒトの代表作ということらしい。かつて『肝っ玉おっ母とその子どもたち』という和訳タイトルであったものの新訳。
舞台は17世紀の三十年戦争(宗教戦争)。父親のそれぞれ違う3人の子どものいる母親アンナは、商いをしながら戦場をさまよう。
読み物としてとても平易で、随所にユーモアも感じられて楽しい。しかしブレヒト独特の「作り方」によって、なかなか容易ではない作風が見られる。
私は先にブレヒト自身による論考、雑記等の本を読み彼の「叙事的演劇」という概念を何となく理解したからこの作品の特徴をいいうるのだが、全く予備知識のない読者ならこれを読