谷川道子のレビュー一覧

  • ガリレオの生涯

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    1609年、ガリレオ、45歳。オランダで市販されたという望遠鏡の噂を聞きつけ、それを自作。月や木星を観測するところから話は始まる。多少推理小説風の始まり。そして話は次々に展開を見せる。
    話の大半は史実にもとづく。娘のヴィルジーニアも登場する(史実通り)。ガリレオを取り巻く脇役たち(たとえば彼のところの家政婦とその息子)もいい味を出している(これはたぶんフィクション)。
    意固地なガリレオがよく描かれている。会話もウィットに富み、しかも理詰めだ。ガリレオの地動説に対して、聖職者たちは、太陽や星が大地のまわりを回っているという天動説を熱く語る。ブレヒトの話術の巧さのせいなのか、私たちが地動説に慣れ親

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    2025年05月18日
  • ガリレオの生涯

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    科学と言うより、知性とは、何かの「役に立つ」ものであるべきか、それとも、それ自体が価値あるものなのか。社会の営みの中で知性が発展していく以上、その価値も社会と切り離せず、果実は社会に「目に見える」還元がされねばならないのか。科学とは時代精神にほかならないとすれば、社会と切り離して考えるのは妄想に過ぎず、今の社会が経済的利益を求めるのならば、知性に求められるものも即物的な利益に限定されるべきなのか。
    いち技術者として、知性や知識の果実を社会に「役立てる」のは大事だと思いつつ、心の何処かで、社会と隔絶した知性そのものの価値、それ自体が人間の蒙を啓く輝きを持つものであって欲しい、という思いが捨てきれ

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    2024年07月29日
  • アンティゴネ

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    非常に面白く、ギリシャ悲劇に興味を持てた。特筆すべきは、訳者・谷川道子さん(外語大名誉教授)の圧巻の解説!どういう経緯でブレヒトがこの改作に至ったのかを丁寧に記述してくれている。ウルフの『歳月』に出てくるアンティゴネ。その意味を紐解いていくのに非常に勉強になる情報ばかり。いくつか抜粋をば。

    「それ故アンティゴネの論理は、単なる肉親の情愛の論理を超える。」(147)
    「アンティゴネの反抗もまずは、国の掟は知らず、竈の掟、肉親の掟、人としての掟に誠実であろうとしたことから始まった。例えば『精神現象学』においてヘーゲルは、『アンティゴネ』を自覚的人倫共同体(国家の論理、公的領域、人間の掟、男の世界

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    2021年08月29日
  • ガリレオの生涯

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    読書中のメモを転載。

    この作品中のガリレオはしたたか。自説を撤回したのもそうだが、自分に有利なように権力者や聖職者を利用しようとする。
    その一方で、弟子のアンドレアなどに対しては純粋で優しい。
    でも本来なら感謝しなければいけないおかみさんや娘にはどこか冷たい。彼らは科学に興味がない、ただの人間だったからか。
    そういう、人間ガリレオの多面性を描くのがすごくうまい。ブレヒト自身の自己投影か。

    …解説を読む限り作者はそういうことを意図していなかった、または重要視していなかったのかもしれないが、この作品にはそういうところにあふれている。

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    2020年02月24日
  • 母アンナの子連れ従軍記

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    肝っ玉おっ母とその子どもたち。
    最後のカトリンの姿に息がつまる想い。
    シェイクスピアと並ぶ素晴らしい劇作家ブレヒトの作品。

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    2018年12月15日
  • ガリレオの生涯

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    真実が時代の子供ではなく、権威の子供になることの滑稽さを見事に浮き彫りに描き出した傑作。

    政治と宗教を一体化させていた、キリスト教を中心にまわっていたヨーロッパ世界で、絶対権力である教皇の権威を完全に崩壊させかねない、地動説。

    その地動説を唱えた人間達をことごとく滅殺してきた権力者達は、地球を宇宙の中心に置き続けることを強制する。

    最後まで幽閉され続けたガリレオの地動説が正しいと、再度見直し認められたのは1992年になってから。
    ガリレオが1642年に没してから実に350年後。

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    2018年11月26日
  • ガリレオの生涯

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    地動説をめぐる教会との対立と、自説の撤回。そこから「新科学対話」を弟子に託すまでのガリレオの人生が戯曲化された作品。

    印象に残った場面…
    アンドレア「英雄のいない国は不幸だ」
    ガリレオ「英雄を必要とする国が不幸なのだよ」

    ガリレオ先生!!!

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    2022年05月07日
  • アンティゴネ

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    死を恐れずに自分が正しいと思う行為を堂々と為すアンティゴネ。それを人間らしさの表れだと受け取れるかどうか。傍観者でしかない長老たちを情けない奴らだと思えるかどうか。たくさんのことを問いかけてくる作品です。

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    2022年01月01日
  • アンティゴネ

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    面白い!『オイディプス王』のその後の物語。
    クレオンの変わりよう!
    ブレヒトがギリシャ悲劇をもとに、現代性を感じやすくアレンジしたやつ。面白い。

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    2021年12月27日
  • 三文オペラ

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    1928年という第一次世界大戦の賠償金に喘ぎナチス政党が台頭しつつあった高揚と不穏が渦巻くドイツ下において、やや下品なドタバタ喜劇が好まれたというのが面白い。こうした大衆向け戯曲は当時の時代背景を色濃く反映しており興味深い。

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    2019年09月02日
  • アンティゴネ

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    とにかく読みやすかった。ソポクレスによるいわゆるギリシャ悲劇をブレヒトが改作したもの。ソポクレスよりもブレヒトが前面に出てきてプロットよりも脚色とコンテクストの部分が気になりすぎて、もう終わったの?ってなった。オリジナルを思い出せないので、そちらと比べてみる必要があるかと思っている。

    しかし解説にあったブレヒトの「異化効果」っていうポリシーは印象に残る。芸術を情緒的なものとしてではなく、理性的なものとして現実理解の橋渡しとして使う。というよりもそれが本来の芸術だといわんばかり。「異化効果」という言葉の使い方がいまいちわからないけど、要するにメタ視点のことを言っている。ここが源流かなと考えた。

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    2017年06月26日
  • ガリレオの生涯

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    教皇ヨハネ・パウロ二世がガリレオに謝罪した日に,読んでみた。前半は全15景の戯曲。数学教師だった彼の半生は七転八起である。望遠鏡を発明してコペルニクスの天動説を証明したが,教皇庁によって禁書の憂き目に遭う。次に科学者である新教皇のもと太陽黒点の研究に着手したが,10年後,これも当の教皇によって学説を撤回させられる。異端審問所の監視のもと生涯を終えた彼だったが,その中でも新科学対話を執筆する。戯曲のあとは,アインシュタインと大震災とガリレオを結びつけた訳者の論考。真理探求への内面に共感する。

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    2013年10月16日
  • ガリレオの生涯

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    明らかにそれが真理と悟っていながら、時代によって探究を諦めなければならなかったガリレオの生涯。発明家としての名誉と金、時の権威が交錯する世界で、彼が闘い貫こうとしたものは何だったのか。その人間模様もそうだけれど、中世キリスト教の封建的な価値観への認識も深まり、面白い本だった。

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    2013年02月27日
  • 母アンナの子連れ従軍記

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    巧いね、やっぱ。キャラ、ストーリー、台詞回し。どれも上々。
    母の身を案じて太鼓を叩き続けるカトリン。生活の支えであり思い出の詰まった家でもある、幌車を壊されそうになり絶望的な呻き声をあげながらも太鼓を叩くのやめないカトリン。そして家族全員を喪ったアンナは幌車を引きまた戦争について行く。
    賢さというか、誰よりも現実を知っているが故のアンナの悲しさ。嘆き狂うことも、牧師のように観念を弄ぶこともできず、今日の暖、今日の食事にありつくために、幌車を引っ張り軍隊の中で商売をする。生きるために。生きていくために。

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    2011年03月27日
  • ガリレオの生涯

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    中世から現代で大きく変わった点は「科学の光」を発展させたことだろう。私たちの日常の中には多くの科学が結びついており、科学無しでは文明を維持することは出来ないだろう。中世から現代までに知の継承に成功したガリレオの人生を賭した良い作品である。
    さて、本著のテーマは科学と宗教権力である。科学は今日までに様々な光の部分と闇の部分を辿ってきた。世界大戦を終えて76年経過(2025時点)した。これからも形は違えど様々な戦争は起きるだろう。そして、手書きだけだった知の継承は、活版、デジタル機器へ移行し、現代(2025)ではAIで誰もが知を得られるようになった。たった数百年、たった数十年でこの速度である。知の

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    2025年07月06日
  • アンティゴネ

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    「三文オペラ」以来のブレヒト作品。ギリシャ悲劇作家ソフォクレス原作。

    敵前逃亡罪で親族のポリュネイケスを死刑にして遺体を禿鷹・野犬に食わせ、弔うことを禁じたテーバイの暴君クレオンの命令に反して、兄を丁重に弔ったアンティゴネ。 死刑は免れたものの、郊外の洞窟に幽閉され、自ら命を絶つ。 その婚約者はクレオンの末息子。 父を命懸けで諌めるが聞き入れられず、アンティゴネの死に絶望し、彼もまた命を絶つ。 

    アンティゴネはあの有名なオイディプス王の娘。

    クレオンの言動を見て、傷痍軍人の表彰対象に精神を病んだ人を含めることに反対する人たちが一定数いることを思い出した。

    戦争で勇敢に戦ったひとがえらい

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    2025年01月31日
  • 母アンナの子連れ従軍記

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     1939年作。「三文オペラ」より10年ほど後に書かれた、ブレヒトの代表作ということらしい。かつて『肝っ玉おっ母とその子どもたち』という和訳タイトルであったものの新訳。
     舞台は17世紀の三十年戦争(宗教戦争)。父親のそれぞれ違う3人の子どものいる母親アンナは、商いをしながら戦場をさまよう。
     読み物としてとても平易で、随所にユーモアも感じられて楽しい。しかしブレヒト独特の「作り方」によって、なかなか容易ではない作風が見られる。
     私は先にブレヒト自身による論考、雑記等の本を読み彼の「叙事的演劇」という概念を何となく理解したからこの作品の特徴をいいうるのだが、全く予備知識のない読者ならこれを読

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    2024年03月09日
  • 三文オペラ

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    乞食(但し会社形態のシステマティックなやつ)と強盗と娼婦と警察のドタバタ劇。吉本新喜劇を観るかのようだった。

    解説を読む限り、作劇自体がドタバタだったようで、勢い一発、といった感じのエネルギーを感じる。よく「古典」のカテゴリーに入ったな、と思わないでも無い。シェークスピアも煎じ詰めればこんな感じだったのかな。300年のズレがあるだけで。

    ラストの恩赦という終わりはちょっと強引な感じがするが、吉本新喜劇と思えば合点は行くか。

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    2023年10月31日
  • アンティゴネ

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    読書会の課題本。ギリシャ悲劇のソフォクレス著「アンティゴネー」をブレヒトがリライトしたもの。時代背景などもあるだろうが、かなり政治色の強いアレンジを加えている。好き嫌いが分かれそうだ。

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    2021年04月27日
  • アンティゴネ

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    ネタバレ

    テーバイの王クレオンが仕掛けた侵略戦争で、戦 場から逃亡し殺されたポリュネイケス。王は彼の 屍を葬ることを禁じるのだが、アンティゴネはそ の禁を破って兄を弔い、伯父クレオンに抵抗す る…。詩人ヘルダーリン訳に基づき、ギリシア悲 劇を改作したブレヒトの今日性あふれる傑作。

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    2015年09月03日