あらすじ
あの“肝っ玉おっ母”が新訳で生まれ変わった! 十七世紀、三十年戦争下のドイツ。父親の違う三人の子供を抱えながら、軍隊に従って幌車を引き、戦場で抜け目なく生計を立てる女商人アンナ。度胸と愛嬌で戦争を生きぬく母の賢さ、強さ、そして愚かさを生き生きと描いた、劇作家ブレヒトの代表作を待望の新訳で贈る。キャリアウーマンでシングルマザーで女盛り、母アンナはこんなにも魅力的だった!
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Posted by ブクログ
巧いね、やっぱ。キャラ、ストーリー、台詞回し。どれも上々。
母の身を案じて太鼓を叩き続けるカトリン。生活の支えであり思い出の詰まった家でもある、幌車を壊されそうになり絶望的な呻き声をあげながらも太鼓を叩くのやめないカトリン。そして家族全員を喪ったアンナは幌車を引きまた戦争について行く。
賢さというか、誰よりも現実を知っているが故のアンナの悲しさ。嘆き狂うことも、牧師のように観念を弄ぶこともできず、今日の暖、今日の食事にありつくために、幌車を引っ張り軍隊の中で商売をする。生きるために。生きていくために。
Posted by ブクログ
1939年作。「三文オペラ」より10年ほど後に書かれた、ブレヒトの代表作ということらしい。かつて『肝っ玉おっ母とその子どもたち』という和訳タイトルであったものの新訳。
舞台は17世紀の三十年戦争(宗教戦争)。父親のそれぞれ違う3人の子どものいる母親アンナは、商いをしながら戦場をさまよう。
読み物としてとても平易で、随所にユーモアも感じられて楽しい。しかしブレヒト独特の「作り方」によって、なかなか容易ではない作風が見られる。
私は先にブレヒト自身による論考、雑記等の本を読み彼の「叙事的演劇」という概念を何となく理解したからこの作品の特徴をいいうるのだが、全く予備知識のない読者ならこれを読んでもあまり面白くないかもしれない。
ブレヒトは観客が登場人物にあまりにも一貫して感情移入し、感動してしまうというようなロマン主義的な様式を破壊したかった。だから、アンナが三人の子どもを次々に喪っていくのに、彼女の悲嘆は前面に出てこず、むしろそれでも逞しく一人で生き抜いていくような力強さだけが一貫している。
アンナに泣き叫ばせれば観客を感動させることもできたのに、敢えてそんな場面を避け、淡々と「リアリスティックに」状況を描き続けるだけだ。
あまりつながりのないような場面場面を接続し、各状況間に断絶を配置することで、観客が一歩下がったところで自ら「考える」ことを望むブレヒトの手法「異化効果」は本作にも発揮されている。
こうした手法を突き詰めていくと確かに20世紀の「現代芸術」の典型的な様相を帯びていくのだが、ちょっと不思議に感じるのは、ブレヒトは純粋に芸術(演劇)のことだけを考えていたというより、相当はまりこんだ「マルクス主義」のプロレタリアート観に基づいて、こうしたステージに進んだという事実だ。
だが、エッセイでなく戯曲だけを見ているとそのような「マルクス主義くささ」は感じられない・