宇沢弘文のレビュー一覧
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ヴェブレンの「制度主義」の発想を継承しながら、「私的資本」と区別される「社会的共通資本」の重要性をわかりやすく解説している本です。
著者がさまざまな機会に発表した文章をもとにしているようで、農業、都市、教育、医療、金融、そして地球環境といった多様なテーマをとりあげ、社会的共通資本を重視する立場から、人類社会のどのような展望がもたらされるのかということが説かれています。
著者は「制度主義」の基本的性格を説明するさいに、「私たちが求めている経済制度は、一つの普遍的な、統一された原理から論理的に演繹されたものでなく、それぞれの国ないしは地域のもつ倫理的、社会的、文化的、そして自然的な諸条件がお互 -
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宇沢弘文は、数理経済学から社会的共通資本への急な転向により、ある種の奇矯な人として受け止められているところもあるかと思う。この本を読んで、宇沢が1970年代の「反ケインズ経済学」をどのように眺めていたのかよく分かった。解説することもしたくないのだが、避けても通れないのでイヤイヤ解説すると言明するくらい。学問としての理論がどうこうではなく、歴史的・社会的背景を無視した前提の置き方、そしてそこから演繹される理論を格差などの問題に対する免罪符として用いる姿勢が我慢ならなかったのだろう。もちろん宇沢自身も1960年代のベトナム反戦運動などの文化的影響から自由ではない(多分、日本からアメリカに来た人間に
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ケインズ経済学
①希少資源の私有制
②所得分配の公正性
社会的共通資本
・一つの国ないし特定の地域に住む全ての人々が、ゆたかな生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置
・自然環境、社会的インフラ、制度資本
・職業的専門家によって、専門的知見に基づき職業的規範に従って管理維持されるべき
政府による官僚的管理、市場的基準に従っておこなわれるものではない
・新自由主義はケインズ経済学の反動を受けたもの。市場原理主義。制度主義とは対比的。
・自動車の社会的費用。所有者なしは運転者が負担しなければならない費用を、歩行者あるいは住民 -
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社会共通資本
◯社会的共通資本とは
・制度主義は資本主義と社会主義を超えて、全ての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような経済体制を実現しようとするもの。
・社会共通資本はこの考え方を具体的なかたちで表現したもので、社会的装置を意味する。
・自然環境、社会インフラ、制度資本(教育、医療他)の三つの範疇に分けられる。
・実質的所得分配が安定的となるような諸条件
・社会的資本はそれぞれの分野の専門家によって職業的規律に従って管理、運営される。政府の指示や市場原理によるものではない。
◯社会主義の失敗
・計画経済は、中央集権的な性格を持つものは言うまでもな -
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社会を豊かに保ち続けるために大切な要素を社会的共通資本として定義し、国家の管理でもなく、市場に任せるでもないあり方を論じた本。社会的共通資本は自然環境、社会的インフラ、制度資本に分かれている。
「全て」を国家が管理する社会主義か、市場の自由競争に任せる新自由主義かという二項対立に対して、「一部」はまた新しい形でのありかたが大切だと説いている。
ともすれば、「全て」「二項対立」「0か100か」で語られがちな政治・経済に対して、「一部」「折衷案」「個性記述的」に考える視点を与えてくれる。
文章は当初の入りが平易でありながら、途中経済学的議論が展開され、少しついていきにくい部分はあったが、一方で説得 -
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経済学の観点も踏まえ、21世紀を生きる我々が持つべき、都市や学問、環境、政治のあり方についての考え方を教えてくれる。宇沢弘文さんの思想が、おそらく表面的、簡略的にではあるが、その一端を伺い知ることはできるのではないか。
戦中、戦後に生きて、欧州やアメリカなど世界を奔走した稀代の経済学者が宇沢弘文先生である。多くの歴史的な経済学者だけでなく、様々な分野の偉大な学者との交流もあり、スケールの大きな内容も多く、学生にとっても、興味深いのではないか。
デューイ、ヴェブレン、ケインズ、フリードマン、昭和天皇、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世、マッカーサー、歴代の日米首脳等々が端々に登場する。宇沢弘文先生は、 -
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経済学者の権威である宇沢弘文氏が自身の提唱する社会的共通資本について自身の出自とともに書かれた一冊。
経済学に傾倒していくなかで影響を受けたアダム・スミスやジョン・スチュアート・ミルやソースティン・ヴェブレンなどの話から社会的共通資本について概略や環境面、学校教育や医療などの各項目についてまで氏の考えがふんだんに書かれており、非常に勉強になりました。
人々の生活基盤を構築し、基本的人権を尊重すべく公平に普及されなければならない社会的共通資本に対する氏の危惧する思いが本書の随所から伝わってきました。
特に自動車に関する見解は交通手段として欠かせないものとなっている現在において深く考えさせられる -
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・他人の自由を侵害しない限りにおいて各人に自由な行動が認められるという近代社会の原理に照らし合わせたとき、著者は(とりわけ狭い路地において)自動車の自由な通行が歩行者の自由な歩行権を侵害しているという。
・自動車の通行権と歩行者の歩行権との衝突が激しかった時期の、いわば過渡期の作品という印象。かつて頻繁にあった「飛び出し」という歩行権の直接行動的主張が輪禍の一大要因であり、そして本書刊行当時(約40年前)と比べて今日では交通事故死者数はおよそ1/4まで減少していることを考えあわせると、この40年間で自動車の通行権と歩行者の歩行権との間に一定の秩序が出来上がったと見ることができる。ゆえに今さら