宇沢弘文のレビュー一覧
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日本で最も著名な経済学者である宇沢弘文による、世界の経済学を敷衍し、その発展の流れをまとめた本。
1989年刊行。
経済学は、人間の営む経済行為を直接の対象とし、経済社会の基本法則を明らかにすることを目指した学問である。
本書では、アダム・スミス以後の経済学の流れがまとめられている。
①アダム・スミスによる経済学の成立
経済学が学問として成立したのは、1776年アダム・スミスにより『国富論』が著されたときである。
スミスは、元々道徳哲学者として名声を得ており、彼からすれば、経済学の研究もハチスンやヒュームの思想を発展させ、社会を個々の人間の感情と行動の総体として捉えようするテーマの延長 -
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1989年の1月に書かれた本なので、1989年末からのバブル崩壊、その後の日本経済の惨状については書かれていません。
宇沢先生が日本のバブル崩壊後の様々な経済政策をどう評価するのかと思いました。
宇沢先生はマネタリズムや合理的期待形成仮説について痛烈に批判しています。これらの経済学が人間を、ただひたすら自分の利益を最大化するための計算機械とみなしているからだと思います。
経済学は、経済現象を(できるだけ)科学的に理解したい、という動機から発生したものだと思いますが、なぜ理解したいかというと、世界の様子(貧困や不平等、格差など)を少しでも良くしたいという思いが根底にあるのだと思います。 -
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著者宇沢弘文が遺した、これまでの講演やインタビューを1冊にまとめた本。宇沢は「社会的共通資本」という概念を生み出したことで有名であるが、これは著者がシカゴ大学で教鞭を取った時代に関連する。当時のアメリカは、第2次世界大戦で勝利して以後、覇権国家として君臨した。経済活動においては、ハイエクやフリードマンといった新自由主義(ネオリベラリズム)が主流であった。これは、ケインズ経済学と異なり、政府の介入をできる限り最小限に抑えて、個人が自由に活動できる経済体制である。しかし、本書を読むと、ハイエクとフリードマンの思想は、厳密には違うことがわかる。ハイエクはたしかに自由を重視したが、人間の理性について
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日本を代表する経済学者宇沢弘文氏による「経済学の考え方」の解説になります。本書で最も大事なのは第1章でしょう。経済学とはどのような性格の学問なのかについて、宇沢氏による明確な定義がなされています。経済学は科学でもありながら芸術(アート)でもある。また理論的でもある一方、きわめて実践的でもあり、高度な倫理、正義心が求められる学問分野です。経済学は貧困などの社会問題の解決策を考えられるのと同時に、実はその問題の根源にもなりえてしまうことがあるからです(権力におもねったり自己虚栄心によって反社会的な政策立案をしてしまうことも可能)。
宇沢氏が本書でどの経済学者を取り上げたのかについては、極めて宇沢 -
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もともとは数学の専門家だったのが、社会を良くしたいという「正義感から」経済学に転向し、36歳でシカゴ大学の教授になられたという宇沢先生の本になります。宇沢先生の教え子である岩井克人さんの本(『経済学の宇宙』)にも書かれているように、宇沢先生の心は新古典学派にあらず、新古典派およびその後裔であるマネタリスト、合理的期待形成学派について本書でもバッサリと切り捨てています。宇沢先生の言葉を借りれば、マネタリスト、合理的期待形成学派の人々は「反社会的勢力」の最たる人々、ということになりそうです。
本書からも宇沢先生の「社会を良くしたい」という熱い思いが各所からあふれ出しているのがわかります。本書で書 -
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前半の内容は佐々木実による『資本主義と闘った男』とほぼ同じ。復習にもなるし、理解を深める役に立つが、基本的には宇沢弘文の生い立ちから学者としての半生、理論形成に影響しただろう人間関係について。違うのは自叙伝である事。本著も佐々木実ね取材内容もどちらも読む価値あり。
宇沢弘文の主張を理解するために重要なキーワードは、社会的共通資本。社会的共通資本とは国ないし特定の地域に住むすべての人々が豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置。それは教育を始めとする社会制度、自然環境、道路などの社会基盤の三つによって構成される。一貫して宇沢 -
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『人間の経済』 宇沢弘文
最近、仕事でESGに関連するサービスのプロモーターを担うことになったため、ESGについて調べているが、どうも懐かしい感覚になる。その感覚を突き詰めると、学生時代に読んだ宇沢弘文氏の『社会的共通資本』に行き着くことがわかり、改めて宇沢氏の著作をもっと読んでみようと思い、本書を手に取った。
本書は、エッセー的な側面も強く、宇沢氏の過去の仕事や思想的な遍歴を追体験するような本である。宇沢氏は、稀代の経済学者であるとともにヒューマニストであった。なんでも計算範囲に含めようとするイメージの強い経済学者の中でもトップを走る宇沢氏が行き着いた結論が「大切なものは決してお金に換えて -
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「資本主義と闘った男」宇沢弘文氏の名著。自動車に限らず、任意の製品や仕組みを導入するときに、社会全体でどのように費用が発生しているのかという思考実験を実演している。本書が出版された1974年は世の中に急速に自動車が流通され始めた時代であり、政府が一斉に高速道路の建設など、社会を自動車向けにし始めた時代でもある。社会の変化において、何か恣意的な変化をもたらす場合には、その変化にかかるコストとベネフィットを精緻に比較する必要がある。宇沢氏の問題意識としては、当時の時代状況として、自動車のベネフィットをことさらに主張する人間が多く、コストについて今一度目を向けるべきであると主張している。結論を先取り
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ネタバレ1928年生まれの著者
2000年刊行の岩波新書
なのだが、内容は2021年現在深刻に語られているすべての経済的、SDGS的持続可能社会への道標となる考察に満ちている。
俊英としてアメリカ経済学界でノーベル賞受賞のスター学者たちの中にあっても一目置かれていたという宇沢氏が、日本に帰国、高度成長真っ只中で積み上げていった知見。
時代より早過ぎたのかなあ。
そして本書に書かれていることが、過去50年に少しでも顧みられていたならば、地球の現在はもう少しマシになっていたはず。
しかし、経済が自己増殖し続け、環境も人のコミュニティも破壊し続け、ついには崖っぷちまで来てしまった現状、理性や良心や -
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この人が奨めるのだから間違いなかろう、ということで経済は苦手なのだが手に取ってみた。東京大学から36歳でシカゴ大学の経済学部教授になりベトナム戦争への反発もあって東京大学の教授に転じられて長く経済学の第一線で活動されてこられた方で風貌も特異なことから自分には理解できない難解なことを話される方、という決めつけをしておりこれまで触れたことがなかったのだがここまで分かりやすい話をされる方だとは思ってもみなかった。元々は数学者になるはずがより社会の問題に関わりたいという意向で経済学に転じられたという経歴らしく、公害問題や環境問題に対し具体的な関与をされて来られたところも素晴らしい。「富を求めるのは、道
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宇沢弘文先生の理論の中核本
大学時代塩野谷先生にご紹介頂いて40年漸く読破良かった
資本主義経済体制の限界・本質的問題は今日的「格差問題」
市場原理主義から漏れる「社会資本」の劣化
SDGsの問題意識に通じていると思う
宇沢弘文先生の価値観が求められる時代 コロナで加速する
バイデン大統領の理念は近いものがある 米国の力が間に合うか
1.アンチ新自由主義
資本主義のダイナミズム リスクテイクとアップサイドリターン
市場の失敗 外部経済の統制 市場化・政治規制
2.地球という枠組みが劣化すると
与件の中で成果を最大化する資本主義は新たな制約を受ける
3.農村 都市・自動車 学校教育
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経済学が科学にシフトした分、「人々の幸せ」から遠くなっているのではという、基本的問題意識は共感できるとともに、非科学ではないかという恐れもある。
我々は「アカデミズム」という現代宗教の門徒であって、破門される恐怖があるのは中世と変わらない。
その呪縛を否定したのが宇沢先生、特に、公害・自動車問題など外部不経済について厳しい論調に転じられたような気がする。
本書でもそのスタンスは揺るがないとともに、世界史では英国帝国主義、国内では官僚権力体制に対する姿勢は驚くほど厳しい。
現在のアベノミクスや、原発問題など、宇沢先生のコメントがほしいと思うのは、甘えだろうか。
本年、ご逝去のご冥福を祈ります。