世阿弥が約20年かけて書いたという本を現代語にしたもので、大変読みやすいです。
日本人にとっての美とはどういったものなのかわかりやすく書かれており、
能に関わらずお芝居など芸術になんらかの形で関わる人には胸に響くものがあるのでは、と思います。
現代ではあまり使われることが少なくなった「幽玄」や、「花
...続きを読む」の言葉の意味を考えるきっかけになります。
感情に訴えたり闇雲な考えを押し付けたりという内容ではなく、冷静な見方で理論的に語られているので理解しやすいです。
花の時期を過ぎた後どうするか、などについてもきっぱり語られています。
「秘すれば花」。珍しいから素晴らしいと感動する。
相手の期待を良い意味で裏切ることこそが感動を呼び起こす というのは、シンプルながら核心をついた言葉だと思いました。
子供がなにげなくやりだしたなら、こと細かに、良い、悪いと教えないこと。あまりに厳しく注意すると、子供はやる気を失い、億劫となって、能そのものが止まってしまう。
これも、能以外にも言えることだと思います。
若い役者がその若い声と姿で「すごい役者が出てきた」と評価され
ときに名人にも勝ることがあり
そこで本人が慢心してしまうとそえは若さゆえの一時の花であり、真実の花にはならない
『たとえ人にほめられ、名人に競い勝ったとしても、これは今を限りの珍しい花であることを悟り、いよいよ物真似を正しく習い、達人にこまかく指導を受 け、一層稽古にはげむべきである。』
というのも、深く頷くところです。
老人を本当にうまく演じるにはやはり相当の名人でなければならず、
老人を本当にリアルに演じるだけでは花がなく面白くない、というのも確かにそのとおりだと思いましたし
そういったことまで書いてしまうのだな、という点にも感動しました。
面白いということが大切で、鬼もリアルに演じれば怖くなりすぎて面白さがなくなってしまいます。
「花はありな から年寄りに見える公案、くわしくは口伝する。」というのも素敵です。
申楽を始めるときに観客席を見て、今日はうまくいくな、とわかるというのは
お芝居をやっている人も非常に共感するのではないでしょうか。
『上手の芸が目利かずの心を満足させることは難しい。下手は目利きの眼に合うことはない。』
というのも、あらゆる世界で言えることな気がします。
『狂う演技に花をおいて、心を込めて狂えば、感動も面白い見所も必ず生まれるものだ。』
『能の命は花にあり』
芸事だけでなく、仕事など誰かに対する場合にも
心に置いておくべき真理だと感じました。