Posted by ブクログ
2017年03月25日
世阿弥は、室町時代初期の大和猿楽結崎座の猿楽師で、父の観阿弥とともに猿楽(能)を大成し、『高砂』、『井筒』、『西行桜』等の作品のほか、多数の能芸論書を著した理論家でもあり、世界の芸術史上でも稀な天才と評される。
本書は、父の観阿弥から口伝で教示された内容を書き記したもので、第七・別紙口伝に「秘すれば...続きを読む花なり、秘せずば花なるべからず」と記されている通りの一子相伝の秘伝書であり、明治までは観世家・今春家に秘蔵され、一般の目に触れることはなかったが、明治42年に写本が発見され、『世阿弥十六部集』として発刊されたことにより、一般に知られることになった。
本書は七篇で構成され、各篇では以下が述べられている。
第一・年来稽古條々・・・申楽者(能役者)の生涯を7歳から50歳過ぎまでの各年代別に分け、修行の工夫の方法が説かれる。
第二・物学條々・・・芸の根本である物真似の技術を題材別に俯瞰している。「学ぶ」ということは、良いものを「真似ぶ(る)」ことであることが説かれる。
第三・問答條々・・・演じるにあたっての具体的、実践的演出方法及び能に花を咲かせるための工夫と秘訣が説かれる。
第四・神儀に云わく・・・申楽者に対して、芸の正統性に対する誇りと家芸を重んじる精神の自覚が促される。
第五・奥儀に讃歎して云わく・・・「その風(伝統)を得て、心より心に伝えていく花」として『風姿花伝』の書名の由来が述べられる。
第六・花修に云わく・・・作能の手引きとして名作の条件、能を知ることについて説かれる。
第七・別紙口伝・・・能のテーマである「花」のイメージをあらゆる角度から見つめ、「常住せぬもの、それが花であり能である」、「年々去来の花(初心忘るべからず)」、「ただ時が選ぶもの、それが花」などが説かれる。
能という一古典芸能に留まらない、美、芸術、更には人生についての多くの示唆が、美しい言葉で綴られている。
(2007年9月了)