漫画「花よりも花の如く」(成田美名子/白泉社)を読んで日本っぽいもの、芸とは演じるとは、に触れたくなって手を出した。密で無駄なく普遍的かつ至りがたい。名前はみんな知っているけれど、本当にすごい本だった。漫画を読んでいて私は子供に惹かれるから小さな演者が好きだった。それに関しては「先づ、童形なれば、何
...続きを読むとしたるも幽玄なり。聲も立つ比なり。二つの便り(ちご姿の美しさと聲の良さ)あれば、わろき事は隠れ、よき事はいよいよ花めけれり。」とある。たまらん!しかし「さりながら、この花、誠の花には非ず。ただ、時分の花なり。」この花というのは端的にこれ、と示されない。いくつかのキーワードについて語られるなかに花は幻のように湧きあがるけれど、浅い読書じゃ掴めない。鬼についての言及もかっこいい。「「巌に花の咲かんが如し」と申したるも、鬼をば強く、恐ろしく、肝を消すようにするならでは、およその風体もなし。これ、巌なり。花といふは、余の風体を残さずして、幽玄至極の上手と人の思ひ慣れたる所に、思ひの外に鬼をすれば、珍しく見ゆるる所、これ、花なり。しかれば、鬼ばかりをせんずる為手は、巌ばかりにて、花はあるべからず。」荒々しい強い動作には足下は極めて優雅にとか、そのエッセンスと妙は挙げたらキリがない。神議云、の章も能関係の説話が面白かった。「上宮太子、末代のため、神楽なりしを、「神」といふ文字の偏を除けて、旁を残し給ふ。これ、日よみの申なるが故に、申楽と名附く。即ち、楽を申すよりてなり。または、神楽を分くればなり。」はーなるほど!きれい事ばかり書かれているのではなく、成功するための駆け引きなど厳しい世界がかいま見える。そもそも能は「壽福増長の基」、素敵だなあ。しかしこの本は広く能に親しんでもらうためのテキストではない。「この別紙口伝、当藝において、家の大事、一代一人の相伝なり。たとひ、一子なりと云ふとも、不器量の者には伝ふべからず。「家、家にあらず。次ぐをもて家となす。人、人にあらず。知るをもて人とす。」と云へり。これ、万徳了達の妙花を極むる所なるべし。」家というのを現代人から見ても先進的に捉えていて感心するけれど、これは秘伝なのだ。私のような人間が読んでいることに、秘宝を盗み見るような後ろめたさと快感があり、ドキドキさせてくれる。演劇者文学者に限らずあらゆる意味での表現者にとってもこれは秘伝だ。現代語訳もそのうちに読みたいけれど、まずは注も控えめな岩波文庫で原文を読むのがオススメ。文に無駄が一切なく、章立ても細かいからなかなか読めるよ!