好物の記憶喪失ものです。王道でいろんな秀作がすでにあるテーマだけに、作者の腕が試されるところ。
ひとひねりあって、ちょっと切なく甘いストーリーでした。
高校2年の涼は交通事故で1年分の記憶を失くしてしまうのですが、それから3年経ったある夜、突然記憶が蘇ります。でも、その代わりに記憶を失っていた間、
...続きを読む3年分の出来事を忘れてしまうのです。
いきなり、高校生から大学生になってしまった気持ちです。見た目は成長しているけど、心は高校生の時のまま。その上当時悲惨な経験をしたせいで、何事につけても猜疑心がわいてしまいます。
さらに、周囲の話を聞くと3年の間、涼は「天女みたい」で、今の自分とは性格も趣味もまったく違っていて、まるで別人のよう。
その涼を、記憶を失っている間支え続けてくれたのが、昔から大好きだった10歳年上の従兄弟、功一郎だったのです。そしてどうやら二人は恋人関係だったらしくて。涼は戸惑いながらも、どうにかしてその頃のように恋人同士であり続けたいと努力するのですが。
ハリネズミ→天女→ハリネズミ。ただの記憶喪失じゃなくて、性格まで豹変しています。しかも、その天女な涼は大好きな功一郎の恋人にまでなっていたという衝撃。
これは切ないです。天女みたいだったと言う自分に嫉妬もするしライバル視もするけど、今は高校生のままで子供っぽくて周囲から受けた傷で猜疑心だらけ。涼は、不安になって悩んだり精一杯頑張ってみたり、意地らしい努力を続けます。
そんな中、功一郎の鷹揚さ、悪く言えば鈍いところが救いでした。どちらにしても根本的には涼は涼で同一人物だから変わらない、と言って優しく無骨に愛してくれる功一郎の存在は、読んでいてもほっとするところです。涼に甘えられると、拒まずにちゃんと恋人として受け入れたところにも安堵。涼が積極的に甘えていくHシーンがかわいい。エロ的にもキュンキュンさせられました。
でも、本当のところは涼の記憶喪失前と後の人格って別物なんじゃないかという気もして、ちょっとひっかかりました。そのあたりに功一郎が気付いて、同じでも違う、と感じる「夢見る記憶」に胸が締め付けられました…切ない。