金子司のレビュー一覧
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『エンダーのゲーム』の前身と思われる同名タイトルの短編を含む11の短編集。もしかしたらこの作家は短編の方が上手かもと思うような、クオリティの高いものばかりでした。
本のタイトル作について。
生後6ヶ月で受けたテストで見せた音楽への“天才性”により、クリスチャンは音楽の<創り手>となることを定められる。
彼は両親から引き離され、自然の中で聞こえる鳥の歌や風の歌、雷の音、つららから落ちる水滴の音、リスの鳴き声といった音楽を与えられた<楽器>のみで奏で、そして<聴き手>はそれらに聴き入る。
<創り手>であるクリスチャンは<聴き手>になることは許されないのであるが、ある時一人の<聴き手>がクリスチャ -
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もはや加古のことだけれども『鋼の錬金術師』が大ヒットした。その理由のひとつに、おそらく、従来の魔法とか錬金術といったようなものの、はるか上をいくスケールで作り上げた魔法空間といったようなものが、読者を魅了したのだと私は思っている。
本書、『空中庭園の魔術師』もまた、かなり大がかりな空間的な魔術トラップを用い、しかもそこに不動産関連の、魔術師による大がかりな詐欺事件を重ねたという複雑な仕掛けを作っている点が非常に面白い。
ファンタジイとしても、ミステリとしても楽しめるし、中にはイギリスのニュートン式魔術に対して、ソ連の魔術兵士とのアクションが入る。これだけサービス精神豊かな作品もなかなかないと思 -
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倫敦の地下というと、「地下鉄トム」しか思い浮かばなかった。しかも、名前として知っているだけなんだよね。
まあ、都市の地下と言った時、たしかに、パリなら下水道、倫敦なら地下鉄だとは思うんだけど、こちら東京住まいでして、地下鉄網の複雑さはたぶん、倫敦に勝っていると思うのだ!(えっへん!)
なのでどうもイメージがわかないわけですな。
ところが、歴史ある倫敦の地下鉄で殺人事件が起こる。われらがピーターはもともと建築家志望なので、煉瓦の積み方から「これ、いついつの時代に作られたとこ」とわかる。こういうマニアックな部分から、まず、惹かれる。煉瓦の積み方……! いいよねw
しかも地下鉄から話は下水道に入って -
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「SF好きならどう?」と同僚に勧められたのが
この人の「エンダーのゲーム」という作品。
長編と短編があるようですが、
バトル物SFに興味があまり向かなかったので
短編版のこちらを選択しました。
で…
エンダーのゲームに関しては
ガンダムみたいなロボット系のSF好きなら
長編版のほうが楽しめるかもしれません。
その他、短編もなかなか面白い作品が多かったです。
単に「面白い」というより
数年後「あれ…なんか、こんな話どこかで読まなかったっけ…」って
忘れた頃にウズウズしてしまうような、
何か知らないうちに妙な種を植え付けられるような内容が揃っています。
個人的には
・王の食肉
・深呼吸
・四階 -
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ネタバレ読んでて、エンタメってこういうものだったって思い出した。とくに「エンダーのゲーム(短編版)」。11才の少年が他の誰にも思いつかない戦術でめくるめく大活躍… って、そう、最近忘れてたけど、そういうのがエンタメだった。リアリティとかどうでもよくて、とにかく面白ければいいんだよ。
「ブルーな遺伝子を身につけて」は、正統派SFっぽい顛末に加えて、宇宙服らしき「モンキースーツ」の語感がツボ。猿のスーツなんて不格好なはずなのに、何故かスタイリッシュ。
「アグネスとヘクトルたちの物語」…ステンドグラスの絵の裏表をひっくり返して見ているような話。どっちも表だしどっちも裏。民族弾圧による死の運命から義両親に -
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ネタバレSF短篇集。
SFといってイメージするのはスターウォーズのように超越したテクノロジーを使った戦闘などでしたが、この本の短編はいかにもSFな物語というよりは作者の人生観をSFというジャンルで表現しているような印象を受けました。
宇宙人やタイムマシンが当たり前に出てきますが、それらの登場人物や道具を使って人生の考え方や人の生き方を話に落としこんで、1つ1つの話が教訓や寓話のように生き方の指標を示すような物語になっていると感じました。
11の短編の中では、タイトルになっている無伴奏ソナタとアグネスとヘクトルの物語が気に入りました。人の幸せや向き不向きについて考えさせられる話が少し寂しげで綺麗な話だと -
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まず、この文庫本の最初に『はじめに---作者への公開書簡---』が置かれています。この文章が書かれた時代のアメリカにおけるSF作品への状況が透けて見えてきます。
その上でこの短篇集を読むと、なかなかドロッとキテるな、というのが第一印象。『はじめに…』にも書かれている「”本格”SF以外に目を向けようとしない狭い範囲の読者のためだけの作家ではないのだ。」がよくよく分かってきます。
作者のあとがきにはこう書かれています。
---これらの短編すべてで繰り返されているモチーフがある---残酷なまでの苦痛と、グロテスクなまでの醜悪さだ。繰り返しあらわれる主題もある---死の愛好、喜びに対する支払いきれない -
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現代のロンドンの警察に魔法使いがいるという設定。
その魔法使いの弟子が主人公。
突然、魔法使いの弟子になってしまい、いきなり魔法を使うシリアル・キラーの相手をすることとなった主人公が、魔法を理詰めで、それも化学の分野にあてはめつつ考えているあたりは面白い。
でも魔法使い自身や魔法使いに関わる部隊や警察内部の軋轢や取り決めや、そういった魔法使いに関する謎を小出しにするためか主人公になかなか情報を与えないのがいらいらする。
魔法使いの修行のためにはあまり小難しいことを教えない方がいい、という徒弟制度の趣旨は理解できるけど、仕事を進めるうえでは自分だけが情報を持っていて、部下には目の前のことだけを教 -
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さすが古典SF作家の短編集と思わせる一冊!
作品の多彩さもそうなのですが、最近のSFの傑作たちに通じるアイディアも随所に見られ、普遍的なSFの血脈を感じました。
もっとも印象的だった短編は表題作の「無伴奏ソナタ」
音楽を愛した天才が、国家から音楽をはじめ多くのものを奪われていく姿を描いた短編。
国に逆らうと分かっていながらも音楽を創ろうとする主人公の静かな熱意と過酷な人生に思いをはせるとともに、ラストシーンの素晴らしさが強く印象に残ります。文章が主人公から距離をとった冷静な語り口なのですが、その分深く静かな感動がゆっくりと押し寄せてきました。
SF作品でありながらもホラーの雰囲気を感じる