中村佳子のレビュー一覧

  • 闘争領域の拡大
    現代社会は、経済だけでなく、「性愛」も自由化され、富めるものとそうでないものの格差が拡大している。このような話は、しばしばSNSで話題になっている「弱者男性」問題にもつながっており、ここ数年は熱をもって議論されていることだが、ウェルベックがこの問題を30年も前に小説のテーマにしている点が興味深い。主...続きを読む
  • プラットフォーム
    オトラジシリーズ。
    初のウェルベックさん作品。
    過激な描写が多い中、にじみ出るような開放感と自由な雰囲気がとても魅力的だった。
    燃えるような恋、性、そして…
  • ある島の可能性
    22.11.12〜12.19
    快と不快のバランスがゼツミョーだった。ウエルベックの作品はいつもそうかもしれないけど。
    Back2Backな構成だから形式は『素粒子』に似ているけど、この小説は構造として『人生記』があるから、全体的にカッチリしてる印象を受けた。
    アイデアとしての人生記の面白さと、書き手...続きを読む
  • 闘争領域の拡大
    23.3.25〜4.10

    この作品の語り手は、後のウエルベック作品の主人公とはちょっと饒舌さの趣向が違うように感じた。
    自分の中で死にゆくものへの愛が溢れ出てくる最後で感動した。
  • 闘争領域の拡大
    初ウエルベック。インセル鬱病エンジニアの主人公が同僚の非モテ醜男と旅に出る。小説の形態をとりながらその中身はエッセイのような、論文のような、アジテーションのような。厭世的ではあるが世界を観察する眼差しを捨てることは決してできない。そんな哀しさに満ちている。皮肉たっぷりの持ってまわった言い回しは痛快で...続きを読む
  • ゴリオ爺さん
    面白かったが、キャラクターの描かれ方が単純で、現実的でないような気がしたため、感情を没入させることはできなかった。でも「野心」とか「虚栄心」とか小説によく出てくるテーマについて色々と考察の深まるお話で、読み切ってよかったと思う。
  • 男の子が ひとりでできる「片づけ」
    やはりわたしにはライフオーガナイズ的な片付けが性格に合うようで、読んでて、

    あーわかる!わかる!それ!

    ってのがたくさんあった。

    これはなかなか片付けられない男の子のしかも子ども向けに作られてるけど、片付けられない大人!こういうところから始めてもいいのかも!?

    片付けられないのは何も子どもに...続きを読む
  • アドルフ
    P伯爵、T男爵、愛人、社交界。この時代のヨーロッパを感じます。それなのに話の9割は2人だけのことになります。
    これまでに読んだ多くの恋愛ストーリーは、付き合うまでが波瀾万丈で想いが伝わるとハッピーエンドです。この小説では付き合うまではかなりあっさりで、その後の2人の葛藤が話のメインとなります。アドル...続きを読む
  • ゴリオ爺さん
    父性愛の極地
    レアリスム小説のはしり。ここから20世紀小説は「本当らしさ」からの脱却を求め始める。
    映画もあるらしいから観てみたい。
  • アドルフ
    劇的に面白かった。
    付き合って終わるのがデフォの恋愛物語だが、この作品は付き合った後別れることに焦点を置いており、とても珍しい印象を覚えた。
  • ある島の可能性
    性と老い、そして不死をキーワードに、現在と遺伝子コピーされたクローンが生きる破滅を迎えた世界を描いた、SFというかディストピアの向こう側のような作品。
    セックスから男と女の話、そして文明と広がる話の中で、男と女がそれぞれが求めるものをつきつめると、結局一夫多妻が正解だったのかもしれないと感じ、そして...続きを読む
  • ゴリオ爺さん
    フランス文学の傑作とされているゴリオ爺さんだ。一回読んだだけではなんのことやらよくわからなかった。
    ただ、この小説はゴリオ爺さんと法学を学ぶ学生ラスティニャックの関係性を書いた物語と捉えることもできるのではないかと感じた。

    パリの社交界に憧れるラスニャック。パリの社交界に身を置く娘にひたすら尽くそ...続きを読む
  • ある島の可能性
    「前例のない水準の繁栄と健康を確保した人類は、過去の記録や現在の価値観を考えると、次に不死と幸福と神性を標的にする可能性が高い。飢餓と疾病と暴力による死を減らすことができたので、今度は老化と死そのものさえ克服することに狙いを定めるだろう。人々を絶望的な苦境から救い出せたので、今度ははっきりと幸せにす...続きを読む
  • 闘争領域の拡大
    ウエルベックの処女作。冒頭のデブス二人がミニスカートは男の気を引きたくて履いているわけではないと高らかに宣言するのに対し「くだらない。粕の極み。フェミニスムの成れの果て」と主人公が毒づくのは苦笑してしまった。ウエルベックは相変わらず差別的だが、ある種の絶望した男性を描くのは本当に上手い。

    自由主義...続きを読む
  • ある島の可能性
    センセーション、キッチュ、醜悪、美を自在に配合して縦横無尽に文学するウェルベック。主人公ダニエルはそのコメディアン版という感じ。彼もまた人心の歯車を知り尽くし、観客の笑いをタイミングから加減に至るまで完璧に掌握している。

    しかし、そんなダニエルにさえ人生はままならない。中盤のみっともなさがすごすぎ...続きを読む
  • アドルフ
    18世紀末から19世紀初頭のフランスの作家コンスタン(1767-1830)の唯一の小説、執筆は1806年、初版は1816年。

    本作品はフランス心理小説の先駆けと云われ、人間心理の動きをどこまでも細密かつ合理的に記述しようとしている(逆に、本作中には心理描写以外の情景描写などは殆どない)。その巧みさ...続きを読む
  • 闘争領域の拡大
    自由であるが故に、自分が敗者となる恐怖・敗者であると認める恐怖は、私たちにとってもあまりにもリアル。
    自分を客体視することで平静を保とうとし、硬質な文で綴られるこの独白も、その内側の絶望感を浮き彫りにしていて痛々しい。けっきょくのところこの主人公も愛を渇望していて、闘争領域の外に立つことはできないの...続きを読む
  • ゴリオ爺さん
    薄情な娘たちに裏切られたゴリオ爺さんの最期の場面は心を動かされる。
    しかし、叙述が長いのと回りくどいのとで感情が遅れて追いつく感じになってしまうので、どうもダイレクトな感動には結びつきにくい。そこは古典なので致し方ないのかもしれないが読みにくいことには違いない。
    死の床のゴリオ爺さんの錯乱しながらの...続きを読む
  • ある島の可能性
    ウェルベックはすでに何冊か読んでいるが、この作品でようやくウェルベックの愛に対する執着の凄さが分かってきた。思い返してみると、いままで読んだ作品にも愛への執着は十分あったと思うのだが、それよりもペシミスティックさの方ばかりに注意が行っていた。これを読んだ後では作者の印象が少し変わった。単なる先鋭なペ...続きを読む
  • 闘争領域の拡大
    ちょっと後半の展開が急なきがするけど、ウェルベック独特の視点がもう現れている気がする。

    恋愛の自由主義化によって経済と同じ階層が出現してしまった。