19世紀パリ社交界を舞台に描かれるフランス文学の傑作。モームの世界十大小説の一つ。光文社古典新訳文庫版。
人間描写力すごすぎワラタ。いや人間観察力ともいうべきか、細密な心理や行動の描写が逐一的を得ていて圧倒される。段落などの区切りがなく長い文章が延々と続くため、序盤の間、舞台設定をつかむまではやや
...続きを読む読みにくい。しかし謎解きのようになっているゴリオ爺さんの実像が見えてくる第一章の後半ごろには、込み入った人間関係の興味深さに引き込まれていた。その後物語は加速に加速を重ね、第四章あたりには、もう読みきらなければ本を閉じられないというほど夢中にさせてくれた。
しかし壮絶で切ない話だ。社交界という華やかかつ恐ろしい世界で、人間の醜さと愚かさを骨の髄まで見せつけられる。純真で好感の持てる青年・ラスティニャックの人格形成の顛末が巧みでその後が気になるし、もう一人の主人公級人物ヴォートランは前日譚も後日譚も読みたくなる。そのあたりがうまいつくりで、本作はバルザックの書いた《人間喜劇》という膨大な物語群の入口だという。彼らは主人公だったり脇役だったりでいくつもの他作品に登場するらしい。
社交界の泥沼で人間性を貶めてしまったせいなのか、行き過ぎた父性愛が罪作りだったのか、二人の女性の姿が読者の怒りを誘う。だがどちらが悪いと言い切れるほど真相は単純ではなかった。最後の彼の独白の叫びが愛憎の複雑さを呈していてすさまじい。これが古典として残る作品のすごさかと恐れ入った。
個人的には、おとなしいあの女性のその後が一番気になるのだが……。