鳥山まことのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
家がかつてそこで暮らしていた人たちの
想いや出来事を慈しむように回想し、
別れを告げていく
そんな物語だった
死に逝く人の頭によぎる自分の来し方
走馬灯のように蘇る記憶
それと同じように
その家にかつて住んでいた人たちの姿や想念が
浮かんでは消えていく
空き家になったその家で
一人の青年が絵を描く
ダイニングの真ん中に立つ丸柱
漆喰の壁
洗面台のタイル
部屋中の取っ手
それはその家とそこに息づいていた人たちを悼む
静かな儀式のように思えた
私が昔住んでた家
小さな建物の
シルエット
部屋の間取り
家具の配置
空気感
明るいところ
暗かったところ
父や母の声
そこにいた私
覚えてる
もうなくなってしまったものだけれど
記憶には鮮やかに残ってる
永遠に残るものなんてないから
私はそれで十分
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Posted by ブクログ
ネタバレ誰も住まなくなって汚れ、荒れてしまった家の前に青年は立っている。
家に侵入し、リビングに座り、見えるものをスケッチブックに描く。
家は住んだ人の記憶を刻んでいる。その記憶を少しでも残すために、青年は描く。
自分が子どもの時、この家を建てた建築家の藪さんが住んでいた。ここで彼にスケッチを教えてもらった。
次に住んだのは緑と飼い犬のマルタ。彼女はこの家で塾を開いた。
その次は圭さんと脩さん。夫婦だったと思うのだが…。何やら隙間の空いたような関係性。
それに、藪さんが家を建てる時の記憶。左官屋さんや大工さんと一緒に作業をしている。
それぞれのタイミングにそれぞれの生き方がある。
同じ家を見ていても、そこで感じた気持ちなんかはみんな違う。
それらをみんな記憶してきた家、その家の記憶を読者はなぞることができる。
傷跡一つから立ち上がってくる住人たちの生活感がとてもリアル。
青年は、家を丸ごとスケッチしていく。
真っ白な漆喰の壁とか。収納庫の中まで。
住人たちの様子は淡々としているが、その時その時を誠実に生きているだけで、家の歴史の一部になっていくのが、何ともいえず感傷的な気分になる。
古いアルバムをざっと見た感じ。
なんか胸が詰まるような、満たされたような、この感じは何と言えばいいのか?
自分が歴史の一部として、次の人に何かを伝えるという想像はむずがゆいけど満たされるような。
歴史になったよ、と担保してくれるのが家なのかなと思う。
最後、家は解体される。
現実には子ども時代の思い出がある場所はなくなったけど、青年はスケッチをして、忘れないように留めておいた。
なんだか、亡くなった人を見送るかのようだった。
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Posted by ブクログ
衝撃的。
最近いい小説にたくさん出会っているけど、この小説ほど心の琴線に触れたものはない。
超おすすめ。
特に生きる意味とか考えちゃう30代40代の方!
物語としての起伏がほとんどないうえに、最初に詳しすぎるやろ!というレベルの家の細かい描写から始まるのでとっつきにくい感じがするけど、がんばって読み進めてほしい。
家の物語。
空き家となり取り壊される家に、かつて縁があった青年が忍び込みスケッチをする。
スケッチするたびに四十年前、三十年前、二十年前に住んだ人の記憶がテクストに流れこむ。
青年は家に住んだ人々のことを知らない。
住んだ人々もお互いのことを知らない。
だけど家の記憶を通して、そこで生きた人々の生の痕跡は確かに他者に伝わっていく。
「浮かび上がる彼らの思考は、思い出すたびに揺れては変化し、膨らんだり見失ったり、そのせいでずれて、浮かぶたびに違う景色、一度も思い出さなかった時間や感情や言葉や表情が映る。」
「彼らはここでただ暮らしていただけだった。時間の中で壁や柱や梁に触れていただけだった。染み付いた熱や湿気を追って、暮らしていた彼らの思い出すことを思い出していただけだった。ここにいた誰かの記憶をずっと思い出していた。」
人は生きる。
誰かと出会う。そして別れる。いつか必ず死んでしまう。それなら、
生きる意味とはなんだろう?
人生の価値とはなんだろう??
この小説はその疑問に答えを与えてくれるものだと思う。
たとえ二度と会えなくなっても、たとえ亡くなってしまっても、たとえ一度も会ったことがなくても、誰かの記憶の中で、人が生きたことは残っていく。
生きることの美しさも悲しさも、全部この小説には詰まっていると、そう感じられる傑作だと思います。
作者の鳥山まことさん、これが初の単行本なんだ。
僕とほぼ同年代だけど、人の生の根源に触れる小説を書けるとは、正直信じられないくらいの衝撃。
これからどんな作品を紡いでいくのか、本当に楽しみな作家さんです。 -
Posted by ブクログ
読書備忘録1025号。
★★★★。
第174回芥川賞受賞作。
読み始めて・・・。
「なんじゃこりゃ?」
「読み辛い構成やなぁ。」
「ん?」
「あれ?」
「ふむふむ!」
「オモロイやん。」
ってなりました。
だけど、芥川賞作品です。
大衆的、俗物的オモシロ小説として期待してはダメです!
とある青年が築後40年経ち、今まさに取り壊される予定の平屋住宅へ忍び込み、柱の傷や壁の突起などこの家に刻まれた傷のスケッチを始める。
むかしむかし、この住宅を設計して住んだ藪さんは言った。
「家は時の幹なんです」と。
家は記憶している。歴代住人たちの営みを。思いを。
でもね、読み難いんですよ。
なんの前触れもなく、初代住人藪さん、2代目住人緑さん、3代目住人圭さんが入れ替わり立ち代るんです!
でもね。慣れてくるんです。
そして不思議と彼らの思いが心に染みてくるんです。
そう。嫌いではない。
以上 -
Posted by ブクログ
ネタバレ丁寧に作られたであろう平屋の一軒家にまつわるお話。現在に生きる青年が壊される前の家をスケッチしてゆくのと同時進行で過去の住み手の記憶が差し込まれて重層的に語られる。それだけなのに心に染み入るストーリー。長島有の「三の隣は五号室」に通じる設定ではあるが、家が建てられてから無惨に解体されるまでを描き、家に対するこだわりを感じた。それもそのはず、著者は建築士だった。ちょうどBRUTUSの特集に載っていてお顔も拝見したけど、想像と雰囲気ごぴったり合っててビックリ。お家の描写から伊礼智や中村好文に影響を受けたというのにもうなずけた。とても素敵な一軒家なんだろうと想像できます。だから後半の解体シーンは胸が痛んだ。
もう亡くなった大切な人ととの会えない時間の捉え方が良い。青年がこれまでの人生を振り返り呆然とするところは自分と重なった。それでも生きてきた自分を肯定したいとも思う。何度でもゆっくり読み返したい本です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレああ、きたよ、芥川賞だよ、これは!
ってなくらいとっつきにくくセリフがほぼなくてひたすらシーンのあちこちで登場人物の考えや見たもの、感じたことが延々と書き綴られ、しかもいきなり登場人物が増え、切り替わり、彼女が誰を指しているのか、一体だれがだれに対して言っているのか、思っているのか頭がこんがらがってそのまま瞑想の世界に飛び立ちそうになりながらも読み進めていく。最初は建築関係の用語がずらずらと出てくるんだけど、どうも建築の話とも思えないし、主人公が入れ替わるような文体で、で、誰が主人公なのよ?ってなかなか頭がついていけなかったのが、ようやく一人の男が自分が住むことになる平屋一戸建てを一から設計し、こだわりぬいたその家に時と共に住む人が入れ代わり立ち代わり、その家の住人と関わった青年が、廃屋となった家にスケッチブックをもって戻ってきた。そう、もうだれも住む人がおらず更地にするために取り壊そうという前に。青年が手にしたスケッチブックは初代の住人からもらったものでそのスケッチの書き方まで教わっていた。また、その後3代目の住人は個人塾をこの家で開いており青年はその生徒でもあった。
思い出をスケッチブックで残そうとやってきた青年が家に入ると次々に歴代の住人の記憶が行間を開けずに飛び交うのでこれが混乱を引き起こしている。三分の一も読み進めるとそれらにも慣れ、慣れてくると家の細部のこだわった一部一部が愛おしく、またその一部を見ることで当時の記憶が呼び覚まされる。
自分も両親を亡くし古い実家を手にすることとなり、生まれた時に建てられた家で、途中増改築したことも、両親だけが住み、補修やリフォームしてきた歴史もずっと見てきたので壊すことも売ることもできず、日々愛でるように毎日のように通って時間を過ごしているからこの小説の本質が身近に感じられた。一軒の家を大事に想い、そして解体されるその悔しさというかどうしようもないやり切れぬさ、そして思い出はすべてスケッチブックに収められ、更地になったあとも残し続けられる安堵感。タイトルがぐっと余韻を残してくれた。
決してエンタメな内容じゃないし、関西大震災の話やコロナの話なんかも出てくるが読みやすくもない。なにしろ無秩序に前置きもなく時間と登場人物が切り替わる。家の各所の思い出が噴き出してくる。実家で一人時間を過ごす自分にはわかりすぎて面白いというよりはグッと来たけど他の人にはどうかなぁ~ -
Posted by ブクログ
「更地にした方が売りやすい」と取り壊しすることになった住宅街の中の空き家は、35才の青年にとって小学生の頃慣れ親しんだ隣人の家だった。
隣人は引退した建築家で、人の手の温もりを大切にする丁寧な設計で職人達から慕われてきた。最後の仕事として自分自身のための平家を設計し、退職後はそこでスケッチをする日々を送っていた。青年は鍵っ子だった子ども時代、彼に誘われて共に絵を描く午後を過ごしていた。
その家は建築家が亡くなると、海外赴任の夫のいる主婦が開く学習塾の場となる。さらに子どものいない夫婦のものへと代替わりし、時を紡ぐ。
誰もがこの家の「心が馴染む感覚」を愛しみ、彼らの生活の背景には家があった。
この物語の主人公は何と言っても「家」です。
リビングのメインポールに籐を巻き付ける意匠や、柔らかな引き手の形状、住み手に合わせて「ちょうどいい」サイズの空間・建具など、夢のような仕様が備わっている。筆者の建築愛が伝わってきます。
細かい建築用語が少し読み辛いかもしれませんが、具体的な場面を頭に描いていただければ、むしろわかりやすいです。
なのにラストの無惨に破壊される場面はあまりにも悲しいです。日本の木造家屋はなぜこんなにも短命なのか。
本筋とは関係無いのですが。