鈴木結生のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
言葉を探し求める話
誰が何を言って、なぜそう言ったのか?
記憶のなかで曖昧になり、伝承のなかで曖昧になり、解釈によってねじ曲げられ、都合よく継ぎ接ぎされ、言葉はつねに形を変えてしまう……。
形を変えなくても、どう受けとるかによって言葉の「色合い」が変わってしまう。原色としての「言葉」は、読み手のほうで別の色がたしひきされて姿を変えてしまう……。変えられた姿のほうが輝いているときもあるほど!
ただ変えられた姿形を見たあと改めて言葉に向き合っても、本来の色も形も分からない。場合によっては変えられたことに気づかない。だからこそ「愛好家」は、姿形を変えられたのではないかと疑ってかかり、本来の色や形を復元しようと試みる。
歴史においては勝者の言葉が語り継がれ、文学においては語り継がれた言葉が勝者である…という格言風の感想を言いたいだけなのでした! -
Posted by ブクログ
芥川賞作品とは知らずに手に取った。手に取ってから気づき躊躇したが、身構えるほどには難しい作品ではなかった。むしろ、読みやすい。面白おかしく読んだ。研究者の脳内を覗いているみたいで、とてもいい。
主人公は、ゲーテの研究者だ。還暦間近である。あるクリスマスの日、家族と食事に出かけた際、紅茶のパックのタグに書かれた偉人の名言の引用に、ゲーテと書かれたものを見つける。しかしその名言には見覚えがない。原文だとなんと書くのだろうか?本当にゲーテの引用なのだろうか?出典探しに取り憑かれる主人公。
全編にわたりずっと、そのフレーズが本当にゲーテのものなのかどうかを探し続ける主人公。その間に、研究者仲間の友人の不祥事があったり、娘の恋愛があったり、恩師でもある義父の衰えを目の当たりにしたりと、我々一般の人間も経験するような日常の中の出来事も起こる。研究者然としているトーンの中ににわかに普通の父親/男の顔が見え隠れするさまに、なぜかユーモアを覚える。
最後はドイツにまで行く。冒頭のプロローグに出てくる作者の正体もわかる。あぁ、ファミリーヒストリー。 -
Posted by ブクログ
芥川賞を受賞した鈴木結生氏の受賞後の最初の作品。次作を楽しみにしていたので、期待して読んだ。
イギリスとC・ディケンズが好きなファンダージ作家の舟倉按が、自伝小説を書き進める中で、父や母のこと、自分を
振り返る、自分の記録を探す物語。
独特の表現、イギリスのgenntleman、loue、英語の振り仮名だったり、「携帯財産+X」などなど。さーっと読んだだけでは、ん・・・?と思ったりするし、作者の圧倒的な知識に、これはどういう意味なんだろうと考えながらページをめくった。作者の意図することは、理解できているとは思えないが、主人公の按の頑張る姿はつい応援したくなるし、独特の世界観はちょっと非現実的で、二次元の本なのに視覚的にも楽しめる、そんな世界に浸れるのは楽しい。 -
Posted by ブクログ
前作『ゲーテはすべてを言った』にあった博覧強記のエンタメ性とは違って、今作は天真爛漫な文学の雰囲気があって微笑ましく読みました。基本的に別々である書き手と作品の距離を近くして語られることもままある面倒なこの頃、なら殆ど重なるような自伝やその体裁をとった小説であれば書きやすそう、と読む側でしかない私は思ったりしていたのだけれど、実際素材として揃っているものは自分の生きてきた大切な時間や記憶なのだから、どこを使うのか捨てるのかの選択は創作よりも難しいだろうし、伝えることが考えの押し付けにならないようするのも慎重に期す部分が多くて寧ろ書きにくいものなのかなと考えが改まりました。主人公の舟暮按(アンネ・フランクのアナグラム!)が最後に自伝的小説を書き直す決意を示すのも、作品全体を大きな愛が緩やかに包んでいるのも良かったです。済補(スマホ)の次が来貨(クレカ)とは予想外でした。
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ネタバレゲーテ研究の権威が知らないゲーテの名言に出会ってその出典を探す話。
タイトルはジョークであるとともにゲーテの偉大さを示す言葉でもある。
ゲーテの名言を軸に、言葉や文学をめぐる考察がアカデミックな世界で展開する。
謎解き要素が物語を先へ進める原動力になっている。
半日で読み終えるくらい面白かった一方、登場人物全員のエリートっぷりおよび知的(?)な文体に少々辟易した。22歳でもまだサンタからのクリスマスプレゼントがあり、レ・ミゼラブルの劇中歌を口ずさみ、ドライブ中にバッハをかける家族。げえ。何が「もう付き合うしかないよね」だ。語り手の娘は最初から最後まで鬱陶しくて好きになれなかった。嫉妬やない。文体も、外国語の引用の訳がなかったりスマホを「済補」と書いたり衒学的すぎやしないか。
実家に出かけると一つ部屋で寝て寝る前に会話もするのに自宅に戻ると家族三人ばらばらになる、主人公の目にはいいと思えない義父の論文を娘が絶賛する、それらが何か隠された意味を持つのかと思ったけど違った。
文学や研究への愛がテーマだと思うんだけど、こんな窮屈なアカデミズムの世界でしか語れないなら文学ってつまんねえな、と思ってしまった。男女のカップル、女や老人はテクノロジーに疎いみたいな人物造形は類型的。妻のテラリウムが象徴するように箱庭的な話。 -
Posted by ブクログ
鈴木さんの小説で語られる本が好きな人たちは堅物揃いなのだけれど、それゆえにどこかキュートでもあって深く愛さずにはいられない。本作ではデビュー作を大幅に改稿した「人にはどれほどの本がいるか」、辞書の誤謬を見付けるバトルを繰り広げる二人の教師「完壁な辞書」(“壁”の字は誤字ではない)を時々にやけながら特に面白く読みました。一方、残る「猫にバイブル」はそれらと比べるとかなり硬派な印象で、私には書かれている人間の顔があまり見えてきませんでした。とはいえ作者の豊富な知識に裏打ちされた物語には、好奇心を擽る強力な力が働いているのも確かで、読み終わったこの瞬間から、既に次作への期待は大きく膨らみ始めてもいます。