松永K三蔵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
⚫︎受け取ったメッセージ
安定した道を選ぶことは、本当に安全か?
危ない道を選ぶことは、ただ無謀なだけなのか。
⚫︎感想
会社の方向転換とバリ山行が並行構造になっていて、登山が仕事や人生のメタファーになっている。安定した道だと思えても、思わぬ出来事や責任が発生したり、バリ山行のような命懸けの道に生命の煌めきを感じたり、ながされるままに生きているようで無意識に選択していたり、人生ってやっぱり面白いものだと改めて感じた。
バリをやっている妻鹿(めが)さんは、会社や人生の不安は、頭の中で増殖する幻のようなものかもしれないが、山では、目の前の危険に対して実際に身体を使って対処するしかない、と語り、その「本物の現実」に触れることで、妻鹿さんは生きている感覚を取り戻していた。
人生は山登りに似ている、というユングの言葉を、この小説を読んで連想し、さらに思いを馳せることができた。
依存先を大きくひとつにするのは危ないということ、
道無き道をいくバリ山行、でも今あるどの道も、誰かが踏み分け通った道なのだ、と思うと先人への感謝の念も湧いて来た。
ラストにも希望があり、好きなタイプの小説が読めて楽しかった。
⚫︎本概要より
第171回芥川賞受賞作。古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているベテラン社員妻鹿があえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。
「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!」(本文より抜粋)
会社も人生も山あり谷あり、バリの達人と危険な道行き。圧倒的生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。 -
Posted by ブクログ
「山を登る話」だと思って読み始めたら、全然違った。
派手な展開があるわけではないのに、ページをめくるたびに心が少しずつざわつく。山そのものよりも、人が抱える孤独や執着、社会の中で生きる息苦しさがじわじわと浮かび上がってくる。
タイトルの「バリ山行」が最後には単なる登山用語ではなく、生き方そのものを象徴しているように感じられた。誰も歩かない道を選ぶことは自由なのか、それとも孤独なのか。読み終えた今でも、その問いが頭から離れない。
文章は静かで淡々としているのに、不思議な緊張感が最後まで続く。一歩間違えれば足を踏み外す山道のような空気感が、読書体験そのものになっていた。
読み終わったあと、しばらく何も考えずに余韻に浸りたくなる一冊。派手さではなく、静かに心へ入り込んでくる作品が好きな人には強くおすすめしたい。 -
Posted by ブクログ
本物の恐怖は山にある、街にある恐怖は人間が想像で作り出しているものに過ぎない。山に入ってリアルな孤独、枠組みを外れてみたくなるんだな。バリ山行。
上出遼平の歩山録にも描かれていたけど。山は死と隣り合わせで、ある種そういうヒリヒリ感とか魅力がやっぱりあるんだろうな。予測不能感。かなり体力的にも、きついし。戻った時にホッとするためにやってると彼は言ってたきも。
しかしなあ、山に入って本物の恐怖を感じることは、逃げなんじゃないか、街の恐怖から目を背けてるんじゃないか。という論点は新しいなと思った。もちろん程度問題なんだろうけど。
純粋に突き詰めるメガデスさんの、生き方に憧れるところもあるけど、本人は本人で辛い面ももちろんあるんだろうし。
メガデスさん同い年という!! -
Posted by ブクログ
いやあ、面白かった。
芥川賞「バリ三行」に続き、松永K三蔵さんのデビュー作。
ある時、急にある建築現場の進捗管理をすることになったロードバイクが趣味の主人公。
しかしその建築現場の隣には厄介なクレーマーがいた。
その名も亀夫。
やんなるほど厄介だが、その男の傍にはただただおとなしく毎日を過ごしている見た目の変わった犬がいた…。
そしてある時ひょんなことから、主人公はその犬の面倒を数日見ることになる。
仕事のストレスは毎日のように振りかかり、住んでいる家はペット飼育禁止のマンション…
バリ三行と同じく読みやすくテンポよくすいすい読めた。
最後主人公と犬はどうなるのか
犬になんだか自分の思いを託しているようにも見えるし、最終盤の主人公の逡巡は、必死に何か言い訳を探しているようで、犬のことについてなのか、自分自身についてなのかわからなくなってくる。
自分で決めたことの責任の負いたくなさ
それを犬に賭けるあたりが、この主人公らしさでもあるが、人生のある時そうしたくなる瞬間もあるよなあと、なんだかおもしろかった。
でもわかるなあとも思う。
あっちいったりこっちいったりウロウロうろうろ。
考え疲れてええいって感じ。そこら辺が普遍的なテーマに感じておもしろかった。
犬との関係を通して、こういうことを書き切るのはすごいなと思った。
そして同時に沸き起こる犬への期待
「本来の自分の種が持ち得る力」への期待
「私は私の危うい幻想を捨てきれなかった」
犬への期待は実は主人公、自分自身への期待のようにも感じたし、まさにその自分とは、この作者自身のようにも感じた。会社員の傍ら挑戦したデビュー作。小説家としてやっていけるかの不安と期待。
そういうのが読んでるこっちも自分事のようにも感じてきて、自分への期待も込めて
カメオーーー!!と叫びたくなる読後でした
疾走感もよかった♪
またいつかもう一回読みたい
カメオー!
追記◇
なんか子育てみたいだな
可能性にかけて、それがうまくいかない不安もあるけれど、何がいいかもわからない。よくよくこの可能性も見極めて、その子に判断を任せる。任せたあとは行けーと。
この主人公はいい飼い主だったと思う。 -
Posted by ブクログ
■はじめに
一気読みだった。140ページという中編の分量もさることながら、何より著者の文体が読み手を離さない。
純文学にありがちな、内面へ内面へと沈み込む心象描写を、あえて前景化させずに、状況・行動・やり取りの積み重ねを通じて葛藤を遺漏なく描く。
キビキビとしてソリッド。冷たくもなく、ハードボイルドにも偏らない、絶妙なバランス感覚が「一気読み」へと導いたと見る。さすがは「オモロイ純文運動」を提唱するだけあります!
■内容&構成
①前半─「お仕事小説」としての顔
物語の前半、正確には1/3余りは建設現場を舞台にした、きわめて現実的な「お仕事小説」として展開。
ここでの主役は隣人クレーマー〈カメオ〉。現場に日常的に侵入してくる“厄介な存在”。連日のクレーム、仔犬同伴での抗議、挙句は作業員のラジオ体操への参加。
相対する現場責任者の主人公は、感情を爆発させたところで、正義を振りかざしたところで、それは相手の思う壺として割り切り、仕事として対処し続ける。
ここで描かれるのは、日々直面する「理不尽」と「やり過ごし」の感覚だ。正面衝突を避け、摩耗しながらも業務を遂行する。
②転換点─偶然の「解放」
そんなクレーマーが、ある日突然、急死。前半の物語は、ここで一度、終わったかのように見える。主人公は〈偶然〉によって、厄介事から解放される。でも、その解放にはカタルシスを伴わない。
むしろ、次なる局面への、静かな助走に過ぎなかったことが、次第に明らかに。
③後半─「人間小説」への変貌
クレーマーの元に残された仔犬を、行きがかり上一旦ペット禁止の自宅マンションで預かることになった主人公。
ここから物語は、「お仕事小説」から、明確に「人間小説」へと舵を切る。
仔犬は成長とともに徐々に獰猛さを帯び、近隣住民もその気配に気づき始める。息をひそめる生活、常に背後を気にする感覚。
ここで描かれる緊張感は、外敵との対峙ではない。自分で引き受けてしまったものから、逃げられなくなる感覚。
前半が「仕事としての対処」なら、後半は「人間としての選択」を突きつけられる。
■感想
物語後半、主人公は振り回され、追い立てられ、いよいよ袋小路へと追い込まれていく。選択肢は狭まり、時間だけが過ぎていく。
著者は、刻々と悪化する状況描写を畳みかけるように描く。「さぁ、どうする?」「GOする!」と現実にはそんな簡単にはいかない。この辺りから、読み手も息苦しさがじわじわと押し寄せる。
そう、前半が〈偶然の解放〉なら、後半は〈意図的な解放〉。ただ、その選択には、正誤の2極論では片付けられないものがあるだけに厄介であり、懊悩する。
■最後に
哀れさと切なさは、近縁にある。
逃げ切れない状況の中で、最善でも最悪でもない選択をしておこうとする人間の弱さ。本作は、その一点を、過剰な説明も感傷もなく、静かに、しかし確実に描き切る。
短い小説の中で、お仕事小説として始まり、気づけば人間小説へと変貌していく。その過程で露わになる人間の弱さと、〈静かな追い詰め方〉が、読後もしつこく胸に残る一冊だった。 -
Posted by ブクログ
著者、まつながけーさんぞうさんは
ちょっと変わった名前なんですけど
昨年、「バリ山行」で芥川賞を受賞された方で
(↑ 読んでいませんけど)
この本は、デビュー作らしく、
先日、新聞で「面白くて哀しい」と書いてあって
気になったので読んでみました。
主人公、高見は、神戸の物流倉庫に勤務し
新倉庫の建設の管理を任されることになった。
しかし、建設用地の隣地に住む犬連れの男が
何かと工事にクレームをつけてくる。
厄介な男だなと思いつつ、
日々対応に追われていたのだが
ひょんなことから、なぜか、この男の犬を預かることに。。。
そして、一人暮らしの高見は
ペット飼育不可のマンションで犬と過ごすことになる。
この主人公が、また、なんとも言えない「いいやつ」で
ぶつぶつ言いながらも、犬の世話をし
頑張る姿が可愛くて面白い。
そして、想像もしなかった結末に
なんだか感動してしまったのでした。
これ、映画になったらいいのにな。。。
なんて思っちゃいました。
きっと私は泣く(^^;) -
Posted by ブクログ
ネタバレめちゃよい。
主人公の気の好さが滲み出ているし、あまりに普通。普通だからこそ、追い詰められた結果、犬を遺棄しようと思ってしまうし、逃げてしまった後になって後悔の念に襲われるんだと思う。
誰にでも起こりうるエピソードだった。
なんやろ、やっぱり理屈であれこれ考えるより、いやそれも大事なんやけど、直感に従うべき瞬間っていうのは人生にいろいろあるよな、と感じた。
大袈裟かもしれないが笑。
自転車仲間の野犬に追われたエピソードから始まり、主人公が会社に命ぜられて用途不明の倉庫を突貫で建てさせられる。その隣地のいちゃもん男・亀男が飼っているブルテリア。突然ぽっくり逝った亀男に代わって、ブルテリアを育て、いつしかカメオと呼ぶようになり、ペット飼育不可のマンションで悩んだ末、山に捨てに行く。倉庫建設の遅延による会社からの理不尽な処分への腹いせもあったのかもしれない。微かな期待をよそに、山に飛び込むカメオ。心のどこかで一緒に暮らす未来を思い描いていた自分に気づき、名前を呼ぶも、もう、戻れない。
そして最後は、自分自身が「カメオ」になる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレバリルート開拓の本が、芥川賞受賞しただと!
と、非常に気になってからだいぶたって(2年かよ)しまったが、今になって手に取ってみた。
へぇ、ポーアイに事務所がある外装工事業の営業マン、須磨区在住で会社の誘いで六甲山系に登りに行くとか、ほんで肝心のバリルートは西山谷遡行(俺でも知っているここは人気ルートとされる)からの地形図頼りの完全バリコースでの周回、これは身近でオモロいぞ。
六甲のバリルートはかつて個人的に開拓していたこともあり、仕事の葛藤を山でやることとか、仕事休憩中にヤマレコ、ヤマップみてるとか、バリやってる妻鹿さんの装備とかいちいち納得うなづけて良かった。
なんとなく芥川賞は相性が悪い(そもそも文芸春秋社はキラい)のだが、この本は良かった。講談社版権切れたらヤマケイ文庫で再版される未来まで見えた。