坂崎かおるのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
3人の男が鍋を囲んでいる場面から物語は始まる。場所はロシア。グツグツ煮詰まる鍋の中にはトウシューズが煮えている。なんで?
こんな訳のわからない場面から始まる小説が面白くないわけがない。
サンクトペテルブルクと日本の高崎が交錯する物語です。
サンクトペテルブルクと高崎を組み合わせた坂崎さんのセンスの良さに唸ります。
サンクトペテルブルクのピョートル1世から高崎で高崎観音を建てた井上保三郎の話に移ったかと思えば、更にその話を聞いていた大学生の「わたし」が出てきて…と、話は入れ子構造的に込み入っています。
サンクトペテルブルクと高崎と現代の東京のとある大学を目まぐるしく往復する話なのですが、とにかく面白くて夢中で読みました。 -
Posted by ブクログ
私もみんなもきっと正しくはなれない、一生。
だから正しくなくてもいい。
正しくない自分を抱えたまま海を眺めよう。と思えた。
100%クリーンな人もいないし、何でもできたり何でも一所懸命やったりすることが普通じゃない。
人に助けられた時に感謝することだって、当たり前じゃない。
それでも大切な人を大切にしたいと思ったっていい。
全然正しくないことを自覚している全然正しくない主人公が、なぜだかいとおしかった。
清廉潔白じゃない上で輝く「大切にしたいと思う気持ち」がリアルで好きだ。
静かにせつない。
キラキラ綺麗なわけじゃないけど、でも海岸の波音が聞こえてくるような、まさに「海岸通り」なお話。 -
Posted by ブクログ
第171回芥川賞候補作
海辺の老人ホームに派遣の清掃員として働くワタシ(クズミ)
ウガンダから来た同僚のマリアさん
手抜きばかりしていた元同僚の神崎さん
ホームの敷地にあるニセモノのバス停で来ないバスを毎日待っている入居者のおばあさんのサトウさん
いきなりニセモ丿のバス停を磨きあげるワタシ(クズミ)の描写から始まる
このバス停は認知症が進み、家に帰りたがる入居者を一度そこに連れて行き「なかなか来ないですね…また明日〜」とクールダウンのような場として機能しているらしい…
そのバス停に「ニセモノのくせに」と笑いかけるワタシ(クズミ)
そして必要以上にニセモノを磨き、ピカピカにしてサトウさんとおしゃべりをする
さらに時々サトウさんの家出中の娘のフリをしてサトウさんと過ごすワタシ(クズミ)…
そんな時、夫の転勤で仕事を辞めた神崎さんの代わりにウガンダからきたマリアさんと一緒に働くことになり…
とにかくこのクズミに一気に興味をひかれる…
クズミが放つワード、捨て台詞がいちいちおもしろい!
クズミは掃除が得意なのだが、オーバーワークはしない
生活はギリギリで家賃も遅れがちなのに…
そして世の中はコロナ禍に…
あれ?一体この作品はどこに向かう?
と思いながらのラスト!
うん?なんだ…なんだ…
あれやこれやしばらく気になる!
すぐ再読〜考える
湯浴み中もご不浄中も
ずっと考える
こんな作品は…好き…
そうかぁ…
正しいことなんてワタシ(クズミ)には心がささくれ立ってしまう…嘘だろう…と思ってしまう
そうやってクズミは自分を守りながら必死に生きているんだ
それは「ニセモノの矜持」だ!
そこに現れたウガンダから来たマリアさん…
ちょっとだけワタシ(クズミ)の心の奥底をくすぐる
うーん…少し咀嚼…
正しいとか正しくないとか
ホンモノとかニセモノとか…
これはね…ちょっと忘れられない作品
とにかく踊れ〜
踊りまくれ〜
これ
きっとまた読み返すな -
Posted by ブクログ
芥川賞候補にもなった2024年の新人作家の短編小説集。
本のタイトルの小説はない。
短編が6つ。
その中で秀逸と感じたのは最初の「ベルを鳴らして」。
今は博物館ものの「邦文タイプライター」をめぐる戦中を描いたドラマ。
邦文タイプ、見たことはあるがどう触るのか見当もつかなかった。
つまり小説の中にある描写は全然イメージできないのだけれど、
それでもなんだか高尚な、高貴な、知的な感覚を持って読むことができた。
佳作。
そのほかの作品は、ファンタジー的なものもあれば、
人間の毒を吐いてるものもあり、、、
「ベルを鳴らして」よかった
「ベルを鳴らして」(日本推理作家協会賞短編部門受賞作)
そこにひとつの戯画がある。家一軒ほどの大きさのタイプライターだ。
「イン・ザ・ヘブン」
地獄はどこにでもある。内とか外とか関係ない。
「名前をつけてやる」
これは「バッグ・クロージャ―」これは「ランチャーム」これは「ポイ」
「あしながおばさん」
拝啓 盛夏の候、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
「あたたかくもやわらかくもないそれ」
ゾンビは治る。マツモトキヨシに薬が売ってる。
「渦とコリオリ」
水流は左に渦を巻いている。 -
Posted by ブクログ
まず、表紙がいいですねー
淡い水色のバックに青一色の細い線で描かれた絵。余白もたまらない。
この絵のように静かで孤独な物語だったなぁ。
老人施設で清掃の仕事をしているクズミ(名字)。
クズミはどうも小学生の頃から他人と馴染めなかったらしく、それを受け入れ一人で生きることにしたような印象を受けます。いつも頭の中でブツブツと独り言を言っている、そらがそのまま文章になったような文体。
でもウガンダ人のマリアが同僚になって、カタコトの日本語でたくさん話しかけられるようになってから少しずつ意識が変わってきます。
このまま仲良くなっていくのかなぁと思っていたのだけれど、マリアの仲間たちのコミュニティにも疎外感を感じてしまう‥‥なんだか、手に取るように分かる感覚で他人事とは思えなくなってしまった。
けれど、マリアを責めている人には食ってかかるクズミ。あんたにマリアの何が分かるの!?と。
うまく馴染めなくても、寂しさを抱えている人の気持ちは分かる。あんたなんかより、ずーっと分かってるんだよ、というクズミの声が聞こえるようでした。
余韻に浸れる静かな物語でした。