小池水音のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
近所の古本屋で、表紙と帯のあらすじに惹かれて購入。読み始めたら雰囲気が好きすぎて、一気に半分くらいまで読んでしまった。
近未来チックな設定で淡々とした語り口ながらも、娘への思いや記憶を辿っていく描写は静謐な美しさがあった。
揺らぎと淡いきらめきと仄暗さ。悲しみと愛と罪悪感。そんなものがないまぜになった、まさにカバーデザインのような雰囲気。私が映画監督だったら映像化したい。
名前は記憶の杭になる、というのが新しい感覚で印象に残った。「記憶の海に潜る」みたいなことをよく言うけど、この作者にとっての記憶は森林のようなものなのかもしれない(一緒に収録されている短編での描写もふまえて)。
余命宣告をされた母目線の話なので、死期が間近に迫る感覚というのも疑似体験できた。
いつか来る自分の母との最期の時間もこんな感じになるんだろうか。私はそのとき母にどんなことを聞くだろうか。読みながらふとそんなことも考えていた。
逆に、自分の死期が迫った時に読んでみるとより深く刺さるものがあるのかもしれない。
曇り空や雨の日に静かに本を読みたい人、派手さはなくとも心に染み入る話が読みたい人におすすめしたい。
特に女性は共感しやすいと思うけど、内容が内容なだけにむやみに勧められないのが惜しい。 -
Posted by ブクログ
弟の自殺がきっかけとなり、生きる意味について考える登場人物たち。
弟の自殺した理由がわからないまま考え悩み続ける主人公は、死んだ弟が幼い頃に残した言葉、おとなになっても苦しいままだったらどうする?という問いかけを幾度も反芻する。
主人公は、弟のその問いかけに対してはっきりとした答えは、物語の中では示していない。
しかし、生きていく中で、偶然目にする驚きや感動とも言えないまでも、心動かされる情景、それらはとても弟に対してへの回答にはならないが、弟の死と向き合い、考え続ける姉の目を通して語られるそれらの描写に心奪われるのは、私だけでは無いはず。
そしてうまく言葉では表せないけれども、その中にほんの一握りの生きる意味や希望を見いだすことができるんじゃないかとそんなふうに考えた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ性別やジェンダーに関する本を読む流れで手に取った。
「筋肉量や体のサイズの平均値が小さい側として、性交為の際には主に相手から組みしかれ挿入される形状の生殖器を搭載する側として、妊娠出産という役割を担わされている個体」としては、こちら側の身体に関するエッセイは大抵辛さが想像できてしまうのであまり読んでこなかったけれど、もう一方の身体に関する悩みを聞く機会は少なかった(「筋肉量や体のサイズの平均値が大きい側、つまり丈夫な個体側」としてはこちら側にその話をし辛いというのもあるだろう)ので、新たな視点を持つことができた気がするし、逆にどちらの性別も変わらないなと思うこともあった。
身体が変わっていく違和感、性欲への嫌悪感・罪悪感、自分の性別で語り辛いこと、性被害からの目逸らし。見た目で価値を決められる生きづらさ、兄弟という感覚、メディアを通して自分を発信される違和感。人間ってなんて面倒な生き物なんだろう。
そして裏切らない朝井リョウ。流石すぎる。全部持ってかれた感もありつつ、全体的に満足感のあるアンソロジーだった。気になった話は自分の中で深掘りしていきたい。 -
Posted by ブクログ
女性版「私の身体を生きる」と同じように作られたのか?と思えない。そうであるならば信じられないくらい主旨が異なる。
それがどういうことなのか、意識して分かって書いたのかそういう文脈になる内容は面白い。
そうでない内容は…作品としてアウトプットされることに敬意は払いつつ、もう少し「身体」に踏み込んで欲しい気もした。
前者の内容については、やはり朝井リョウのパートが良かった。後半戦は少しボヤかして成立させている気もしたけど、本質はほんの数行に書かれていると理解した。
ジェンダーレスな社会は望めても、男女というセックスレス(性差)はどうしてもなくならないと思う。 -
Posted by ブクログ
読んでいてさまざまな感情が押し寄せてきた。
死期が迫る人の話のせいか、読んでいてずっと水の中のような感覚がした。
平野啓一郎さんの本心のような話だなと、初めは思った。本心のその前段階のようだと。会話ができるAI、それも特定の人物を再現したAIを作るための記録の作業。
その作業を通して思い出す過去。闘病中に意図せず出てしまった娘を傷つける言葉。血は繋がっていないゆえに許されない失言。
自分の、我が子に対する失言など、さまざまなやり直したい、無かったことにしたいあれこれがよぎり、なんだか苦しくなった。
短編の2度目の海も印象に残る話だった。こちらもくぐもった世界から見ているような気分になった。静かな静かな話だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ記録(遠い過去を克明に思い出して言葉にすること)が、曖昧に捉えてきた経緯や意思に輪郭線を引き、色を決め、濃淡を定める。
それは時に、ただ引き出しを開くような安易な行為ではなく、閉じた唇を開き、粘膜を掻きわけ、狭く深い奥底へと手指を押し込むような困難なものとなりえる。
必ずしも望んだものとは限らず、歪なかたちをして、引き出す過程で激しい苦痛を伴うことさえある。
ただ、その輪郭を指で一周たどることで、それがほとんど無意味な営みだったとしても、どれだけ痛みが伴うものだったとしても、違う目が注がれることになるかもしれない。
このAI時代に、そのAIでは成し遂げられない、本当の意味での「記憶の紡ぎ方」を考えるきっかけになった。