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Posted by ブクログ
近所の古本屋で、表紙と帯のあらすじに惹かれて購入。読み始めたら雰囲気が好きすぎて、一気に半分くらいまで読んでしまった。
近未来チックな設定で淡々とした語り口ながらも、娘への思いや記憶を辿っていく描写は静謐な美しさがあった。
揺らぎと淡いきらめきと仄暗さ。悲しみと愛と罪悪感。そんなものがないまぜになった、まさにカバーデザインのような雰囲気。私が映画監督だったら映像化したい。
名前は記憶の杭になる、というのが新しい感覚で印象に残った。「記憶の海に潜る」みたいなことをよく言うけど、この作者にとっての記憶は森林のようなものなのかもしれない(一緒に収録されている短編での描写もふまえて)。
余命宣告をされた母目線の話なので、死期が間近に迫る感覚というのも疑似体験できた。
いつか来る自分の母との最期の時間もこんな感じになるんだろうか。私はそのとき母にどんなことを聞くだろうか。読みながらふとそんなことも考えていた。
逆に、自分の死期が迫った時に読んでみるとより深く刺さるものがあるのかもしれない。
曇り空や雨の日に静かに本を読みたい人、派手さはなくとも心に染み入る話が読みたい人におすすめしたい。
特に女性は共感しやすいと思うけど、内容が内容なだけにむやみに勧められないのが惜しい。
Posted by ブクログ
読んでいてさまざまな感情が押し寄せてきた。
死期が迫る人の話のせいか、読んでいてずっと水の中のような感覚がした。
平野啓一郎さんの本心のような話だなと、初めは思った。本心のその前段階のようだと。会話ができるAI、それも特定の人物を再現したAIを作るための記録の作業。
その作業を通して思い出す過去。闘病中に意図せず出てしまった娘を傷つける言葉。血は繋がっていないゆえに許されない失言。
自分の、我が子に対する失言など、さまざまなやり直したい、無かったことにしたいあれこれがよぎり、なんだか苦しくなった。
短編の2度目の海も印象に残る話だった。こちらもくぐもった世界から見ているような気分になった。静かな静かな話だった。
Posted by ブクログ
記録(遠い過去を克明に思い出して言葉にすること)が、曖昧に捉えてきた経緯や意思に輪郭線を引き、色を決め、濃淡を定める。
それは時に、ただ引き出しを開くような安易な行為ではなく、閉じた唇を開き、粘膜を掻きわけ、狭く深い奥底へと手指を押し込むような困難なものとなりえる。
必ずしも望んだものとは限らず、歪なかたちをして、引き出す過程で激しい苦痛を伴うことさえある。
ただ、その輪郭を指で一周たどることで、それがほとんど無意味な営みだったとしても、どれだけ痛みが伴うものだったとしても、違う目が注がれることになるかもしれない。
このAI時代に、そのAIでは成し遂げられない、本当の意味での「記憶の紡ぎ方」を考えるきっかけになった。
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