あらすじ
余命わずかな継母と、念願の出産を控えた娘。母が去り、父が去り、長年この継母をただ一人の母として生きてきた娘は、その姿をなんとかこの世にとどめようと、母の《記録》を専門の担当者に依頼する。やがて継母は、心の底に沈めていた記憶を語りはじめる……。思い出すことの痛みとその豊かさ。期待の新鋭による意欲作。
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Posted by ブクログ
血の繋がらない死ぬ直前の母と、妊娠中の娘
夫は再婚後、女を作って出ていき、2人きりで暮らしたきた
娘は母の記録を残したいため、母のAIを作ろうとする
そのための過去の記憶のインタビューで、娘の知らない母の過去が明らかになる
母は一度自分の子を流産していた
そしてその悲しみの記憶を抑え込んで、血の繋がらない娘に全ての愛情を注いできた
死ぬ間際でその悲しみが溢れ出す
普通の母娘ではない2人の強い結びつきとその危うさ、両方が描かれている傑作
私は既に母は亡くなっているが、母の強さ、悲しみ、愛情を思い知らされ、母との日々を思い返した
Posted by ブクログ
とつとつと、静かな語りで紡がれる物語。
深層の感情を言葉にするのは難しいけれど、これと向き合うには、日々を忙しく過ごす現代には時間が足りないのかもしれない。そこに意識を向けるということも少ないのかも。
静かに自分と対話をする。そんな時間を持つには、歳を重ねるしかないのだろうか。
Posted by ブクログ
記録(遠い過去を克明に思い出して言葉にすること)が、曖昧に捉えてきた経緯や意思に輪郭線を引き、色を決め、濃淡を定める。
それは時に、ただ引き出しを開くような安易な行為ではなく、閉じた唇を開き、粘膜を掻きわけ、狭く深い奥底へと手指を押し込むような困難なものとなりえる。
必ずしも望んだものとは限らず、歪なかたちをして、引き出す過程で激しい苦痛を伴うことさえある。
ただ、その輪郭を指で一周たどることで、それがほとんど無意味な営みだったとしても、どれだけ痛みが伴うものだったとしても、違う目が注がれることになるかもしれない。
このAI時代に、そのAIでは成し遂げられない、本当の意味での「記憶の紡ぎ方」を考えるきっかけになった。