あらすじ
いつかきっと、いろんなことがわかるようになる。
母を病で失った五歳の「僕」は、いくつかの親戚の家を行き来しながら幼稚園に通っていた。大人たちが差し出す優しさをからだいっぱいに詰め込み、抱えきれずにいた日々。そんなとき目の前に現れたのは、イギリスからやってきた転入生のさりかちゃんだった。自分と同じように、他者の関心と親切を抱えきれずにいる彼女と仲良くなった「僕」だったが、大人たち曰くこれが「初恋」というものらしく……。
コンビーフのサンドイッチ、ひとりぼっちのハロウィン、ひみつの約束、悲しいバレンタインデー。
降り積もった記憶をたどり、いまに続くかつての瞬間に手を伸ばす。
第36回三島由紀夫賞候補作、第45回野間文芸新人賞候補作となった『息』に続く、注目の若手による最新中編。
感情タグBEST3
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幼くして母を亡くした天は、父だけでなく、えり叔母さん、ゾウのおばあちゃんそして父方の祖父母達の家で過ごす。幼いながらも自分の今の状況を観察する天。5歳の時イギリスから来た、さりかちゃんとゲームの世界に没頭するのだが。小池水音さんの作品、今回もとても良かった。
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いまだに忘れられない言葉があって
いまだに忘れられない視線がある
この本を読んでいて、そんなことを思い出した
胸なのか頭なのか分からないけど
身体のどこかに眠る記憶
忘れはしても
大事でなくなったとは違うのだ
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繊細な話。
5歳の子どもらしい未整理な心の中を16歳となった天が振り返るだけなのだが、5歳の天の心の揺れや成長、周囲の大人たちへの距離感、踏みだすまでの逡巡などが見事に表現されていて、心を揺さぶられた。読みながら、父で、ゾウのおばあちゃんで、叔母さんで、様々な立場から天を見まもるような気持ちだった。そう、いつかきっといろんなことがわかる日がくるよね。
さりかの大人びた子どもらしさに胸を打たれた。
終わり方も良かった。
他の作品も読もう。
Posted by ブクログ
目の前の出来事が全部だった子供の頃の気持ち。逃げようもなく、言葉にもできず、もどかしく、受け止めざるを得ない現実。さりかちゃんと天は笑って会話ができただろうか。
Posted by ブクログ
自分が幼かった頃の気持ちを思い出す作品。
大人もそうなのかもしれないが、子ども時代にどのような人と出会うかということは、その後の人生に大きく影響を与えるものだと思える。
天くんもさりかちゃんも、そのときに出会って、濃密に過ごした時間は、貴重なものだったのだろう。
ただ、私にはこの方の文章は少し苦しくなるな…
Posted by ブクログ
「僕」は五歳の時、母を病気で亡くした。以来、2軒の祖父母の家、叔母さんの家を行き来して過ごす。
ある時、通っていた幼稚園にイギリス帰りの「さりかちゃん」が転入してくる。
両祖父母も叔母さんも、何不自由なくこの上なく僕を慈しみ、大事にしてくれる。
そんな生活の中のにさりかちゃんが入ってきた。
外国暮らしが長く、あまり周囲に溶け込めないさりかちゃんとの距離は徐々に縮まり生活の大半はさりかちゃんと過ごすようになる。
5歳から6歳にかけての半年ほどの期間の出来事やその時の気持ちなどを大きくなった(高校生くらい)の僕が回想している。
その時々、思っていたこと、考えてきたこと。
優しく接してくれる大人たちに対する思い、妻を亡くしなかなか立ち直れない父に対する態度、少し大人びてしっかり者のさりかちゃんと過ごす楽しい時間とだんだんずれていく感覚。
5歳や6歳にしたら決して大人が思う無邪気さもなく、5歳や6歳だから気持ちや思いは十分に言葉にできず、伝えることができないもどかしさ・・・
そういうすべてのことを大きくなった僕は思い起こしている。
それはどんな気持ちだろう。
後悔ではないだろうし、肯定もしないし、当時に戻りたいわけだもないだろうし。
まだまだ続いていく未来につながるものであって欲しい。
あの頃の僕は若すぎて
君の気まぐれが許せなっかた
そんな君のやさしさは
大人びていました
(作詞・伊勢正三)
こんな歌がずっと頭の中で流れていました
Posted by ブクログ
お母さんはなくなってしまったけど、たくさんの愛情で育てられた主人公。子どもの心情が繊細に描かれていて、文章に惹きつけられた。朝焼け前の青の描写も素晴らしい。あの場面は感動した。
ゾウのおばあちゃんの娘に対する愛情も切なくなった。
ラストはさりかちゃんに会えたのかな?どんな話をしたんだろう。