安堂ホセのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「ひとり」の物語にしてはならない
今自信を持ってたくさんの人におすすめできる現代文学作家があるとするなら間違いなく、安藤ホセさんじゃないでしょうか。
今や芥川賞作家の安藤ホセですが、実は芥川賞を取る前からこの人の描く作品には何かあるんじゃないかと思っていました。ジャクソンひとりもそんな中の一つで、ゲイを推しているだとか人種問題がどうと紹介には書いてはないけれど何かあると自分自身ゲイであるところから唯ならぬ匂いを感じてきました。
デビュー作ということもあり読んでみた感想はといえば、この人は読み継がれるのではと思うくらいに鮮明で新しい、文学作品として完成したものに近いのではないかと。朝井リョウや -
Posted by ブクログ
ネタバレ恋愛リアリティショー「デートピア」のロケを舞台としつつ、その出演者である二人の主人公の過去や、ショーを見た未来の視聴者の視点が混ぜ合わせられて構成されているから、標題のショーはある意味で退屈なのに物語自体には緊張感が漂っている。
過去の事件や未来の出来事の語られる順番によって、人物や台詞、舞台の持つ意味、読者に与える印象が刻々と変わっていくのは、物語構造の面白さを感じさせた。
最終盤は、そこに至るまでの展開やその不穏さに比べ落ち着いていて、少し物足りなさも感じるくらいだったけれど、時間もルーツも愛も力も暴力も、何もかもがミックスされて意味が変容していく世界を描いた小説だったから、明確なカタ -
Posted by ブクログ
む、難しい〜。いままで読んだどの小説にもまったく似ていなくて、どんなふうに感想を書けばいいのかもわからない〜。
作中では世界各地から代表として選ばれた男性らがミスユニバースと呼ばれる一人の女性を巡って様々なドラマを繰り広げる恋愛リアリティーショーが行われる。序盤ではMr.東京と称される参加者に注目するとある視聴者の視点でリアリティショーの一幕が描かれ、中盤からはその人物の正体や過去、Mr.東京との奇妙な関係などが描かれる。
うーん、奇妙って一言で言っちゃうけどそこが重要というかこの作品の独特の空気を生み出している気がするというか…。
他の方も感想に書かれている通り、あらすじを読んだ限りではリア -
Posted by ブクログ
ジャクソン一人、に続いてミックスのゲイの男性が主人公。こんな店が本当にあるの?と想像や知識の範疇を超えるストーリーラインではあるが、カミングアウトしていない職場で、事件をきっかけに一気に(その店に行っていたことまで含めて)知られてしまうかもという恐怖の日々が切実で、こういう気持ちで過ごしている人がきっと少なからずいるんだろうなあと悲しい気持ちになった。
レストランの場面も然り。海外ではよく見るが、日本では公の場でゲイカップルとして振る舞うとこういう視線を浴びているのかも。カミングアウトして生きることがヘイトクライムの対象になるという代償を伴うという恐れ。海外だって同じように陰で言う人は言うし -
Posted by ブクログ
ネタバレ前半は超絶面白かった。ただ、後半のキースが裏社会で働いているくだりは、ちょっと自分にとって現実味がなさ過ぎて心が離れてしまった。でも再びデートピアの時間軸に合流してからはしっかり面白かったし、全てが理解できなきゃいけないとも思っていないので、総合して良い作品だと思う。
賛否ありそうな、映像字幕を過剰に意識したような細切れに『』で区切られたセリフは確かに読みにくかった。けど、「これは映像だぞ」と過剰に印象付けるようなこの演出もあって、とにかく「映像を読んでいる」感が凄かった。本当にネットフリックスの国際系恋愛リアリティーショーを観ているかのような気分だった。そして、番組の企画、番組が世間にもた -
Posted by ブクログ
「それに現代のように、いち個人の行動とバックグラウンドとを安易に結びつける社会で、トラウマを開示することはつまり、人格をジャッジする権限を明け渡すようなものだよ。他人にべらべら教えるべきじゃない」
Through my work with colleagues from different countries, I thought I had a good understanding of diversity in backgrounds and perspectives. But realizing that, in today’s world, people are often jud -
Posted by ブクログ
正直に言うと読みやすい。そして誰が話してるかわからない。しかしこれこそが本題な気がする。
我々から見た時異国の方々は個人としてよりも方々として見てしまう。例えばどっかのお国の方がこっちの国の人をやっち待った場合、どっかの国の人怖ええってなるわけ。けどこっちの国の人間がこっちの国の人間をいかようにして残酷なふりかけにしようと、こっちの国怖ええとはならず こいつ怖えってなるわけ。つまり個人として見れるか見れないかの話だ。たしか芥川賞…そう。その芥川賞の
デートピアを読んだ時から思っていたけど差別を許さないって感じがすごく伝わるフレーズがあるんだけれど、そんなことこちとら微塵思ってなくて、差別するな -
Posted by ブクログ
結論、私は好き。カオスとは、今の時代の鏡写しだ。
留学先で出会った友人達…アジアで生まれアメリカで学生時代を過ごした友人達を思い出した。彼らの会話はどこかこの小説に似ている。恋愛やらバイトやらについて話すのと同じトーンで、ビザや移民の問題、アイデンティティ、ナショナリティについて、国内外の政治問題について流れるようにカジュアルに話すのだ。彼らにとってそれらは全部一続きだ。アメリカでマイノリティとして生きていく苦しさを日々感じながら、自国から遥か遠い地で成功を掴み取りに行くと決めたその姿勢が、自然にこの思考を生んでいるのだと、私は思っている。
対して、私はどうだろう?秩序の中で生き、特別問題 -
Posted by ブクログ
怒りは屈折する。
人に降りかかった苦痛は、やがて怒りへと変わる。怒りは憎悪の対象を見つけ出し、暴力を加えることを許可する。私たちが生きる社会では怒りと暴力がはびこっている。憎悪の対象に暴力を振るう「青い」多数派を批判的に見ていた「赤い」自分自身でさえも、他の誰かの憎悪の対象にされる。やがて受け付けきれず、あふれた苦痛は怒りへと変わり自身も「青い」存在へと変わる。
〈イエロー〉から見た〈ブラック〉の人間。
〈単一の男〉から見たホモの男。
ヘテロからホモへ、ホモからホモへのアウティングという暗黙の暴力。
普段は目に見えない憎悪は、まるで〈やりたい〉から〈邪魔〉へと簡単にコマンドが切り替わるか