あらすじ
〈怒りは屈折する〉。――都内のクルージングスポットで26歳の男が暴行された姿で発見される。事件の背後に浮かびあがる”迷彩色の男”を描いた、最注目作家の第二作。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ジャクソン一人、に続いてミックスのゲイの男性が主人公。こんな店が本当にあるの?と想像や知識の範疇を超えるストーリーラインではあるが、カミングアウトしていない職場で、事件をきっかけに一気に(その店に行っていたことまで含めて)知られてしまうかもという恐怖の日々が切実で、こういう気持ちで過ごしている人がきっと少なからずいるんだろうなあと悲しい気持ちになった。
レストランの場面も然り。海外ではよく見るが、日本では公の場でゲイカップルとして振る舞うとこういう視線を浴びているのかも。カミングアウトして生きることがヘイトクライムの対象になるという代償を伴うという恐れ。海外だって同じように陰で言う人は言うし、ヘイトスピーチとかクライムという点では変わらないのだろうなあ。
それにしても、まだ2冊しか読んでいないが、どぎつい事件性を抜きにして書いてもらえるともう少し読みやすいんだが…実際に、出会いの場を求めると、そんな危険と背中合わせ、みたいな世界とセットにならざるを得ないのか。そういう世界を紹介してくれたことが受賞のきっかけでもあるのかなあ。先日ラジオのインタビューで聞いた作者の声がとても穏やかで、インタビュアーを立てるような謙虚さだったのだが、そこが職場のジャクソンやこの作品の主人公と重なるところもあり、安堂さん自身の抱える別世界みたいなものまで含めて面白いのかもしれない。
Posted by ブクログ
男性の夜の社交場であるクルージングスポットについて知ったのは、これが初めてだった。この刺激的な場所で、いぶきは何者かに殺される?のだが、犯人は?動機は?と何もかもよくわからないままスリリングに話が進行する。
終盤、犯人と思われる男に出会し、新しく交際した彼とこの男は、私に刃物で刺される。これは、いぶきへの復讐だったのだろうか?
このストーリーどういう内容だったのか今一つわからず、もやっとしたまま。
Posted by ブクログ
居心地の悪い空間に無理矢理入れられた時の感覚が鋭く刺さる本だった。心地よいものは常に人を退廃させるのだが,本作はちょうど真反対にある感じがする。
Posted by ブクログ
新しいことをしようとする気概は感じた。またストーリーの運ばせ方にも、抽象的な描写の多様で作家の特徴性を感じた。
個人的にはラストがどうにもしっくりこない。ザ・日本の純文学的な終わらせ方には、それまでの文体とは違った固定概念のようなものを読み取った。
Posted by ブクログ
怒りは屈折する。
人に降りかかった苦痛は、やがて怒りへと変わる。怒りは憎悪の対象を見つけ出し、暴力を加えることを許可する。私たちが生きる社会では怒りと暴力がはびこっている。憎悪の対象に暴力を振るう「青い」多数派を批判的に見ていた「赤い」自分自身でさえも、他の誰かの憎悪の対象にされる。やがて受け付けきれず、あふれた苦痛は怒りへと変わり自身も「青い」存在へと変わる。
〈イエロー〉から見た〈ブラック〉の人間。
〈単一の男〉から見たホモの男。
ヘテロからホモへ、ホモからホモへのアウティングという暗黙の暴力。
普段は目に見えない憎悪は、まるで〈やりたい〉から〈邪魔〉へと簡単にコマンドが切り替わるかのように、小さなきっかけで露呈される。
ヘイトクライムや差別問題に切り込み、読者に「赤い」自身を追体験させる批判的かつリベラル派な小説だと感じました。短く簡潔な文ながら、その一つ一つの言葉に複数の意味を持たせ、切れ目なく続く物語構成も印象的でした。
Posted by ブクログ
ゲイ向けのクルージングスポットで若者が刺され重傷を負う。主人公はその若者、いぶきと知人であり肉体関係にあった。主人公は同じ場所で別の男と出会い関係を深めていくが、男は次第に他者への暴力性を顕にするようになり、主人公はいぶきを刺したのも彼であると確信を抱くようになる。後半で男が将棋倒しを扇動するシーンが怖い。NPCとあだ名される主人公が終盤の行動に踏み切ったのはいぶきのこともあるけど犯行が続くのを止めようとしたのもあるんじゃないかと思った。巻き込まれた見知らぬ男性は気の毒だけども…
Posted by ブクログ
色が見えてくるような表現、短い文章をたたみかけるような文体が印象的でした。かっこいい。性的指向や人種のミックス。マジョリティからのレッテル貼りと、それを逆に利用している主人公。アパートの郵便受けからいつも誰かに覗かれているような感覚。視覚的な印象に残るシーンが多かったです。
Posted by ブクログ
前作もだったけど読解が難しく何度もページを遡った。自分の読解力では難しかった。でもつまらない、自分には合わないとはならず、わかるまでもう一度読んでみようと思わせる作品だった。細部は難しくでも物語全体の雰囲気がいいのだ。
Posted by ブクログ
強烈な作品である。トラウマのように記憶に残りそうだ。ホモセクシャルで日本人と黒人のミックスである“私”は、ゲイが集まって乱交する店で、“私”の恋人であるいぶき(日本人と黒人のミックス)と楽しんでいる。いぶきは店で客に襲われ瀕死となる。なかなか表に出せないシチュエーションであり、“私”がクローズドな世界でいぶきの復讐をするのが、暗くて湿っぽくて臭くてドロドロしている。作者の詩のような文体は綺麗なのだが、世界観を色でたとえるなら汚れた黒である。世の中の闇を描いた感じは芥川賞候補にふさわしい。
Posted by ブクログ
よくわからない!オチも自分が殺して配信したってことなのか???読解力の無さが悲しくなった。いつか再読したいな〜〜
新宿三丁目を深夜1人で歩いていた時に恐怖を感じた感覚に近い。そこから一段階段を降りて覗いているよう感覚がする。
Posted by ブクログ
小野講堂の対談に向けて。ページを繰る手が止まらず2時間ぐらいで読んでしまった。自分と他人、愛と憎悪、地上と地下、「仲間」と「恋人」、青と赤…様々な2つの言葉が並べられ、その概念同士の境界はひどく曖昧に描かれる。短い段落が淡々と繋げられながらも、映画的な視覚情報が丁寧に書き起こされた言葉の連なりには、何もかもが不確かな語り手が確かに持つニュアンスが散りばめられてはいる。が、決定的なことは霞がかっている。語り口には浮遊感をかんじることもあれば、水中に深く沈んでいくような感覚を覚えることもある…。繰り返し登場する青色の空間は、バリー・ジェンキンスの『ムーンライト』を想起するし、スリラーとしての見せ方にはアラン・ギロディーみを感じた。対談後にまた読み直したい。
Posted by ブクログ
文章なのに色彩のコントラストがすごい。
全作みたいに主人公と被害者と加害者と無関係な人が最後にはみんな混ざって一つの感情の塊の様になってストーリーは分かりやすくはないけれどおもしろかった。
この色彩感と独特の雰囲気は唯一無二。
Posted by ブクログ
170回芥川賞候補作
安藤ホセさんの『迷彩色の男』
ブラックミックス、ホモセクシャル、そしてヘイトクライムの事、自分がそうではないからと言って、理解出来ない事は無いと感じさせてくれる、更にそんな人々の事も理解して欲しいと訴えてくる作品だったと思います。
共感は出来ないけど、理解する事は出来る。
そもそも、我が国日本は、弥次さん喜多さんの物語、東海道中膝栗毛の頃より性に対して大らかな国民性なのだから・・・
などとも思ってしまいました。
Posted by ブクログ
自分は性的マイノリティの差別主義ではないと思っていても、誰しも心の奥底に大なり小なり色々な事に差別や偏見が隠れている。そんな自分を自覚して、認める。昭和の私はアップデートしていかないと、無自覚に人を傷つけているかも。
乾いた文章だけど、お店の雰囲気や主人公のバレないかという焦燥感、ラストの現場が鮮やかに伝わってきた。
Posted by ブクログ
性におけるマイノリティであること、人種におけるアイデンティティの揺らぎなど複合的な要素がセルフスティグマとなり、こんがらがっているのか。文体が読みにくく、何か引っ掛かってしまう所はあるが、現代的な語彙力で固い文体にアクセントを効かせ読ませる力がある。作中描写される
色彩とむせかえるような匂いの中、物語に引き込まれ、現実を忘れた。読後の後味は決して良いものではないが、しばらくは残っていく痣を残したのは確かだ。
Posted by ブクログ
モノクロの文章から暗闇に色彩が浮かび上がるようだった。セクシュアルマイノリティを題材にした小説はいくつか読んできたが、そのどれとも似つかないインパクトだった。
Posted by ブクログ
前作も今作も芥川賞候補。今回もブラック ミックスの肌を持ち ホモセクシャルな青年が遭遇する猟奇的な事件とその顛末。読む人を限定しているような作品。 日本人の女性でノンケの私には作者の言いたいことの 十分の1もわかってあげられないのかもしれない。
でも本が好きで、あらゆる本に興味を持っている読書人なら、彼の世界の(日本人生まれでブラックミックスの肌を持つホモセクシャルな青年の)視点や、湾曲したヘイトクライム)のニュアンスを知るには良い機会となる作品だと思う。R指定のような内容だが、淡々とした筆致に救われる。
Posted by ブクログ
何を伝えたいのかよくわからなかった。
虚しさなのか、悲しみなのか
怒りなのか、憤りなのか…
表現がくどくて難しすぎたけど
でも、最後まで
読ませてしまう力みたいなものは感じた。
Posted by ブクログ
著者の前作「ジャクソンひとり」のときのような読んでいる間の爽快感はないが、世界を知らない自分にとって、新しい世界を垣間見れたような気分。
クルージングスポットで、男たちが互いに品定めし、気に入れば個室でセックスする。
そんな場所があるのだろうか。
それが異性の組み合わせだったら卑猥と思うのに、男同士だとあまり卑猥に思わない私の感性はいかがなものか。
主人公は肌の色が黒く、いぶきも同じく黒い。2人が一緒にいると、目をひくだろうと思う。なぜ日本人の一部の人はブラックという言葉を使うのだろう。彼らの方が目鼻立ちもはっきりしており、手脚も長く、外見的に優れていると思うのだが。
主人公は職場では「NPC」と言われている。職場の者たちが彼がクルージングスポットで遊び、包丁を購入して…という私生活を知ったら、もう「NPC」と呼べないだろうと勝手に想像し、気持ちが良くなった。