安堂ホセのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ何とも形容しがたい物語だ。
登場人物の世界があまりにも私の世界とかけ離れていて、想像の埒外にある。出来事や感情に対して共感が全くできない。それでもリズミカルに繰り出される展開に心がざわざわさせられて読者を離さない。
それでもある場面には思考が掻き立てられた。本作の主要人物であるモモとキースがしたある行いに対して、モモの父親がキースを糾弾するところである。どうもこの父親表層的には理解のある良い父親であるようだ。しかし、彼の発言から人間の生々しさがなく無機質な印象がどんどん募っていく。子を育て守ることは「義務」であり、国の定める基準から外れるよう唆すことは「暴力」と定義づける。その発言や態度にモモとキースは徐々に白けていく姿が描かれる。
この父親の気持ちにある程度共感してしまう自分がいる。我が子を愛する気持ちっていう曖昧なものを拠り所に子どもを大切することを疑問に思う。常にではないが、自分の感情の乏しさに不安になりときもある。そんな時、外部が定めた基準に則って行動するほうが内面から湧き出ることを期待され強要されるものより、いくらか安心する。
本作から私が読み取れたのは人間における根本的な分かり合えなさである。私たちは自分や他人を理解するために、さまざまな定義や言葉を用いる。しかし、本来自分を理解し許しとなるはずの定義や言葉が、反対に自分を糾弾し周縁化させるものにもなりうる。そのアンバランスのなかで苦悩し、他者と反発しあう存在であることに対する些細な、それでいて苛烈な抵抗の物語である。
本作はジェンダー、人種差別や戦争といった現代浮かび上がっている重要な問題が次々と飛び出してくる。
盛り込まれるテーマが多様でバイオレンスな話が続くので気軽には読み進められない。しかし、本作が放つままらななさへの抵抗の軌跡を、ぜひ味わってもらいたい。 -
Posted by ブクログ
面白い、すごく引力をもった作品。
「モモ」の視点から「おまえ」=キースに向けた語りのような形で淡々と物語が進んでいく。「おまえは〇〇をして、〇〇だった」みたいな語り口がかなり特殊だな、と最初は思っていたけど、この物語を「だれかの主観」から語ることは難しいからかな、と思った。ある意味で視点はモモでもないと思う。
自分の欲望が誰かの暴力になる、という状態に対して、「域」を設定する、というキースの信条は面白いと思った。朝井リョウ「正欲」でも似たようなテーマがあったなと思う。
物語がずっと淡々としていてそこが魅力だなと思った。
恋愛リアリティショーの出演者を視聴者が世界の部品として扱う表現として、「Mr.東京」とかは秀逸だと思う。 -
Posted by ブクログ
【どんな方におすすめ?】
ひどく平和ボケしている人。
普段「暴力」について考える機会がない人。
【感想】
前作(迷彩色の男)で、言葉の数は有限なのに、言葉で紡ぎだされる世界は無限なんだと知らされて、今回も読んでいて本当にワクワクした。この言葉とこの言葉を一緒に使うんだ~、ドッキングするんだ~って感じ。
【好きな場面】
渋谷の道玄坂(82ページ以降の描写)。
こういう裏の場所を実際に知らないとこういう場所を書けないと思うんだけど、現実とフィクションが絶妙に絡み合っていて、まるで私もこの世界にいるかのような、知っているかのようなバランスが絶妙にいい。
今回読んでいるにあたって、ご本人のアイデンティティはどんなものかなと調べてみたけど、どうやら非公表のよう。でも外見や小説本編の毒性の高さから察するに、つまり「白人性の糾弾」や「黒人を悲劇のキーワードに利用する(黒人の男に捨てられた+子どもも黒人→悲劇として利用したLUV奈。)」を扱っているところから、むかしから肌の色や人種というものに対峙してきた方なんだなと思った。
とにかく私は平和ボケをしていて、世界のことなんてまともに知ろうとしていない人間なんだと思い知らされた。また1年後に読んで、次はどんな感想を持つか知りたいので、評価は星5とした。
【私には分からなかったところ】
「モモ」が自分のことを一人称としても「モモ」と使っているところ。私はその文章を読んだとき(49ページ)、自分のことを自分の名前で呼ぶのは子どもっぽいなあと思っていた。しかし本作のインタビューで、ノンバイナリーのインタビュアーの方がこの部分に共感されていたので、そういう世界があるのだと知った。そういう方からしたら、世の中の小説はどのように見えているのだろう。今度どなたかにお聞きしたい。
【その他 印象に残ったところ】
・私はどうやら自分の中の「普通」を揺さぶってくる作品が好きなようだ。
今回も「おまえ」と主人公は最初から言っていて、てっきり主人公は男だと思っていた。「おまえ」は公で使うなら「男」という通説がある。女性が使うと「品の悪い女性」となる。しかし、「ギャル・クルーズ」で主人公が現れる「女だったのかー」と仰天した。と思えば次の瞬間、睾丸を摘出されたということで主人公は男であることを知り、また仰天した。
・父親の国、物々交換の国、拷問の国。
・毒性が高いところから金原ひとみを連想し、この世には言語化できないことや感情はないところから三木三奈を連想した。 -
Posted by ブクログ
自分が言いたいことを言えるように読書を始めたけど、本作は、世の中に自分の知らない世界(同性愛者同士がまぐわう場所)があることを教えてくれたし、きっとストレートの人には表現できない感覚の描写がもう新鮮で、あっという間に読めた。描写に関しては、色や音の描写がリアルでそこが好きだ。
それにしても、ほかの作家と違うところは他に何だろうと考えてみたら、以下のことに突き当たった。
・いぶき以外の登場人物に名前がない(匿名性が高く、誰かにあてはまるかもしれない可能性を孕む)
・「男」と出てきたからといって次に出てきた「彼」と同一人物ではない。別人。これは男女の物語しか読んだことがなかったから起きてしまった混乱だ。
本書の他のレビューを読んでみたのだが、概して「読みにくい」という感想が多かった。もしかしたら上記二点が理由なのではないだろうか。
だから二番目に挙げた「男と彼の関係」によって、最後の、いぶきを殺した人物を殺すシーンは誰が何をしているのか理解するのに何回か読み直したけれど、それでも初めて読むクィア文学がこの作品で良かったと思っている。
ジャクソンひとりは、性描写が無理で途中で止めていたので、2作目のこちらももしその描写が酷いようだったら、私はこのまま安堂ホセという人物の書く小説を敬遠して過ごしていくのかなと思っていたが、そうならなくて良かった。むしろ何年かおきに再読して、自分の成長深化を測る作品としたいので、星5つにした。
その他に…
地下と地上に世界を分けているのが興味深い。蛇にピアスのDesire(シバさんが働いてるところ) を思い出した。地下=人目に触れちゃいけないところ。 -
Posted by ブクログ
「ひとり」の物語にしてはならない
今自信を持ってたくさんの人におすすめできる現代文学作家があるとするなら間違いなく、安藤ホセさんじゃないでしょうか。
今や芥川賞作家の安藤ホセですが、実は芥川賞を取る前からこの人の描く作品には何かあるんじゃないかと思っていました。ジャクソンひとりもそんな中の一つで、ゲイを推しているだとか人種問題がどうと紹介には書いてはないけれど何かあると自分自身ゲイであるところから唯ならぬ匂いを感じてきました。
デビュー作ということもあり読んでみた感想はといえば、この人は読み継がれるのではと思うくらいに鮮明で新しい、文学作品として完成したものに近いのではないかと。朝井リョウや村田沙耶香が好きな人は気にいるとは思いますが、インパクトが一味違うといいますか、大衆向けに書いているとは思えない尖り方をしてならないですね。まるで特定の誰かに向けて書いているようなそんな作品でした。
素人の僕が語るのもおこがましいと思えるくらいに格が違うと考えます。 -
Posted by ブクログ
ジャクソン一人、に続いてミックスのゲイの男性が主人公。こんな店が本当にあるの?と想像や知識の範疇を超えるストーリーラインではあるが、カミングアウトしていない職場で、事件をきっかけに一気に(その店に行っていたことまで含めて)知られてしまうかもという恐怖の日々が切実で、こういう気持ちで過ごしている人がきっと少なからずいるんだろうなあと悲しい気持ちになった。
レストランの場面も然り。海外ではよく見るが、日本では公の場でゲイカップルとして振る舞うとこういう視線を浴びているのかも。カミングアウトして生きることがヘイトクライムの対象になるという代償を伴うという恐れ。海外だって同じように陰で言う人は言うし、ヘイトスピーチとかクライムという点では変わらないのだろうなあ。
それにしても、まだ2冊しか読んでいないが、どぎつい事件性を抜きにして書いてもらえるともう少し読みやすいんだが…実際に、出会いの場を求めると、そんな危険と背中合わせ、みたいな世界とセットにならざるを得ないのか。そういう世界を紹介してくれたことが受賞のきっかけでもあるのかなあ。先日ラジオのインタビューで聞いた作者の声がとても穏やかで、インタビュアーを立てるような謙虚さだったのだが、そこが職場のジャクソンやこの作品の主人公と重なるところもあり、安堂さん自身の抱える別世界みたいなものまで含めて面白いのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分が実際に踏み入れたことのない世界、だけど確実に存在する世界を垣間見たような作品だった。
最初は慣れない異質さに読みづらさを感じたが、中盤からはテンポよくどんどん読めて、面白かった。4人の登場人物らが結託して彼らが過去に受けた嫌がらせのリベンジしていく場面は爽快だった。
数年前に、ブラックミックスの人と付き合ったことがある。どんなに物理的距離を縮めても払拭されなかった、彼との間に感じた心の隔たり。黒人ハーフとして日本で生まれ育つ彼にしかわからない苦しみや孤独感。その断片を感じ取ることはできても、彼らの背負っているものを完全に理解する事は一生できないのかもしれないと思うと悲しさも覚える。
身近に当事者がいない人にとっては想像と共感がしずらいかもしれないが、そう言う人にこそ読んでほしいとも思う。