サラ・ピンスカーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
最高に面白いSF短編集でした。
出版区というYouTubeチャンネルにて、池澤春菜先生がご紹介をされていた本。
そこでは「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」という作品について話されており、その内容は
ある日、「サラ・ピンスカーが研究者となった平行世界」にてサラ・ピンスカーが発明した、他の平行世界のサラ・ピンスカーを呼び出す装置により、様々なサラ・ピンスカーがひとつのホテルに招待される。結婚して苗字が変わったサラから性別を変えたサラ、とにかく数多くのサラ・ピンスカーが集まる中、一人のサラ・ピンスカーが殺されてしまう。容疑者はたくさんのサラ・ピンスカー。主人公はこの短編集を書いているサラ・ピンスカーではなく探偵のサラ・ピンスカー。
そんな紹介を聞いてしまったらミステリー好きは読まないわけにはいかないと。
しかしこの短編集、全部が良かった。めちゃくちゃ面白かった。
SFも最近嗜むようになったのもあるけど、それにしたって読みやすい。
科学の専門用語がたくさん並んでいるとか、平行世界とか難しいこと書いてるとか、そういうことは全く感じずに
ちょっと人類がスマホを使えるようになったよね、それくらい便利なもっと凄い技術が将来うまれてもおかしくないよね、くらいの感覚だったりとか
Vチューバーさんとかたくさんいるし、VRでゲームできるようになったよね、とか
大災害っていつ起きてもおかしくないよね、その時に宇宙に逃げるって選択肢が身近にあってもおかしくないよね、とかの
少し先をいった現実の中だからかもしれない。
その中でやっぱり人間関係ってこうだよね、気持ちってこうなるよね、若い子って反発するし年寄りは懐古にとらわれるし頭が固い。恋愛するし友情も仲間もあるし自分自身を見つめ直すし。
爽やかさも希望もある作品ばかりでとても心が落ち着く時間が過ごせました。
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Posted by ブクログ
なんて言うか、もう、10冊分くらい読んだようなエネルギーを使いましたし、そのくらいの満足感に満ち満ちた読書でありました。
13篇収録。
話それぞれにみんな違ってみんな良い、想像力をフル稼働させないとあっという間に置いてけぼりにされそうな、とにかくひとつひとつの話にギュムッと想像の海が押し固められていて、その寒天状の海を分け入って分け入って、どうにかようやく理解が追いついた時にパァッと視界が開けるような、繰り返してばっかりですが、とにかく密度が高い一冊でありました。
以下、13篇全部の感想を書きたいのですが私の不徳の致すところ、ピックアップして記載致します。
《一筋に伸びる二車線のハイウェイ》…農場で働く21歳の〈アンディ〉は不慮の事故で右腕を喪ってしまう。目が覚めたときには、彼の腕は「ロボットアームで、頭にはインプラントが埋め込まれていた。」(p8)。痛みと発熱に耐えた後に彼が視たのは「自分の腕がハイウェイだという夢」(p13)だった。「アンディは道路になりたがっていた、というか、彼の右腕がなりたがっていた。」(同)のだ。どうです、訳わからんでしょう。そんな「道の手」(p16)と同居することになったアンディが過ごした青春のひととき。
これが出会い頭の一篇目ですよ。
《そしてわれらは暗闇の中》…捉えどころが少ない話。「夢のベビー」(p28ほか)、ひいては「わたしたちのベビー」(p36)を追い求めて海岸へ集まって来て「岩の上の子供たち」(p33)を見つめる人々。マスコミなどの好奇の目に晒されても飢えても屈せず、ただただ海の向こうに目をやる人々。〈わたし〉を含めたこれらの人々は、おそらく同性愛者のカップルであったり不妊に悩む夫婦であったり、何らかの事情で子宝と縁が結べないでいる人達であろうと推察できる。子どもを持ちたくても叶わない、そんな遣り場のない懊悩はまさしく闇の向こうを睨むかのよう。他者からすれば「集団幻覚」(p36)と映るかもしれないが、当事者からすればとにかく必死で懸命で、雑音に耳を傾けているゆとりなどない。
《深淵をあとに歓喜して》…老夫婦のあゆみと、増築だらけのツリーハウスが垣間見せる家族の断景。建築家として大成する事を志した夫が若かりし頃に子ども達の為にこさえた「蛍のようにちらちらと光る」(p148)ツリーハウスはまさに老いと共に薄れゆく記憶の象徴、そして諦めざるを得なかった夢を標する灯台のよう。夫が軍に属していた頃に設計した建物は人々が生き生きと暮らす街並みではなく、人を押し込めて望みを奪い去る「刑務所みたいなもの」(p145)だった。以来、固まってしまった夫の心をほぐしたのは妻が重ねた手だった。
《イッカク》…個人的に一番好きな話。疾走感と不思議。「クジラのシルバーブルーのボディはファイバーグラスのようだった。ステーションワゴンのシャーシに載っているらしく、幅広な後部から尾が弧を描いてはね上がっている。」(p331)とある通り、例えとかでなく本当にクジラの見た目の車に乗った、ヨガインストラクター風の女〈ダリア〉に助手として雇われたわたし〈リネット〉。女ふたりの奇妙な旅は目的もよくわからないまま、寂れた小さな町へ辿り着く。その町の博物館に展示されているジオラマにはなんとあのクジラの車が…!全体的に気怠い感じが漂いつつもどこかコミカルな一篇。ボタンを押したら車からツノが生えてきてイッカクになるシーンは笑っちゃった。読み返せどよくわからん、妙ちきりんな話。「事件」とはなんなのか。
拡がるイマジネーションの中へ。
これ以上難解だといよいよもって疲労と不完全燃焼感しか残らない気がするので、心地よい塩梅の作品集でしたね。
3刷
2024.10.24 -
Posted by ブクログ
ネタバレ好きなYouTuberさんが「海外SF」として紹介していて、表紙も素敵だったので読んでみた。
作者がまさかのシンガーソングライター。音楽の話が多数あって嬉しかった。ラッキー。
1話目はなんだか気持ち悪かったけど、2話目からは大体ずっと好きな世界観だった。
そしてわれらは暗闇の中
記憶が戻る日
いずれすべては海の中に
深淵をあとに歓喜して
孤独な船乗りはだれ一人
風はさまよう
オープン・ロードの聖母様
イッカク
そして(Nマイナス1)人しかいなくなった
が良かった。(ね、本当に大体全部でしょ。)
すごく引き込まれて「で、どうなるの?どうなるの?」と思いながら最後まで読むと、これといって明確なオチがなくて、「…それで?」みたいな作品が多い印象。しかしそういう余白のあるラストは好みだし、そもそもラストまで引き込んでる時点で面白い。
最後の「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」も犯人わからずじまいで終わるのかと思いきや、判明したのでスッキリした。
昔、奥田民生がインタビューで
「人生に分岐点がとか言うじゃないですか、あのときああしてればとか、いまこっちとこっちがあってどうしようかなとか。絶対どっちでもいいと思うんですよ、その人はどっちいっても同じだったと思うんですよ。」
「『どっちの料理ショー』ぐらいのもんなのよ、人生も。あれこれ考えてるけど、なんかおもしろいことがあったときは、そのことを忘れて楽しいわけじゃないですか。だからたいしたことない、そんなことで忘れるぐらいだからたいしたことない料理ショーなわけですよ。」
と言っていて、励まされたのを覚えている。
が、この話はこの発言を覆すものではないだろうか笑
でも、この話の馬の件みたいに、あの時自分がしなかった選択をした別の自分がちゃんといるのなら、それはそれでまぁいいか、と考えることもできる。
考えもしなかったことを考えるきっかけになるよね、SFって。
そして本当、よく思いつくよね、設定。尊敬だわ。
根っからの音楽ファンなので音楽系の話は特に好き。「オープン・ロードの聖母様」はライブ行きたくなった。
「イッカク」誰か映像化してくんないかな。いいロードムービーになりそう。
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Posted by ブクログ
ネタバレ13編の短編が収められている。うち3編はやや長め。
ほとんどがSF的な設定となっているが、SFを全面に押し出すのではなく、SF的世界の中における人間の感情や生き方が描かれているという感じ。
丁寧に静かな文体で書かれていてじっくりと浸りながら読める。
特に後半の4編はそれなりの長さがあることもありテーマに深みのある力作でとてもよかった。
1. 一筋に伸びる二車線のハイウェイ
事故で腕を失い機械義手をつけるが内部のチップに使われているソフトウェアがコロラドのハイウェイで使われていたもののリサイクルだったため、自分の腕がハイウェイと一体化したように感じる。手術でチップを交換するが、ハイウェイの記憶は残っている。(19ページ)
2. そしてわれらは暗闇の中
自分には子供がいて育てたことがあるという夢をみる。夢の中の子供はいなくなるが現実に海から現れる。同じような夢を多くの人が共有している。子供たちは海で泳ぎ回っている。(現実に現れたこの子供たちは何だ?)(14ページ)
3. 記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)
退役軍人たちは〈ベール〉によって強制的に戦争の記憶を隠されている。世界中の退役軍人なのでよほど大きい戦争だったのだろう。(もしかしたら地球外からの襲来かもしれない)年に一日だけ〈ベール〉が外され、退役軍人たちはパレードの後、〈ベール〉を継続するかどうかの投票をする。そして毎年大差で〈ベール〉を残すことになる。戦争に参加していない人々は戦争のことや軍人だった家族のことがよく分からないまま。(13ページ)
4. いずへすべては海の中に
何かわからないがおそらく地球規模の大災害が起きて、陸地は海に沈みつつあり、人が住めるエリアが減りつつあるらしい。大型船に避難してクルージングしながら生活している人々もいる。そんな船にエンターテイナーとして乗り込むことができたロックスターが、船上の人々に嫌気がさして小型ボートで逃げ出し、遭難したところを、ある女性に救助される。女性は行方不明になった妻を探しながら世捨て人のような生活をしていた。話の筋には関係なさそうだが、ジェンダーの問題が自然に含まれている。(34ページ)
5. 彼女の低いハム音
The Low Hum of Her
ナチスの迫害から逃げるユダヤ人を思わせる家族。祖母はすでに亡くなっているが父がアンドロイドのような祖母をこしらえ、主人公は当初拒否反応を示すが、次第に心を通い合わせていく。未来にも人種差別や迫害はなくならないという暗示だろうか。(12ページ)
6. 死者との対話
Talking with Dead People
殺人事件が起こった家の模型を作り、被害者やその周辺のネット情報を学習させたAIとそれを接続することで、家に話しかけることで被害者自身が事件の真相を語り始める装置ができた。解決する事件もあり、ビジネスは大成功した。しかし、何でも暴きたがる経営者と暴かれるべきではないものとの線引きを弁えている製作者の間に亀裂が生じた。模型は必要なのかという疑問は残る。AIとプライバシーの倫理に関する問題。(21ページ)
7. 時間流民のためのシュウェル・ホーム
The Sewell Home for the Temporally Displaced
最初はリモートビデオ通話をしているのかと思った。次に過去や未来が見えるヘッドセットか何かをしているのかと思った。実は時間の感覚を失うような病のようなものらしい。今が過去か未来か今か分からないし、過去が見えたりする。今起こってることがこれから起こるような気がする。ちょっと想像できない感覚。(5ページ)
8. 深淵をあとに歓喜して
In Joy, Knowing the Abyss Behind
脳梗塞の発作を起こして反応できなくなってからも手だけは無意識に動いて図面を描こうとする。それは誰かを閉じ込める目的で夫がかつて書かされた建物の図面。「軍」「国家の安全」などのキーワードから地球外からの訪問者がいるのではないかと想像されるが詳しくは書かれない。もちろん夫が明かさなかったからである。SF的な世界設定の中で、それに直接触れることのない人々の普通の営みが描かれている。
この話にもこそっとジェンダーが盛り込まれている。(35ページ)
9. 孤独な船乗りは誰一人
No Lonely Seafarer
SFではないがファンタージ要素を含む作品。入江から外海に船を出そうとする船乗りは皆セイレーンの歌を聴いて海に飛び込むかして死んでしまう。子どもなら大丈夫だろうと船長に連れられて船に乗った少年は実は両性具有であった。少年はセイレーンの歌に自らの歌を返しセイレーンに勝利する。んー、よくわからなかった。(27ページ)
10. 風はさまよう
Wind Will Rove
文化の継承と断絶の話。地球を離れた宇宙船の中ですでに4世代目を迎えている。1世代目もまだ残っている。初期にブラックアウトという事故(事件)が起きて、地球から持ってきた音楽、文学、芸術、歴史など文化に関するデータがすべて消えてしまった。覚えている人が物語を再現し、音楽は毎週演奏会を開くことで演奏者のタッチを継承しようとしている。しかし、新たな惑星で新しい人生を切り開くことを目指す若い世代たちは、過去の地球の歴史には価値を見出していない。断絶が起きようとしている。(62ページ)
11. オープン・ロードの聖母様
Our Lady of the Open Road
自動運転車やモビル通信網は発達している一方で公共交通や産業が破綻している社会。人々は自宅で過ごすか自動運転車で点から点へ移動することがほとんどになっている感じ。当然リアルなコンサートはあまり開催されず、自宅や酒場でホログラムコンサートを鑑賞することが主流になっている。そんな中、手動運転によるバンでツアーをしながら各地で小さなライブを行うことにこだわるバンドの話。少数だがちゃんと観客もついている。トラブルだらけだが意地でもリアルなライブにこだわる。(59ページ)
12. イッカク
The Narwhal
なぜかクジラの形をしたトラックに乗って旅をすることになる。田舎町を走るただのロードノベルか?と思って読んでいると後半に意外なSF的展開が待ち受けている。ある田舎町の映画館が何らかのモンスターに襲われたときにこのクジラ型トラックが空を飛んでモンスターを撃退したらしい。改めて読み直すと序盤で有人が読んでいる新聞の一面にはヒーローがニューヨークを救ったような見出しが書かれている。そう、これはスーパーヒーローとモンスターがいる世界の話し。そしてこの物語は、映画化されたような事件の裏で起こっていた、スポットライトが当たらなかった事件の物語。(33ページ)
13. そして(Nマイナス1)人しかいなくなった
And Then There Were (N - One)
並行世界にいる自分の一人が並行世界を行き来するドアを発見し、たくさんの自分を呼び寄せてパーティを開催する。しかし発見者の世界では大きな災害が起こっていて、災害が起こっていない別の世界の自分を殺して入れ替わろうとする。パーティに招待された主人公はすべてを知る立場となり、発見者を告発するか見逃すか悩む。(79ページ) -
Posted by ブクログ
SFってやっぱ面白い、と思わせてくれる16編と盛りだくさんの短編集。文庫も物価高騰のあおりを受けてこんなに高くなったか・・・と思いつつ買ったが、元は取れたと思う。
どの作品も味わい深いのだが、意識を持ったAIは物理的につながりさえできれば、ハード(シャーシ)を乗り換えていけるって設定が興味深い。人間が求めてやまない不死不老をAIなら実現できるという夢。
究極は「罪喰い」の世界で、人間はみな仮想空間(天国)に旅立ち、荒廃した地上にはロボットだけが残る。遺していく記憶を選べるってとこが業だ。
一方で、製品が成長したり、メンターがいたり、ロボット同士のいじめがあったりって世界の作品もあって、自意識を持つようになって社会のなかで生きていこうとすると、AIも人間も変わらないのはそうだよなと思う。
生存権をはじめAIの権利が認められる日が来るのだろうか? -
Posted by ブクログ
朝焼けを迎える宙なのか、それとも夕暮れに向かう海なのか、淡い彩色の装丁に包まれた物語の世界に浸ると空気の組成が少し変わり始める。忍び込んだ異質な空気が肺を満たすとき、追憶の中の未来- 辿り着くことのない、いつかどこか ーがゆらゆらと立ちのぼってくる。
それは旅先で目にした知らないはずの風景に感じる懐かしさと、それと同時に決してその風景に含まれることはない哀しみにも似て、心をさざなみが通り過ぎていく。
失われたものへの哀惜と失ったものを語るときの優しさが、“今”を生きる真っ直ぐな力強さと溶け合って余韻を残す、美しい作品が集められた短編集だった。
『一筋に伸びる二車線のハイウェイ』
オートメーション化された大規模農場の傍らでオールドスタイルな農園を営むアンディは農機具の事故で片腕を失う。義手として最新鋭のロボットアームが取り付けられたのち、腕は、自分は遥か遠くコロラドに伸びる全長九十七キロのアスファルト道だと訴えてくる。
テクノロジーとアイデンティティの危機という古くからのモチーフを用いながら、ここでは生物/機械という断絶を超えて、アンディが夢見る腕に共感していく様子が描かれている。
道はー腕はー目的地を目指して移動する車を見送りながら、同じ場所に留まり続けている。山までずっと見通せるが辿り着かないハイウェイであることに満足している。
アンディもまた、恋人が大学へ行くのを見送り、故郷の小さな町の農場で暮らすことを選択する人間だ。結局のところアンディと道は、存在こそ違え似た魂を持っているのだ。
アンディが恋人のために入れたタトゥーの文字を書き換えるシーンが好きだ。
『オープン・ロードの聖母様』
オンボロバンでツアーを回る中年の女性パンクロッカー。時代が変わっても気骨と信念で吠える。ライブシーンの熱さ!
“私たちは音楽だ。進みつづける“ 最高。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ普段あんまりSFは読まないんだけど、これはかなり好き。最初の「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」から、突然の事故で付けることになったハイテク義手が「自分は道路だ」と脳内で主張してくる…という突拍子もない調子で始まり面白いし、オチが秀逸。
「深淵をあとに歓喜して」の老夫婦の看取りの話も良かったし、「風はさまよう」の、人間と地球が何のかかわりもなくなったら、歴史とは、音楽とはいったいどういうもので、何の意味を持つのか、という重い問いかけに突っ込んでいくのもすごかった。それぞれの短編で設定は全部違うし今の現実とは乖離しているけど、出てくる人間の感情や行動に手でさわれるようなリアリティがあるから面白くなるんだろうな、と思う。この人の作品をもっと読みたくなる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ12作品の短編集。ホラー要素もファンタジー要素もありながら、ディストピアなSFもあって不思議な読み心地だった。
「二つの真実と一つの嘘」は怖かった。不気味なお話をするアンクル・ボブは一体何者なのか。虚言癖のある主人公を信用することもできず、何が本当のことなのかが分からなくなっていって引き込まれた。
「われらの旗はまだそこに」「今日はすべてが休業してる」「ケアリング・シーズンズからの脱走」は、読んでいて心をかき乱された。求められる愛国心、住民同士で監視し合う社会、主権を奪われた登場人物たちを見ていると、他人事には思えない。出来事の一つひとつがとてもリアルに感じられる。どれも絶望のなかでひと筋の希望があることが救いだった。希望がないと人間は生きられない。 -
Posted by ブクログ
奇想幻想、不気味、SF、ファンタジー、モキュメンタリーなど、それぞれ毛色は違いながらも、その結末には登場人物たちの芯の通った意志や決意に触れられる。そんな短編集だった。
全体的に話は暗めかも。私は好きな雰囲気や設定だった。いくつかの話に見られる、強者や社会に対して、虐げられし者が抗い闘う展開には胸が打たれた。
どの話も素晴らしいが、冒頭に据えられた、不気味で魅力的な「二つの真実と一つの嘘」、「われらの旗はまだそこに」、「わたしのためにこれを覚えていて」、「オークの心臓集まるところ」が特に好き。
以下もくじ。
二つの真実と一つの嘘
われらの旗はまだそこに
ぼくにはよく、騒音の只中に音楽が聞こえる
宮廷魔術師
今日はすべてが休業してる
センチュリーはそのままにしておいた
ケアリング・シーズンズからの脱走
もっといい言い方
わたしのためにこれを覚えていて
山々が彼の冠
オークの心臓集まるところ
科学的事実! -
Posted by ブクログ
サラ・ピンスカーの短編・中編、全13編。これはジャケ買いしました〜
寝る前に少しずつ読んでいたのですが、起きると「…はて?…」となってほぼ毎回読み返してました。
全体的に淡々としていて、すごく突飛な事もあるんだけどそれも含めてやっぱり静かに進んでいくというか。どれもゆっくり旅をしてるみたいな…その世界がどんなふうなのかを探り探り読んだのが、寝る前にピッタリだったかも。
…と思いきや、最後に「そして(nマイナス1)人しかいなくなった」は、ここへきて急に目がバッチリ覚めるようなミステリ。すごいこと思いつくなぁ、この状況だからこその犯人の動機には妙に納得。
著者がミュージシャンでもあるそうで、音楽がからんでいる物語が多かったのもいいですね。
お気に入りは「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」「いずれすべては海の中に」「風はさまよう」「イッカク」(コレ大好き)そしてなんといっても「そして(nマイナス1)人しかいなくなった」です。 -
Posted by ブクログ
フィリップ・K・ディック賞受賞作。SFは作者によって設定や世界観が似かよってくるように思うのだけれど、サラ・ピンスカーはとにかく引き出しが多い!一篇一篇の設定がフレッシュで、また一篇の世界観が浮かび上がってくるのに時間をかけるのがすごい。
表題作は「いずれすべては海の中に沈むことについて、けれどいくつかのものがまた這い上がってきて、新しいものに変わることについて。」という一文で終わる。多彩な世界を展開しながらも、この短篇集全体には、この一文が通底しているように感じられるのがすばらしかった。あと、作者が絶対に音楽を愛する人だとわかるのもとても好ましい。