佐藤厚志のレビュー一覧
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佐藤厚志『荒地の家族』新潮文庫。
第168回芥川賞受賞作。
様々な形の別れや喪失を淡々と描きながら、読者に生きることの意味を問いかけるような生々しい小説だった。
自分の経験からすれば、死別よりも生き別れの方が悲しみと苦しみが深いように思う。本作の主人公である坂井祐治が会わせてもらえないことが解っているのに、何度も元妻の職場を訪ねて行くことも理解出来る。自分にもそういうことがあった。
また、この歳になってみると、自ら生命を断つことが如何に卑怯で家族や知人にどれほど迷惑を掛けるかよく解る。数年前に風の噂で、以前勤めていた会社で同じように出世を重ねていた同期が自殺したと聞いたが、不思議と心が -
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仙台の丸善(作者の元職場)で購入
→しかし、帰りの高速バスに置き忘れる・・・
妻の実家が物語の舞台でもある宮城県の亘理町で、何度も行ったことがあるので読みながら『あの辺かな』『この辺かなぁ』と思いながら読むことができました。
震災をテーマにする場合『再生』をテーマにするか『再生』でオチをつける物語が多く見受けられます。しかし解説で小川洋子も言ってるとおり本書に『再生』はありません・・・
一度壊れてしまっても再生する物もありますが、再生しない物もあります。
形の無いものは、あの日あの時『壊してしまった』と後から自覚する事はあっても、その時に『壊した』という自覚は無いものです。
自分だけの物を -
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ネタバレ物語の内容は、小学3年生の主人公蓮が、多様な人々が住む団地で父母兄妹と暮らしながら、同じ小学校に通う上級生や同級生と日常生活を送る場面を描いたものと言える。
魔人とはいわば現実逃避のために蓮自身が生み出した「像」と言えるだろう。毎日家族で虐待を受け、持病を患いながら生活を過ごし、これまでにない人との関わりを持つ、これらは全て蓮にとっては通常では乗り越えられないものであり、だからこそ自分自身で魔人を生み出し、現実からあえて距離を取る方法を生み出したのだと思う。
だが、蓮は物語の終盤でそれを「神」のような存在(つまり、魔神)と勘違いしてしまう。だから、憎しみの対象である兄の公平に暴力を行使する -
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ネタバレアトピー故に幼少期からその見た目を非難され続けてきた凜さん。
両親ですらアトピーのことを気合が足りないせいと理解してもらえず、兄弟からもからかわれ育ち、現在凜さんは非正規雇用の書店員として働く日々。
癖の強すぎる書店の社員とパートたち。
入り組む男女関係にちょっとだけ巻き込まれたこと。
震災が起きて、書店の復旧まで、大変だったイベント。
全て肯定してくれるバーチャル彼氏。
凜さん、現実を一生懸命生きてる。
アトピーといえば、昔ディズニーランドでイッツアスモールワールドに並んでいるときだったか、
並びながら一緒に来ている友達としゃべっている男の人が、首筋をずっと掻いていて、赤くかさついた皮 -
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生まれつきの重度のアトピー性皮膚炎で幼い頃から家族にも同級生にも教師にも疎まれ、そんな周りの人のことも疎んでいる主人公の五十嵐凛。
大人になって、書店で契約社員として働き、日々同僚や上司との人間関係や困った客を相手に過ごしている。その最中に東日本大地震が起きる。店の片付けをする中で、あるいは営業を再開する中で垣間見える人間の本性。
まだライフラインも復旧しない中で営業を再開した書店に押しよせ、「なぜ新刊が手に入らないんだ!」と怒号を浴びせる客、「なぜこんな時に営業を再開するんだ!」というクレーム、チャリティーで訪れる歌手の対応に苦しむ書店員たちの姿に悲しみや諦め、憤りを感じるけれどこれがリアル -
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佐藤厚志、初読み。
『芥川賞』受賞作品。
40歳の植木職人・祐治。東日本大震災で仕事道具を失い、その2年後、妻・晴海を病気で亡くす。再婚し、妻・知加子との間に子どもを授かるも、生きて産まれてくることはなかった…そして、知加子は、祐治と啓太のもとを去る。
幼馴染・明夫は妻と娘を震災で亡くし、みずからはがんを患っていた…
元の生活に戻りたい…
が、戻れない…
その思いを打ち消すように、身を粉にして、働く祐治。
同じ時代なのに、なぜだか昭和三十年代のような感じを受ける。
白黒でしか言い表せないような、薄暗い世界が広がっている。
そんな中、息子・啓太のために懸命に働く祐治。思春期を迎えた啓太との関