佐藤厚志のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ジャスティスを日本語に訳すと、「正義」や「公正」とされ、本作の主人公の価値観に基づく正義や公正を貫き通す。健康体操など自らを厳しく律し、私生活から職場であるホテルマンとしても、自己価値に基づく判断を下し、管理者として部下や外国人労働者を厳しく指導する。ただし、主人公の「正義」な名のもとに正当化する独善的な判断は、強烈なハラスメントして上司や部下から忌避される。また、自己陶酔した価値観は妻への過干渉による人格否定となり、妻は木人化(木偶・でく)して、私生活にも支障を来す。鬱積(うっせき)した感情は、自宅の破壊活動を起こし、行きつけの本屋でのカスタマーハラスメントとして爆発し、鬱憤(うっぷん)を晴らすことで主人公の気持ちは落ち着くが、被害者である店員には最悪のシナリオが待ち受ける。社会や人間関係における正義と公正とは何か?本作では、悲喜こもごも考えさせられる作品であり、適正な倫理観なしにはジャスティスが成り立たないことを痛感した。
-
Posted by ブクログ
佐藤厚志『荒地の家族』新潮文庫。
第168回芥川賞受賞作。
様々な形の別れや喪失を淡々と描きながら、読者に生きることの意味を問いかけるような生々しい小説だった。
自分の経験からすれば、死別よりも生き別れの方が悲しみと苦しみが深いように思う。本作の主人公である坂井祐治が会わせてもらえないことが解っているのに、何度も元妻の職場を訪ねて行くことも理解出来る。自分にもそういうことがあった。
また、この歳になってみると、自ら生命を断つことが如何に卑怯で家族や知人にどれほど迷惑を掛けるかよく解る。数年前に風の噂で、以前勤めていた会社で同じように出世を重ねていた同期が自殺したと聞いたが、不思議と心が痛まなかった。その同期が自殺するに至った理由も何となく解った。自分はそうなる前にその会社を辞めたのだ。
さて本作。舞台になる阿武隈川の河口の荒浜の近くというと、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた地域である。大震災の発震した日の夜、毛布に包まりながらラジオに耳を傾けていると『荒浜で2、3百体の遺体が……』という、とても信じられないニュースを聞いたことを覚えている。
そんな海辺の街で40歳の植木職人である坂井祐治は十数年前の東日本大震災の津波で2トントラックに積んだ仕事道具を全て失い、その2年後には妻を病気で失う。その後、祐治は知人の紹介で再婚するが、その妻は出奔し、一方的に離婚届を送り付けて来た。
以来、息子と母親と3人で暮らしていた祐治であるが、息子との関係はぎこちなく、自分の肉体を痛めつけるかのように仕事に没頭していた。目にするのは巨大な防潮堤。再び海が膨張すれば、そんな防潮堤も意味をなさぬはずなのに……
生きるというよりも、何かに追い立てられながら、逃げるように彷徨い続ける淋しい男の物語。
本体価格520円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
2022年下半期芥川賞受賞作
東日本大震災で家族を失い残された人達の話
妻を失い、後妻の流産、その後三行半。
なんとなく始めた仕事、シゴキに遭うも独立。
不器用な裕治は母と子供の3人で暮らす。
・(貴方は無事)生き残って良かったね
・(貴方が悪いわけじゃない)自分を責めないで
・前を向いていこう
自分の周りの人の身に起こった事だとしたら…やはりこんな事は言えないな…と。ただ見守るだけ。
裕治の母、和子。明夫の父、六郎の様に。
残された側になってみれば、ただ進む(動く)だけになるよね。裕治や明夫の様に…それが正しいとか悪いとか関係なく。
芥川賞作品の特徴は押さえつつ、中身が入ってくるのは、父親として男として共感できるとこがあるからだろう -
Posted by ブクログ
自身を正義の男と自認する主人公と周囲との軋轢がやがて
初手から主人公の正義に狂った感じが全開で驚きました。手前勝手な勘違いで自身が迷惑そのものにもかかわらず正しい人と信じて行動する主人公。徐々に狂っていくのではなく、最初から狂ってる存在が徐々に排除されていく過程が描かれていて、じゃあ周囲は正しく動いているのかというとこの主人公に面倒ごとをおっかぶせて追い出す意図もあったりする。「正義を掲げる人は基本迷惑」と、「正義を掲げない人も大体ずるい」という2つのしんどいポイントが描かれた作品のように思いました。
最初から正義に狂ってるよりは、正義に飲み込まれていく過程が見てみたかったなというのと、主人公の独白形式なのもあって、どこまでが現実に起こっていることなのか、どこまでが主人公の妄想なのか切り分けにくい表現が多く、「で、実際はどうなの?」と疑問がよぎることが多かったのが(そういうフォーマットなので仕方ないとはいえ)ちょっと残念でした。
でも、文章自体は読みやすく、すーっと一気に読めた。それなりに面白かったです。こういう、自分の正義を他人にぶつけることに夢中になって、相手という存在が見えなくなってる人、ネットなんかよくいるよなと思いました。 -
Posted by ブクログ
ハラスメントは甘えだ、耐性がなさすぎる若者が劣っているというひとに是非とも読んでいただきたいが、そういう人はこれを手にも取らず、ビジネス書や自己啓発書に盲目だろうな、という偏見。この本を手に取るのはいつだって、ハラスメントを受けそうな、(受けそうなってなんやねん?)人なんちゃうかって。この主人は最終的に地獄っぽい天国へいってくれるけど、現実のジャスティスプライド高おじたちは天国っぽい天国でノラリクラリしてて憤慨したいよな、こういう視野狭窄おじに限って、おれにもしんどい過去があって、とかそういうのに耐えてきたからお前たちもとか言うねんな、ってこれも視野狭窄ばばあとか言われるんかもなあ
-
Posted by ブクログ
仙台の丸善(作者の元職場)で購入
→しかし、帰りの高速バスに置き忘れる・・・
妻の実家が物語の舞台でもある宮城県の亘理町で、何度も行ったことがあるので読みながら『あの辺かな』『この辺かなぁ』と思いながら読むことができました。
震災をテーマにする場合『再生』をテーマにするか『再生』でオチをつける物語が多く見受けられます。しかし解説で小川洋子も言ってるとおり本書に『再生』はありません・・・
一度壊れてしまっても再生する物もありますが、再生しない物もあります。
形の無いものは、あの日あの時『壊してしまった』と後から自覚する事はあっても、その時に『壊した』という自覚は無いものです。
自分だけの物を壊してしまっても、誰かとのモノは壊したく無いと本書を読んで思いました!
植木職人の坂井祐治は東日本大震災で商売道具が流され、その二年後妻をインフルエンザで失う・・・
その後再婚するものの・・・
祐治は肉体を酷使する事で仕事に没頭する。
息子との関係はイマイチで何をどうしていたらと悩む・・・
仕事に没頭しながら悩み続ける男の物語。
舞台となる亘理町には郷土料理の【はらこ飯】があります!
本書を秋口までに読み終えて是非【はらこ飯】をご堪能ください! -
Posted by ブクログ
ネタバレ物語の内容は、小学3年生の主人公蓮が、多様な人々が住む団地で父母兄妹と暮らしながら、同じ小学校に通う上級生や同級生と日常生活を送る場面を描いたものと言える。
魔人とはいわば現実逃避のために蓮自身が生み出した「像」と言えるだろう。毎日家族で虐待を受け、持病を患いながら生活を過ごし、これまでにない人との関わりを持つ、これらは全て蓮にとっては通常では乗り越えられないものであり、だからこそ自分自身で魔人を生み出し、現実からあえて距離を取る方法を生み出したのだと思う。
だが、蓮は物語の終盤でそれを「神」のような存在(つまり、魔神)と勘違いしてしまう。だから、憎しみの対象である兄の公平に暴力を行使する。だが、返り討ちに遭い、自身の無力さを痛感して終わる。蓮は「まじん」の正体に途中で気がついたが、それを「魔神」と勘違いしてしまったのだ。
小学校3年生という、未熟な段階にいる子どもの奇想天外な発想・考えや、友人との関係性、子どもから見た大人の世界・自然の世界、そして恵まれない境遇にいる子どもの現実を、子どもの視点から描いた作品と言えるだろう。