井戸川射子のレビュー一覧
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ネタバレ表題作は、他者の思考の流れをそのまま読んでいるようで居心地が良いとは言えなかった。
母親は子育ての思い出をおそらく美化していて、はじめは優しいお母さんなのかと思っていた。でも娘ふたりは母親に対して少なからず不満を持っている。勤務時間に売り場にいないことや、自省することがなく他人のせいにするところなど、娘の登場によって明らかにされる母親の本当の姿が見えた時に驚いた。
少女に言われたことも本当に理解したのかは怪しく、善意の正義感だけはあり、やんわりと強情で、この人物をどう捉えたらいいのかと途方に暮れた。わたしには母親が終始ズレているように感じられたのだ。
この世の喜びとは、あなたに何かを伝えられる -
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母娘三代の日常を訥々と綴っている。
その間には、1995年と2011年の大きな震災があった。
そのときに経験した思いも母や娘では感じ方が異なっていても大筋では変わらない…それは日常に不変が入り込んだもので一生分を思うと過ぎてしまったことになる。
「写真なんて余韻よ」と母。
「余韻こそ大事やんか。残るもんは余韻だけやんか。」と娘。
その何気ない応答が、後から何かをするたびに思い出すことなんだろうと感じた。
母が娘にそして孫にと伝わるものは、言葉でありそのときの記憶である。
同じように時間は進むのだが、記憶は薄れても残っている僅かはきっとあるに違いないと…。
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三編の短編集。
表題になっている『この世の喜びよ』
は読んでいて なかなかその文章に慣れることができなかった。
主人公は“あなた”という二人称で語られる 穂賀という ショッピングセンターの喪服売り場で働く中年女性。
社会人と大学生の娘がいる。
ある日“あなた”はフードコートに頻繁に一人で来ている十五歳の少女と話しをするようになるのだが 何度か話すうちに口下手な“あなた”は 少女を怒らせてしまう。
文章がなんとなく詩のようだ。
“あなた”の目に映っている場面や、その時々に入り込んでくる回想を思いつくまま語っているような感じで、まとまりがなく 散らばっているような印象を受ける文章だった。
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本のタイトルになっている「ここはとても速い川」と著書のデビュー作である「膨張」の2編を収録。
「ここは-」は主人公の少年の関西弁による1人語りの形式ですが、方言で書いてあることに加えて、子どもならではの話の飛躍も多く、話の筋がよくわからなくなるところがあちこちにありました。
ただこれが、第三者目線で筋道立てて展開される物語であれば、全く印象は変わっていたはずです。
これまであまり小説をたくさん読んできた方ではないですが、「わからなさ」をラッピングで包まず、そのままわからないものとして差し出す潔さ。それをアリとして受け入れる小説という表現の懐の深さを改めて感じました。 -
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◼️ 井戸川射子「ここはとても速い川」
連ね続けられる文章、別れが、刺さる。野間文芸新人賞。
井戸川射子は芥川賞を取り、書評も見かけたので興味を持っていた。地元の人らしく、関西弁がからむ文章。詩人でもあるそうで、表題作と小説処女作の「膨張」、どちらも80ページくらいの作品が収録されている。
さまざまな事情により親と暮らせない子どもたちの施設。小学5年生の集は1つ下のひじりと仲が良い。無邪気なひじりと、淀川の亀にエサをやったり、ボロアパートに住む大学生モツモツと知り合ったりと活動的に暮らしている。集は入院先の祖母の元へ通い、ひじりは病気が快方に向かう父親と会っている。親のこと、先生のこと、