井戸川射子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
三編の短編集。
表題になっている『この世の喜びよ』
は読んでいて なかなかその文章に慣れることができなかった。
主人公は“あなた”という二人称で語られる 穂賀という ショッピングセンターの喪服売り場で働く中年女性。
社会人と大学生の娘がいる。
ある日“あなた”はフードコートに頻繁に一人で来ている十五歳の少女と話しをするようになるのだが 何度か話すうちに口下手な“あなた”は 少女を怒らせてしまう。
文章がなんとなく詩のようだ。
“あなた”の目に映っている場面や、その時々に入り込んでくる回想を思いつくまま語っているような感じで、まとまりがなく 散らばっているような印象を受ける文章だった。
-
Posted by ブクログ
本のタイトルになっている「ここはとても速い川」と著書のデビュー作である「膨張」の2編を収録。
「ここは-」は主人公の少年の関西弁による1人語りの形式ですが、方言で書いてあることに加えて、子どもならではの話の飛躍も多く、話の筋がよくわからなくなるところがあちこちにありました。
ただこれが、第三者目線で筋道立てて展開される物語であれば、全く印象は変わっていたはずです。
これまであまり小説をたくさん読んできた方ではないですが、「わからなさ」をラッピングで包まず、そのままわからないものとして差し出す潔さ。それをアリとして受け入れる小説という表現の懐の深さを改めて感じました。 -
Posted by ブクログ
◼️ 井戸川射子「ここはとても速い川」
連ね続けられる文章、別れが、刺さる。野間文芸新人賞。
井戸川射子は芥川賞を取り、書評も見かけたので興味を持っていた。地元の人らしく、関西弁がからむ文章。詩人でもあるそうで、表題作と小説処女作の「膨張」、どちらも80ページくらいの作品が収録されている。
さまざまな事情により親と暮らせない子どもたちの施設。小学5年生の集は1つ下のひじりと仲が良い。無邪気なひじりと、淀川の亀にエサをやったり、ボロアパートに住む大学生モツモツと知り合ったりと活動的に暮らしている。集は入院先の祖母の元へ通い、ひじりは病気が快方に向かう父親と会っている。親のこと、先生のこと、 -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作は、スーパーの喪服売り場で働く中年女性が、いつもフードコートにいる中学生と話をするようになる様子を、同じスーパーで働く人たちとの交流を交えて描くお話
何か大きな事件があったり、決定的に悲しい出来事があるわけではないのだけど、日常を送る中で孤独を募らせている中年女性が、自らの子育てが終わりを迎えようとしている中で、中学生に心を開こうとするというような内容で、読んでいて切ない気分になる作品でした。
二人称で書かれているのが特徴的だけど、過去を振り返ってやさしく自分に語りかけているように感じたけれど、二人称は同時にその語りかけが読者にも向けられるように感じられるから、情報の処理のプロセスが -
Posted by ブクログ
音声で聴いていたので、この小説のすごさがわかるほどのレベルに達してはいないのだが、淡々とした描写のまま何事もなく、小説は閉じられる。表現方法が特徴的とのこと。芥川賞受賞時の選評を引いておく。
平野啓一郎
「V・ウルフ風の「意識の流れ」を二人称で描くという難しい挑戦が成功している。」「「あなた」という穂賀への語りかけは、ヤング・ケアラーの少女への「あなた」へと転ずる最後の場面で、彼女の子育てを否定する、唯一の真の他者へと開かれる筈だったが、その対立性は曖昧に呑み込まれ、結局、全篇を貫く自己承認回路へと吸収されてしまう。」
小川洋子
「(引用者注:「荒地の家族」と共に)丸をつけた。」「特異なの