【感想・ネタバレ】ここはとても速い川のレビュー

あらすじ

読んでいる間、ずっと幸福でした。――川上弘美

保坂委員が説明の途中で嗚咽した場面は
野間新人賞の選考の歴史に刻まれよう。――長嶋 有

選考委員--小川洋子、川上弘美、高橋源一郎、長嶋 有、保坂和志--
満場一致の、第43回野間文芸新人賞受賞作


【あらすじ】
児童養護施設に住む、小学五年生の集。
一緒に暮らす年下の親友ひじりと、近所を流れる淀川へ亀を見に行くのが楽しみだ。
繊細な言葉で子どもたちの目に映る景色をそのままに描く表題作と、
詩人である著者の小説第一作「膨張」を収録。

選考委員の絶賛を呼び、史上初の満場一致で選ばれた、第43回野間文芸新人賞受賞作。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

「ここはとても速い川」
施設で暮らす主人公「集」は5年生。
一緒に生活している一つ下の親友「ひじり」とのやり取りや、ひょんな事から知り合う若者「モツモツ」と決行したある作戦、夏休みの宿泊訓練など、日々の出来事が集の目線で語られます。
ダダーっと一気にしかも次々に話題が移っていくこの文体がすごくいい。整っていなくて子どもが話しているそのままの感じ。あっちこっちに飛びながら時々フッと出てくる言い回しや比喩によって、この世界にググッと近づく感覚が読んでいておもしろい。
子どもらしい文章の中に急に差し込まれる、集やひじりの抱える問題にギクッとしたり。集の心境が垣間見えて切なくなったり。出てくるアイテム(亀ゼリー、スライム、アガパンサス、絶品チーズバーガー…他多数)もいちいち情緒的。

「膨張」
主人公「あいり」は特定の定住する住居を持たず、ゲストハウスやホテルなどを転々としています。
こちらもあいり目線で心情がつらつら移り変わっていく文体。そこに乗っかってあいりを追体験しようとするのですが、掴みどころがない。なんとかくらいつくもラストでは見事に振り落とされました。えーっ?何なに!?

これは、他の井戸川作品も気になる〜

0
2025年12月14日

Posted by ブクログ

表題作は児童養護施設の小学生の視点でそっけない関西弁で綴られる。なんとなく泣けちゃうんだよー
『膨張』はアドレスホッパーの物語。アドレスホッパーって初めて知った。

0
2025年01月13日

Posted by ブクログ

これはすごい。
井戸川射子、詩人の姿を見た。

表題作「ここはとても速い川」は、集の発する言葉から彼の生命力と危うさと素朴さに満ちた目つきを想像させられる。嘘なんて存在しない集の世界に入り込むと、気づいたら泣き出しそうになっている

「膨張」は、ラストにかけてが物凄く良い。
速度のある文章から吹き付けられる風。

0
2024年02月04日

Posted by ブクログ

「ここはとても速い川」「膨張」の2作品が収められている。

「ここはとても速い川」は児童養護施設に住むこども「集」の語りで物語が進む。子供がそうであるように、目に映るものを次々言葉にしていく。だから、話は突然方向を変えるし、句読点もあえてずらしているのかと思う。それが子どもっぽい揺らぎを感じさせる。

形容詞がほとんどない。見たままを語る集。詩人でもある井戸川射子さんの描写力がすごいと思った。

0
2023年10月17日

Posted by ブクログ

井戸川作品2冊目。
文章のリズム感、グルーブに浸る。
人が記憶の隙間に落っことしてしまっているような、ディテールを丁寧に掬い上げる作風はとても好き。
これはいい。

0
2023年03月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

井戸川射子さんは詩人だそうだ。
詩はまだ読んでおらず、この小説が凄いと、石井千湖さんの紹介をきいて、手に取った。

なんという繊細にして大胆な子どもらの描写。
ワンパラグラフが長いように思う。そして、あまりに息継ぎもなく、流れるように、日常の中で意識が止まらないのと全く同じように、主語、語り手である集くんの、頭の中によぎることや確信に至るか至らないかに限らず考えていることが、情景風景ほかの人との会話なども絡みながら、さらさらと、ちくちくと、織り出されていく。
パラグラフは一気に読まないとダメだし、一気に読ませる。ここに伝えたいこと、他人じゃなくても自分に言い聞かせたり残しておきたいことだから息継がず一気だ。
それで、一気に読み終われるかというと、どうにも胸が詰まり時々休まないとこちももたない。
子どもたちはきちんと自分の欲望やもしかして他人の欲望の犠牲(いわゆるハラスメント)と感じることをノートに書き留めている。
児童養護施設では一般の家庭より詳しく性に関する教育注意喚起をしている。ルールもきちんと決められていてその運用を年齢とともに各自工夫している感じがする。そんな中でもこれおかしい?感じ悪い?セクハラ?と思ってしまいようなこと、微妙な感じで、どうなん?て躊躇しながらも記録はとっていく。子どもだから判断能力ないとか、思い違い思い込みでは?とかよく大人サイド加害者サイドが言い訳して逃れてるけど子どもや子どもでなくてもされてる方はわかっている、ということをつきつけてくる。

道や草や川、夕焼け、建物が光を取り込む様子ととにかく敏感に違いや整いや整っていないことを繊細に言葉にする。園長先生への、ひじりのノートに関する対応を走って確かめようと、自分のこれまでの既に重い局面をたくさん経験していることについての考えも確かめようと畳み掛けるように質問が繰り出されるところ、目の端に涙がたまる。

川の流れが早くてひじり君を助けようと集君も流されてしまう。死の恐怖とか、よりも、なにか掴むもの、しがみつかないと!と思い、先生は下で捕まえるからそのまま抵抗しないで流されて、という。これが生きるということで子どもは子どもなりに、大人、先生、責任を負うものはそれなりに体得している。

そして随所に出てくる川の流れ、水の流れ、それは一筋の流れではなく、たくさんのそれぞれ個別な流れが集まりぶつかり合いできているのだと。これが世の中というもの。

自分は子どもの頃でもこの子たちみたいに世界をみれてなかった。さして不足もなくさして疑いもなく、なんかおもしろくないなとは思ったかもしれないけど、大きく足りてないものはなかったから細かいことも気にならなかった。それでも子どもの頃も今も大人になっても少し上流に行ったり下流に行ったりすれば景色がぐっと変わることに衝撃に近い感銘を受けることがある。梅田のビル群が見えるようなところに豊かな淀川がありこの子らの住む施設もあるのかと思うとその事実がまたなんともいえぬ事情となり、深い感慨となる。 
おばあちゃんとの、連鎖し繰り返しくる悲しみと不幸せとその中で幸運だよかったと思えるようなことを確認するような会話。おばあちゃんはどうしようもすることができないことをすまなく感じているが、そんなに悪くないとも孫に精一杯教える。集くんは、施設のテレビで映画を見ながら、いい人悪い人を見分ける練習をするようにしているのだ。登場の仕方に注目すべきだ、と。

ママが集くんを産んだ時、男の子と知って、
よかったねえ。悲しいことは起こりにくい。こんなに血を出さんでも、自分の子どもに会えますわ。母港や母国の母の字の、一部にならんでええんやわ。、、と節をつけていっとった、とおばあちゃんが思い出すくだり。まさにこのことがフェミニズムに関わる問題そのもの。母がつく言葉の一部になりたくない。

タンスのささくれだったところを触りながら、家具に生まれ変わるのもよいかもな、馴染んでも気にもされずいて使い終わりも自分で決めないから。というくだりが圧巻である。この子らは、集くんを生きるためのちょっとした知恵(悪気のあるものや打算的なものではない)や、それ以上に否応なしの死生観を持っている。

同じ文庫本に収録されている、膨張という作品は作者、詩人の小説第一作だそうだ、ここでも繊細な詩的な言葉が連なり連なり、シーンが変わるところまで息を継げない。塾の生徒たちをみて

散在するかたまりたちがほどけていって、集まる若さは噴水だ、小さくても見応えがある。歳をとると川になってしまう。…どれも混ざり合わない、大きな水の流れ

という文章などがあり膝を打つ感じなのだ。でも、ここはとても速い川、ほどの共有感、共通感覚はない。あまりにも痛々しく現実的で読む方も避けてしまうからかも。
関西弁で、笑ったらちよっとわるいとこだけど笑ってしまうような速い川の子どもらや少しずるこくそれを気づかないふりして自分なり言い訳がましく生きてる大人たちの生き方暮らしぶりより、標準語でもっと堅苦しい言語を用いてアドレスホッパーなる部外者からは信仰宗教、カルト的に見える背景があるからだと思う。関西弁て、生粋の関西人でなくでもなんらかの共有体験がありニュアンス分かる人には最強の言語ツールであるな、とも。関西弁の方が身体感覚強い気がする。これは蛇足。



0
2023年01月22日

Posted by ブクログ

詩的。文章の密度は濃いが、独特な柔らかいことば遣いの表現は心にしみ入るように伝わってくる。
子どもの心情を深く描き出していると感じた。劇的な展開のある物語ではないが、語り口の柔らかさと伸びやかさが、タイトルに反するように、緩やかな大河の流れを想起させる。

0
2024年11月07日

Posted by ブクログ

『とても速い川』と『膨張』の2つの話。
決して読みやすい文章ではない。がとても惹かれる。
主人公は養護施設の少年。感動的なことは何も起こらない展開に心が揺れた。

0
2024年02月18日

Posted by ブクログ

詩人の書く小説らしく、表現が詩的で描写力が素晴らしい。
井戸川射子さんの小説は、「詩人出身の感じ」が読みにくいという意見を見たことがあるけど、個人的にはこういう、趣向を凝らした美しい描写は好きなので楽しく読めた。
表題作ももう一作も、人生の一場面を切り取ったような小説だった。良かったです。

0
2024年02月16日

Posted by ブクログ

ポリタスで石井千湖さんが本書を紹介した時、初めて著者の名前を知った直後『この世の喜びよ』が芥川賞を受賞したタイミングで読んでみることに。
一見すると薄い文庫本だし少年が主人公とのことなので、サクッと読めるかと思いきや予想外の展開で侮れない。水の流れに足を取られないよう足元を確かめながらゆっくり読ませる作品だった。
大阪弁の文章が美しい。

0
2023年03月08日

Posted by ブクログ

本のタイトルになっている「ここはとても速い川」と著書のデビュー作である「膨張」の2編を収録。

「ここは-」は主人公の少年の関西弁による1人語りの形式ですが、方言で書いてあることに加えて、子どもならではの話の飛躍も多く、話の筋がよくわからなくなるところがあちこちにありました。
ただこれが、第三者目線で筋道立てて展開される物語であれば、全く印象は変わっていたはずです。

これまであまり小説をたくさん読んできた方ではないですが、「わからなさ」をラッピングで包まず、そのままわからないものとして差し出す潔さ。それをアリとして受け入れる小説という表現の懐の深さを改めて感じました。

0
2025年08月12日

Posted by ブクログ

◼️ 井戸川射子「ここはとても速い川」

連ね続けられる文章、別れが、刺さる。野間文芸新人賞。

井戸川射子は芥川賞を取り、書評も見かけたので興味を持っていた。地元の人らしく、関西弁がからむ文章。詩人でもあるそうで、表題作と小説処女作の「膨張」、どちらも80ページくらいの作品が収録されている。

まざまな事情により親と暮らせない子どもたちの施設。小学5年生の集は1つ下のひじりと仲が良い。無邪気なひじりと、淀川の亀にエサをやったり、ボロアパートに住む大学生モツモツと知り合ったりと活動的に暮らしている。集は入院先の祖母の元へ通い、ひじりは病気が快方に向かう父親と会っている。親のこと、先生のこと、大人の世界は必ずしも、正しいとは限らないー。

なんか尻切れのあらすじ紹介となった。というのが、集のモノローグのこの作品、日々目にすることや出来事、友人のことを関西弁で連ね連ねて書くスタイルで種々のシーンが現れては消える。もちろん多少大きな動きであったり、集が気に病むことはあるが、基本は少し重たくずっと流れていく感覚だ。

そして喪失が訪れる。ここもさらり、だから余計に刺さる。幼い児童には自分でできることが限られていることを痛切に感じさせるラストになっている。

スタイルは「膨張」も同じでアドレスホッパー、決まった住処を持たずに日々共同ベッドのゲストハウスなどに泊まっている若い女性塾講師の話。ある性癖を持つ同性の恋人がいる。

まあその、読みやすいか、といえばそうではない。でも、「速い川」で感じたように人が暮らす世界には日々何かが関係し屈託も喜びもあるという感覚を伝える手法としては有効かもしれない、と思った。読みにくいが分かりにくいわけではない。また、この書き方に出会ったのは初めてでもない。

これも読書の1つできちんと立っている作品、ふむ、と読み終えたのでした。

0
2025年08月05日

Posted by ブクログ

読み始めは中々内容が理解しづらく感じる文体であるが、読み進めていくと著者が作り出す物語の中にまるで沈んでいくようにして浸っていける。そしてそれは現実と離れすぎた内容だからわからないとかではなく、あまりにも現実すぎて物語と認識しづらいような感覚が読者に与えられる。その繊細且つ濃密な語りは、詩人でもある作者の言葉へのひたむきさと忠誠心だと捉えても良いのかもしれない。ちなみに本の詳細のページ数が288になっているが、手元の2022年12月15日第1刷発行の文庫本はどう見ても162でノンブルが終わっている。

0
2024年12月12日

Posted by ブクログ

2つの物語は繊細で、むなしさが残りました。
全てが報われるとは思っていませんし、自分の価値観を押し付けるのは違いますが、やっぱりどこかで報われていてほしいなと思いました。

0
2024年07月03日

Posted by ブクログ

二作品収録の細くて薄いそれでいて濃いまるでカルピスの原液のような作品。
まずはじめに、ここはとても速い川ですが、これだけならよかった。少年期の目まぐるしいほど環境の移り変わりが速いなかで彼らはあまり変わることなく過ごしている感じが流されてくように感じて文学としての表現が素晴らしいと思いました。その刹那さに心がグッときます。
ただ最後の膨張に関して言えばなんだかよくわからない、どう消化すればいいのか、あるいは噛み砕けばいいのか、終わり方もパッとしません。共感が持てないのも原因かもしれませんが、おそらく概念にない話なので僕は読んでも何も思いませんでした。ただよく書けている。と言った具合です。文学としては完成していると思います、ただ好きじゃない。それだけですので総合的に星3つです。

0
2024年06月24日

Posted by ブクログ

もともと詩を書かれてた作者さんだからか、比喩表現が多く、癖のある独特な文体にはじめは苦労したがそのうち慣れる。
その比喩表現のところに話の核となる関係性の象徴など現れている感じなので結構かみくだいて読んだ。
淡々と思考が湧き出てはとめどなく流れるように綴られていく。初めは違和感あったけど、普段私たちもこうやって思考が流れ、湧き出てをくり返しているのだろう。
ストーリーも、文の感じもまさに表題のように流れの速い川のよう。また暫く時間を置いて、再読時は流されないようにじっくり読みたい。

0
2024年02月22日

Posted by ブクログ

児童養護施設に暮らす小学5年生の集(しゅう)。園での年下の親友・ひじりとの楽しみは、近くの淀川にいる亀たちを見に行くことだった。

▽感想
子どものような日記で、何となく句読点や文章が幼く感じる。子ども目線で物事がかかれており、慣れるまで読みにくさが多少あった。

話の道すじもまっすぐではなく、あっちにいったり、こっちにいったり。

モツモツと集とひじりで紫色の花の世話をしたり、養護施設の中の様子を話す様子も全部、愛しい子どもたちの目線だった。

子どもならではの狭くて、だけどいろんなところを見てる独特な視点をよくここまで書き込んだなと思った。

0
2023年11月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

モツモツのアパートから集やひじりが移動させた紫色の花が、まるで集たち自信を表しているようでなんとも言えない気持ちになった。

どこから来たのかも分からない、なぜそこにあるのかも。

まるで孤児である集なようで、

また、
おばあちゃんの家に移された花も一見育ちやすい、幸せそうな環境になったようには見えたが、

おばあちゃんに掘り返されたかどうかは謎なまま。

まるで、
お父さんの元へ帰ったひじりのようだった。

なにが本当の幸せなのか考えさせらる本だった。

P48
浅いところは石で痛くて、深いところは怖いんやった。注がれてくる水が水をまたいで、川は群れでめっちゃ飲んでしまう。勢い、流れ落ちひんためには、なにかの形にしがみつかなあかん。水の帯がこうやって囲むんやなと思う、まだ大事なもんみたいに握りしめている網は何も助けへん。残りの指で傍の石をつかむけど固定もされてない、一緒にただ押し出されてしまう。

0
2023年05月22日

Posted by ブクログ

子供目線で書かれているのが新鮮で気付かされることが多かった。

私自身もこういう思考の時代があったのかなと考えるが今では全然記憶に残っていない。
子供は大人より狭い生活範囲で行動しているから思考は見えているものだけであり俯瞰してみることはあまりない気がする。でも俯瞰してみることで遠回りの思考になることがある。たまには子供の思考に戻って見える範囲を整頓することで気付かされることもあるから子供の思考も尊重されるべきだと思った。

0
2023年05月18日

Posted by ブクログ

文章が独特で馴染みづらかった。作者が詩人とあとで知って納得。慣れるまでつまらなく感じ、終盤やっと慣れて途端にすごくおもしろく感じた。丁寧に読まないと、お話の流れこそとても速い川のようなので、足を掬われてしまう。時間の説明がなく、区切りのわからない散文を読んでる感覚になるのかなと。
大人びた少年の感情の抑制と放出。園長に胸の内を話すシーンは泣いてしまった。

0
2023年04月19日

Posted by ブクログ

とても濃ゆい作品で咀嚼に時間がかかった。
子どもながらの素直さというか、こういう風に見えたりするんだな〜と真っ直ぐな言葉だからこそ刺さる部分があった。不安に感じたり不快に感じたり、子どもは子どもなりに大人との付きあい方と向き合って過ごしているんだなと。
自分のいる環境で、友達との違う部分を感じたり、子どもだけど大人びているところがあったり、切ないところもありました。
どんな大人になるんだろうか。

膨張。ウオは大人になって何を思うのだろか。
あいりはなぜ千里を好きだったのだろうか。

0
2023年04月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

全体的にやわらかな文章。けれど中身は濃く、たまに鋭く容赦なく突き刺してくる印象の一冊。

児童養護施設で暮らす小学5年生・集(しゅう)の物語『ここはとても速い川』と、特定の住所を持たず生活拠点を点々としながら生活するアドレスホッパー・あいりの物語『膨張』。
両者は全く異なる物語のようだけれど、私にとってはとても近い世界の物語のように思えた。
大人の都合で生活拠点を決められた子供たち。"普通の暮らし"が何なのか。どんな生活ならいいのか。そんなことは人それぞれの価値観だからどうでもいい。けれどそれに従うしかない子供たちの気持ちはどうなるのか。読みながらずっともやもやしてしまった。

『膨張』の、アドレスホッパーを続ける母親に付いていく息子・ウオに、こういう暮らしをどう思うか尋ねた時の返事「思って、変わる?」。その後ウオが逆に聞き返す「大人に踏みつけにされたことある?」。そしてその翌朝行方知れずになるウオ。

表題作。児童養護施設で共に暮らしていた年下の親友・ひじりが施設を離れ実父の元に帰ることに。集とひじりの会話が印象的。
「二人(ひじりとひじりの実父)でいると、僕がここを盛り上げな、と思ってまう」
「夕ご飯の時、今かって上田先生とか朝日先生が喋りまくってるんでもないやんか。大人と話なんか合うわけないねん」
「ほんで、目の前にいてくれてる親は自分の子なんて、眺めてるだけでもう楽しいんやろ」

ひじりとウオ。環境も事情も異なるけれど、大人に振り回されていてどこか諦めているように思えてならない二人。そんな二人に感情が揺さぶられ、もやもやが止まらない。

0
2023年02月04日

Posted by ブクログ

 本書の著者・井戸川射子さんは、高校国語教師→詩創作開始→中原中也賞→小説デビュー→本作で野間新人文芸賞→『この世の喜びよ』で2022下半期芥川賞候補(1/19発表予定)と、異色の経歴をお持ちのようです。
 本書は2編の短編集で、井戸川さん初読でした。

○表題作「ここはとても速い川」
 児童養護施設に暮らす子どもたちの日常を、主人公の小学生の視点で綴った物語
○小説デビュー作「膨張」
 定住する特定の家を持たず、居住先を転々とするアドレスホッパーの人々の物語

 2編の共通点として、主体としての子ども・大人の違いはあれど、社会の中での生きにくさを扱っている点が挙げられるかなぁ‥。
 とりわけ子どもの場合は、分からないこと、嫌なこと、怖いこと、悲しいこと等を上手く言葉にできません。その分、大人をよく観察していて、下手な同情や子どもの心を探ろうとする態度や質問に対しては、ごまかし、避け、距離を置くのですね。
 2編とも、お涙ちょうだい的な悲しみの抒情に流されず、さらりとむしろ軽やかに言葉を重ねる表現力に秀でていると感じました。

 ただ、表題作は、子ども目線での状況(思考の対象)が次々に変わるとともに、ほぼ改行のない関西弁の文章が続くためか、平易な言葉でありながらスルッと入ってこない印象を受けました。(※改行なしは他の一編も同様)
 短編なのに長く感じる所以はこの辺にあるのか、言葉の重みか、私には熟考を要するなぁ‥。

0
2023年01月03日

「小説」ランキング