ウォルカに関しては1巻の時点で他者と常識の基準が異なる様子が描かれていた。それは原作知識があるからだと軽く考え過ぎていたかもとちょっと自分の浅さを思い知る内容でしたよ…
てか、ここまで常識が異なり過ぎると本作を理解する上でウォルカって「信頼できない語り部」に属するかもとすら思えてくるね
ウォルカには原作知識がある。普通の転生ライトノベルなら、その要素は他の登場人物に対する優位性になったり今後起きる問題の指南書となったりする
けれど、舞台がド外道ファンタジー世界であり、原作キャラやストーリーラインに関わる事が殆どない本作の場合は意味が変わってくるね。ウォルカはあの世界を作り出した人物を知っている、あの世界では人々が残酷に命を落としてしまうと知っている。何よりも自分達が<摘命者>に殺される運命を見ている。だから運命を回避して、それ以上の原作要素に巻き込まれないなら既にハッピーエンドへの道程は始まっている認識となる
これはあの世界に暮らす者達と常識が異なってくるのも仕方ないというもの。特に神様が信仰される世界において、あの世界を作り出した『神様』という名の作者が存在していると知っているのは大きな差異となる。ウォルカの中に信仰が育まれる事はなく、むしろ原作知識を思い出した事で残酷な世界を生み出した『神様』への憎悪は増すばかり
こりゃ他の者達と常識を共有するなんて出来ないわけだ。根本から見ている世界が異なる彼は他の者達と認識をすり合わせられず「信頼できない語り部」が誕生すると…
本作の傾向を考えるとき、<ならず者>退治関連にあれだけの紙幅を費やすのは一見風変わりであるように思える。多くの異世界ファンタジーの例に漏れず、主役となるウォルカ達はそんじょそこらの相手では太刀打ちできない程の実力を身に付けている。実際、<ならず者>を打ち倒すシーンそのものは短くあっさりとしているし
ならば、どうしてあそこまでのベージ数が必要なのかといえば、理由があろうともウォルカ達にとって<ならず者>を殺すのはリアルな現象だから。ユリティアやウォルカが人を殺す感傷を消しきれないように、人が人を害す光景に気を悪くせざるを得ないように
だから本作にとって、威張る悪人を倒す工程はあまり意味を持たないんだろうね。むしろ悪を名乗る人間によって害された者達にこそ寄り添おうとしている。その為には<ならず者>を倒すシーンよりも、<ならず者>によって傷つけられた人や想いをこそ描く必要がある。その中核に多くの傷を持つウォルカが居るわけだ
だからって、自分に刃を向けたシアリィへの対処を優先して自分を心配する仲間達を後回しにしてしまうとか本当に重症ですよ…
ウォルカが最も望んでいるのはあのクソッタレな世界で理不尽に傷つけられた者を出来る限りハッピーエンドへと連れて行く事。だから絶望の中で妹を守ろうとしたシアリィを傷つける理由なんてウォルカは一欠片も持たなくて
その行動はシアリィやルエリィを救う上ではこの上なく正しいのだけど、再びウォルカが傷つく様子を目の前で見せられた挙げ句、再び何も出来なかった自分と向き合う羽目になったリゼル達は当然の如く病み具合が深まるわけで
おまけに助けられる命は望外な程に助けたというのに、それでも神への憎悪を口にするウォルカの姿まで見てしまったらなぁ…。また、そんな姿まで晒したウォルカ自身は思考をあっさり切り替えて一人で立ち直っているのが本当に悪辣ですよ…。そりゃリゼル達がクソデカ感情を持つのも仕方ないというもの。だって自分達を助けてくれたウォルカ自身は何度も傷ついて今も新たな傷に苦しんでいるのに助けを一切求めないんだから。その上でリゼル達を幸せにしようと覚悟を固めているならば、彼女らに出来るのはウォルカの傍で微笑み続ける事ばかり
だというのに、肝心のウォルカは根本から常識やら見ている世界が違う為にリゼル達のクソデカ感情の源泉が判らないと。これは既に手遅れな気がしてしまうな……
パーティ内でも既にややこしい感情が飛び交うウォルカの周囲。ここに来て更に聖女関連でもややこしさが増してきますか
ディアが懸念しているように、ウォルカが聖都から出ていってしまったら実力者が居なくなるという意味でも痛手なのに、アンゼもウォルカを追って出奔してしまうだろうという点では彼の存在はもはや政治的な意味を持つようになってしまっている
また、聖女すら呑み込みかねない実力を隻眼隻脚の状態で放てるなら、尚更に彼を取り込んで義足を用意して恩を売って完全に取り込んだ方が良いという話になる。リゼル達にはウォルカが隻眼隻脚になってしまった事は痛みばかり感じる事案だけれど、関係のないディア達にとって付け入る隙となるのか
気になるのは思わずディアに口走ってしまった神への憎悪かな…。それは神というより原作者への恨みであるのだけど、ここでもやはり転生者である為に見ている常識が異なる点が作用してしまうね。てか、「普通の精神状態だとは思えなかった」って凄いコメントだな……
ただ、それによって聖女達には強烈な印象を残したわけだから、ウォルカの将来を考慮するなら良い会談結果だったと言えるのだろうか…?でも、これによって聖女達、中でもユーリがウォルカにクソデカ感情を持つフラグが経ってしまったような気が…
ウォルカの意に反して彼の包囲網は狭まってきて、原作キャラが彼に関わりを持つ可能性も増えてきた。おまけにウォルカの実力はただの剣術バカの範疇から明確に逸脱し始めた
果たしてウォルカは守りたい者達を守れるのか?その過程で更にリゼル達が病みはしないか?というか、ある程度前向きに物事を捉えているウォルカを見て感情が曇る者がこれ以上増えやしないかと懸念しつつ期待もしてしまう面白い展開になってきたね
というか、この巻の範囲内だとウォルカ達に助けられただけの少女として終わったルエリィだけど、プロローグやシアリィがウォルカにした事を考えるとこの娘も病み要因としてカウントされそうな予感がひしひしとするんだけどな……