ライトめな終末ものSF風味が交じった,高校生たちによる青春・恋愛劇。
かつ連作短編形式での群像劇ということで,自分の好みの要素がこれでもかというくらい,ふんだんに詰め込まれていた作品。
それは当然のように熱中して読んでしまうし,大好きですわなという感じでしたw
刊行自体は去年(2023年)末のようですが,今年(2024年)読んだ小説の中では,今のところ1番面白かったし,自分の好みに合致しているなと感じました。
電撃文庫の作品を最後まで読み切ったのなんて,ひょっとしたら20年近くぶりなんじゃないか?というくらいには遠ざかってしまっていたのですが,やはり自分の思春期の根幹を形成してくれたレー...続きを読む ベルだけあって,肌感に合うなという心持ちがしましたね。
同じライトノベルでも,ガガガ文庫などの青春恋愛作品と比べると,だいぶおたく要素(美少女ゲームや美少女アニメおたく向けな,いわゆる萌え要素やお約束)は薄かったと思います。
かわりにサブカルというか,メインカルチャーに対するマニアックなこだわりや知識に寄った雑学が散りばめられていて,そういった意味でも自分の好みに合致しました。
作者である野宮有先生の作品は初読なのですが,メディアワークス文庫の方でもお書きになられているとのことで,電撃文庫の中ではどちらかというとライト文芸,むしろ一般の大衆向け文芸に近い筆致なのではないかなと感じました。
とにかく文体がしっかりとされていて,すんなりと頭に入ってくるので,読みやすくて心地良かったです。
さて本題に入って,内容についてですが,地球へと接近する小惑星が観測され,落下したら人類は滅亡するだろうと予測されているという,特殊な状況が前提にはあるものの,あくまでも描写の中心となるのは,思春期を過ごす高校生の登場人物たちそれぞれの心の葛藤だとか,移ろいといったものであり,状況や環境面については,そこまで詳細に掘り下げて描かれていくわけではない,ある意味では舞台装置に過ぎないというところが,わりと珍しくて面白いなと感じました。
強いて言うなら,大昔に好きだった美少女ゲームである『終末の過ごし方』に近い作風かな。
ただ,一見するとそのように,軽くSF要素を加味させただけに過ぎないようにも思えてしまう状況や環境設定なのですが,別の側面から捉えると、この作品においては肝腎要な部分ともなっており,ただ安易にSF要素による危機的状況を用意することで,展開を盛り上げたりだとか,青少年たちの心を揺り動かすための道具に使っているのとは全く違う,"深遠さ"を作品にもたらしているんですよね。
そしてそのことこそが,この作品最大の魅力であるとも思います。
ではその魅力とは一体なんなのか。
それはズバリ,「どうせ死ぬ,あるいはどうせ生きている意味なんか存在しないのに,人は何故生きていかなければならないのか?」という,人類にとって永久の課題である,厭世観・厭世主義が指し示す命題に対する,哲学的な模索と回答に他ならないと思います。
こうした観点からみていくと,この作品は様々な示唆に富んでいることが良く分かります。
「終わりゆくセカイ」の様子は,失われた三十年を経て衰退し,夢も希望も持てない現在の日本を想起させ,その中を生きていかなければならない若い世代の人々の心に根差した厭世観とも繋がります。
また,舞台が長崎であることも大変に示唆的です。
堕ちてくる小惑星は,太平洋戦争・第二次世界大戦の終焉を告げた原子爆弾のメタファーにもなっています。
多大な破壊と苦しみと絶望をもたらされてもなお,立ち上がり,「途方もない悲しみをみんなで乗り越えてきた街」という記述が作中にもある通りに,(現実世界に今ある)長崎の姿は,もし本当に小惑星が落ちてきて,世界が滅亡するのだとしても,きっとまた生命は芽吹き,人は生まれ育っていき,大いなる発展と躍動を世に示すに違いないという,人類にとっての希望のよすが,目指すべき象徴としても機能しているのです。
個人的には第3話の「潜在的に危険な星空」が,無愛想で謎だらけな転校生が抱えた秘密に迫るミステリとして読んでも,ちょっとした冒険を伴うガールミーツガールなロードムービー微百合ものとして読んでも,クオリティが高くて,1番良かったかなと感じました。
予想できない展開と謎の解明を前にして背筋が震えましたね。
個人的に宇宙や星の話に弱いからというのもあるかもしれませんがw
この話があることで,無窮の(正確には無窮にも近いような)時を過ごす星と,刹那を生きる人との対比がより明瞭に感じられましたし,常日頃,日常を生きる我々にとっては80年の生は長く感じられるけれども,宇宙のような壮大な規模からしたら,本当に一瞬に過ぎないこと。
ヒトの人生は思っているよりも短い。
だからこそ一所懸命に,切実に生きていくことが大事だという,作品の根幹にあるテーマがより深みを持って感じられたように思います。
第4話「さよなら前夜」の,繊細で脆い性質を持ったヒロインの心理描写も巧みで,自己評価の低さから自らを卑下する様子には,私自身の姿を見るようで,とても感情移入してしまいましたし,心へ痛切に迫るものを感じました。
小説を読むことでじんわりと沁みるような痛みを覚えたのも久し振りの経験で,歳を取るとこういう感覚も懐かしくて,愛おしく感じられるものなのだなという気づきが得られたりもして,大変良かったです。
第5話の「どうせこの夏は終わる」とpost creditは,作品タイトルを冠するに相応しく,それまでの話が一気に収束されていく展開で,息もつかせませんでした。
作品の内容自体が,作中でドキュメンタリー映画として撮影されたものであるというメタフィクション性は,読む人によっては好き嫌いが分かれるところかもなとは感じましたが,個人的にはメタフィクションな観点やメタな作風は大好物なので,むしろ大いに喜んでさらに評価を上げる結果となったのでしたw
読んでいる期間中に,ゲームの『ゼルダの伝説 BREATH OF THE WILD』にハマってしまった影響もあって,読み終わるまでにだいぶ日数が掛かってしまいましたが,ともに過ごしている間,とても楽しくて,愛しくて,倖せな時間を過ごすことができました。
作者の野宮有先生,素敵な作品を書いてくださってありがとうございました。
それこそ作中のように映画化とかされれば,もっと売れて流行ってもおかしくないくらいには,面白くて力がある作品だと思うんだけどな…。
でも大々的に世に打ち出されるというよりは,ミニシアターのように,優しくて,あたたかくて,作品のことを本当に好きな人がじっくりと噛み締めて鑑賞するという形式にこそ,向いているタイプの作品なのかもしれないですね。